エピローグ
∞少女人形の物語∞
開けられた窓から心地よい風とグラウンドから聞こえる元気いっぱいな声が入ってくる。
そんな部屋の中には莉乃と翔馬そして対魔部が揃っていて報告会を開いていた。
「というわけで、事件は無事に解決しました!」
「なるほど。最後は姫神の中に人形が消えたのか」
現場に居なかった司は目を閉じて思案する。
「もしくはあの人形が姫神から奪った心が戻っただけかもしれないがな。だが、これを見ちゃあ恐らく能力も受け継いでいる事だろう」
全員の視線が一斉にテーブルの上にいるサツキと遊んでいる小さい人形に注がれる。視線に気づいた人形は莉乃の膝へ慌てて飛び込みしがみつく。
「これは本当に解決してるのか?」
「どうなんだろうね?この子にも少し意思はあるけど、アタシが思った通りにも動いてくれるの」
翔馬は人形の頭を軽く突きながら聞くが莉乃は首を傾げるばかりだ。
莉乃は昨夜用心のために夕映とサツキと共に過ごし別室では霧島が待機していたが特に何も起こらず、久々に悪夢も見る事なくぐっすりと眠った。
目を覚ました莉乃は昨日の出来事を思い浮かべていると、急に胸元が暖かくなり目の前に光が現れた。
眩しさに目を覚ましたサツキは慌てて夕映を起こし、霧島を呼ぶ。光に警戒をするがただユラユラと揺れるだけだった。
「姫神。何か動物を思い浮かべてみろ。犬とか猫とかなんでも良いぞ」
「どうぶつ……むー」
霧島に言われ莉乃は子犬を想像してみた。すると光はゆっくりと形を変えて子犬のぬいぐるみの姿になったのだ。子犬は嬉しそうに尻尾を振り莉乃に擦り寄った。
霧島によると人形の魔好人は人形やぬいぐるみを召喚したり糸を出して物を操れる様になるらしい。
「で、今は昨日の人形を思い浮かべてこの姿ってことか」
「色々試してみたんだけどね。人形を3体くらい呼び出すことができたの。糸の出し方はよく分かんなかった」
「ボクから見ても、もうこの子には悪意は無いと思うよ。意思はあるけど莉乃ちゃんの思考に従って動いてるから」
サツキは翔馬の膝に乗り脚をパタパタとさせて言う。人形の意思はあるがとても弱いようで、莉乃の感情や考えにリンクして動く。悪さしようとしても莉乃がやめるよう命じれば従う。
「それで二人をここに呼んだのはな。結果報告もあるが、今後についても聞きたかったからだ」
「……今後についてですか?」
翔馬は訝しげに霧島の顔を見ると、霧島は苦笑する。
「本来この魔物は被害に遭わなければ一生関わる事はないだろう存在だ。だからこれからの生活に影響が出ない様に組織では二つの提案をしている」
「提案……ですか?」
「ああ。ただ問題は二人とも同じ案に乗ってもらわなきゃいけないんだけどな」
「別々の案には乗れない?」
「そうだ・まず一つ目は魔物に関する記憶を全て消す事だ」
「「え!?」」
「まあ記憶が消えるというより書き換えられるって言った方が正しいかな?例えば魔物に襲われたんじゃなくて暴漢に襲われそうになったとか」
「え、え?どうやって??」
「ここでようやっと私の出番ってわけ」
夕映は胸を張りひとつ頷くと自身の能力を説明する。
「私の能力は記憶操作。期間は最長で過去1ヶ月くらいね。操作といっても長期間の干渉の有無は本人の同意が必要だから、勝手に改竄しようとしても精々1日程度ね」
「1日程度でも勝手に書き換えられるなんてえげつねぇ能力持ってんな」
「まあ記憶を思い出させる様なことをされると操作が解けちゃう可能性もあるからそこまで万能じゃないわ。少しずつ影響を薄めていって後は自然に忘れる感じなのよ」
「二人とも同じ案になってもらいたい理由はこれだね」
夕映の説明に英佑が補足する。それを聞き翔馬は人形を指さす。
「莉乃のこの能力はどうなるんだ?」
「力は意識しなければ使えない。人形を出そうと思わなければもう出てこないだろう」
「もう既に検証されているんだ。実際、他の魔好人になった人達は魔物の記憶を失ったことで力を使う事はなかった」
「なるほど……」
「んで、もう一つの提案が本題な」
本題と聞き翔馬と莉乃は姿勢を正す。莉乃の膝の上では人形も同じようにピシッと座っている。
「お前らも対魔部に入らないか?」
「「…………へ??」」
翔馬と莉乃は揃って気の抜けたような声を出して霧島を見る。二人の視線を受けた霧島はニヤリと笑う。
「姫神の人形の力は使いこなせれば便利だからな。それにコミニュケーション能力も高い。岸波は度胸もあるし機転も効く。是非とも欲しい人材だ!」
まぁ危険が伴うから無理にとは言わんがと締めくくる。
翔馬は面倒事はごめんだが記憶を消されるのはなぁ、と悩み莉乃を見ると莉乃は瞳をキラキラと輝かせ拳を握っていた。
「莉乃?まさか……」
「やるっ!アタシは対魔部に入るっ!!」
「……本当にいいのか?今回よりも危険な目に遭う可能性もあるんだぞ?」
司の問いに莉乃は真剣な顔で頷く。
「だってアタシみたいに困ってる人が他にもいるかもしれないんですよね?それに今回アタシは何にも役に立てなかったから……恩返しも兼ねて入部したいです!」
「ふむ、となると岸波も強制入部になるがいいか?」
「う〜ん……」
「悩むくらいなら入ろうよ翔ちゃん!ボクも手伝うからさ」
悩む翔馬にサツキは任せろと言わんばかりに莉乃と同じキラキラと瞳を輝かせる。
「そうよ翔ちゃん!それに次は翔ちゃんの番かも知れないじゃない。アタシが守ってあげるよ!」
「……莉乃に守られるのもちょっとなぁ。というかサツキは元の世界に帰らなくていいのか?」
「こっちの依頼も詰まっちゃっててねぇ。クリアするまでは帰れないし別にいいよ」
「そうだよねぇ。もう魔物との縁がつながっちゃったし……岸くんが襲われるかもしれないんなら一緒にいた方が楽だよねぇ」
「うんうん。巻き込まれた人が次の魔好人になる可能性も高いし」
「よーしよーし。二人のことは先生から季節部の部長にも伝えとくからな!」
「ま、待ってください!俺まだ考え中……!」
「記憶なんていつでも消せるし入部けってーな!岸くん」
「そ、そんなぁ!桜庭先輩もなんか言ってくださいよ!」
強制的に決まりそうな雰囲気に焦る翔馬は司に助けを求めるが、仕事は終わったと言わんばかりに読書を始めてしまった。
「まぁまぁ。それに季節部も楽しいぞ?ほぼ遊んでばかりの部活だからな」
「春は花見してー初夏にはキャンプ!秋は紅葉を見て、冬はクリスマスパーティをやるんだよ」
「わぁー楽しそう!いっぱい遊ぼうね翔ちゃん!」
「まぁ他に入りたい部活もねぇし……。はぁ、しょうがないか」
莉乃の元気な姿を見て翔馬はどうでもよくなった。幸先の悪い高校生活のスタートだが、この仲間達となら楽しめそうな気がすると翔馬は諦める。
「それじゃあ「「よろしくお願いします」」」
途中から莉乃とサツキも被せてきて挨拶すると霧島たちは嬉しそうに笑う。
ふと司の方を見ると僅かだが口角が上がっている。歓迎してくれているようだ。
「「「ようこそ、対魔部兼季節部へ!!」」」
莉乃のそばにいる少女の人形が嬉しそうに笑う。
こうして翔馬たちの奇怪な高校生活が幕を開けたのだった。
〜少女人形の物語・完〜
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