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魔好人  作者: 覇夜
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第九話

∞瞳に映る思い出∞

「サツキ!?」


「はぁい翔ちゃん。お元気だった?」


「いやお前……何でここに!」


「ボクにも色々あるの!ここの人形達みんな始末して落ち着いたら教えたげるよ」


 サツキは先程蹴飛ばした少女人形に向き直り警戒する。少女はゆらりと立ち上がりサツキを忌々しげに睨みつけている。


 翔馬は莉乃を抱え直し今の状況を必死に整理する。

 周りにはいつの間にか翔馬たちを囲うように巨大な人形の壁が立っており、ぐるぐると回っている。中にいるのは翔馬と莉乃、サツキ……そして本体であろう人形の少女だ。

 多少狭いが今がチャンスでは無いだろうかと翔馬は思案し、サツキにそっと声をかける。


「サツキ、お前バリアーみたいのって張れるか?俺達を覆えるくらいの」


「ふふっ。何か案があるんだね?魔法ならお安い御用さっ!一瞬で張ってあげるよ」


「じゃあ合図を送ったら俺のそばにきて魔法を使ってくれ。お前も危ないからバリアーに入るんだぞ」


「ん。了解さー。準備が終わるまであの子は引きつけとくよ」


「サンキュー。出来ればこの小瓶の中身をあの人形に掛けれるか?」


 翔馬は鞄のポケットから小瓶を取り出しサツキへ渡す。サツキは受け取ると器用に蓋を取り瓶の口に鼻を近づけ中の匂いを嗅いだ。


「何の液体……?あ〜、なるほどねぇ。任せてよ!」


 サツキが人形の少女へ駆けると同時に翔馬は鞄からボロボロの雑巾と針金を取り出し木の棒の上側へ巻き付けた。次いで鞄から瓶を取り出し中身の液体を雑巾にたっぷりと染み込ませる。余った液体は瓶ごと周りの人形に投げ付けた。投げた瓶は人形にぶつかりそのまま割れると辺りに液体を撒き散らしていく。

 準備が完了し翔馬がサツキの方を見ると、サツキはピョンピョンと跳ね回り少女人形の攻撃を交わしながら

人形へ瓶の中身をかけていく。

 少女人形は髪を伸ばしサツキを捕らえようと動かし、鋭く尖った指でサツキを切り裂こうと縦横無尽に振り回している。


<アア“モウッ!!チョコマカト動クナ!グッ、ナンダコノ液体ハ……>


「ふーん。人化してるっと、割にはよっと。嗅覚はないんだねぇ。流石お人形ちゃん」


<舐メルナァァアアアッ!!!>


「サツキ!!こっち来い!」


「待ってました!!」


 サツキは瓶を人形に投げつけるとクルッと大きくバク転して翔馬の前に着地すると、前足を大きく広げ呪文を唱えると翔馬を中心に魔法陣が現れた。

 翔馬はポケットからライターを取り出すと液体のたっぷり染み込んだ雑巾へ火をつける。

 火を見た瞬間、少女人形はビクリと大きく肩を揺らす。


<火!?……この液体はまさか!!>


「魂の宿った人形を倒す方法は……火葬で供養することだ!!」


<ヤメロォオオオアアアアアアアア“ア”ア“!!>


「燃え上がれ!!」


 怒りに任せてこちらへ向かってくる少女人形へ翔馬は燃え盛る木の棒を投げ付ける。怯んだ隙にサツキが結界を発動させると少女人形を中心に瞬く間に炎が燃え広がった。

 ぐるぐると回る人形たちにも火が燃え移り熱が中央に集まっていく。

 炎はぐるぐると渦を巻きながら天へと昇り、瞬く間に火柱へとなっていった。


「うっひゃー、大迫力!!」


「こっわ」


<アヅイ……!ア”ア“ッ!!……アツイィ………!>


 ガラスの様になった莉乃の瞳に燃える人形が映し出される。





⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎





「あっち、あっちち!!」


「火柱!?岸波達は無事か!?」


 本体に何かあったらしく壁の外側にいた人形達は弱体化したため全て倒すことができた。足元には死屍累々と人形の残骸が散らばっている。

 あとは目の前に立ちはだかる人形の壁を破壊すれば翔馬達と合流できるだろうとグルグルと回っていた猫型の巨大な人形の壁を見ると、突然炎を纏い火柱があがった。

 霧島は全員に水の膜を張った。


「……一昨日岸くん達を助けたウサギの声が聞こえます。でも何で姫ちゃんの家に居るんだ??」


 聴力を強化した英佑は辛うじて声を聞き取ることができたが会話の内容までは分からない。


「あの少女人形が苦しんでいる声は聞こえる……。けど二人の声はよく聞こえない」


「うー、もうもう!人形火だるま作戦を実行したのはいいけど、ちゃんと安全を確保してからやったのかしら!?」


 夕映はハラハラと火柱を見守っている。

 今回の作戦は人形の魔物の基本的な対処法である燃やして処分するというものだ。

 人形は人に大事にされることで魂が宿ると言われている。だから現代でも人形を感謝の気持ちを込めて火葬するという習慣があった。

 今回はそんな魂の宿った人形に魔物が憑いたことで、持ち主への執着が強まりこの騒動が起きたと辺りをつけたのだ。


「岸くんは何だかんだで冷静に状況を判断る事はできる。多分、ウサギになんとかしてもらっていると信じよう」


「人形の声が消えたら俺の力で消化する。英佑は声を聴き続けろ」


「了解です」


 英佑が耳を澄ませると人形の怨めしい苦しむ声が聞こえたが、何か重たいものが倒れる音がした後はだんだん小さくなりやがて何も聞こえなくなった。

 燃え盛っていた人形の壁もボロボロと崩れ落ち灰の山になっていく。

 英佑は耳に手を当てながら霧島に合図を送る。


「先生、そろそろ大丈夫そうです」


「よし、少し離れていろ」


 霧島が少し落ち着いてきた炎に水の刃を向け手を上に振ると、雨の様に水が降り注ぎやがて火はおさまっていった。

 水が止むと後には崩れ落ちた人形達の灰は消え、後には中央に元の大きさに戻った莉乃と放心状態翔馬と疲れた顔のサツキ。

 そしてボロボロにあちこち焼け焦げ小さくなった少女人形が残っていた。


「お前達、怪我は無いか?」


「……っ!?は、はい!あれっ?莉乃も元に戻ってる……」


 翔馬はハッとし霧島に応えると、莉乃が戻っていることに気づく。莉乃は自分の体を眺め、泣きそうな顔で翔馬を見た。


「翔ちゃん……戻ったよ」


「ああ」


「あとね、アタシ、おも……<……ウゥゥ>……!?」


 莉乃と翔馬はうめき声にビクリと肩を揺らし声の方を見る。

 英佑達は翔馬達の前に立ち焦げた人形を睨みつける。


「……まだ生きてるのか?」


 少女人形は僅かに指を動かし顔を上げようとするがそれ以上はどうにもならないのだろう。焼け焦げて僅かに残った前髪の隙間から恨めしそうに彼らを睨みつける。


「……莉乃!?」


「もう、大丈夫だよ……」


 そんな人形の様子を見て莉乃は立ち上がり近づこうとするのを翔馬は慌てて止めようとするが莉乃は柔らかく笑いゆっくり歩を進める。莉乃は人形の前でしゃがみ込むと優しく人形の頭を撫でた。

 

「ごめんね……燃えてしまった貴女を見てやっと思い出したの。貴女は、アタシが小さい頃にお兄ちゃんが買ってくれたお人形さんだったね……」


<……やっと…思い出して…くれた、の、ね?>


「うん」


 莉乃が小さい頃、莉乃の誕生日が夏休み中だった事もあり、旅行で父が昔住んでいたという田舎へ遊びに行った。莉乃の手には旅行の前日に兄から貰った金髪の愛らしい少女の人形が抱えられていた。

 父が昔住んでいた家はとても広く、莉乃も響も大はしゃぎで探検をしたりかくれんぼをした。

 特に好きだったのがもう使われていない離れにある倉庫に置いてある家具を使ったおままごとだった。そこで兄と人形を使って遊んでいる時、うっかりカセットコンロに火を着けてしまい倉庫は火事になってしまった。

 響が手を引き倉庫から無事に脱出できたが、莉乃は中に人形を置いて行ってしまった。


「泣きじゃくってるうちにいつの間にか倉庫の火は消えてて、お父さんとお母さんにすっごく心配されて……。ビックリしすぎてその時は人形を置いてきたことは忘れてたの。後から思い出してお父さんと一緒に倉庫を探したけど見つからなくて……」


「ああ、それで旅行から帰ってきた後も大泣きだったんだっけな」


「岸波もその事は知ってたのか?」


「莉乃と人形の事を思い出そうとはしたんですけど、帰ってきて泣いてた事くらいですね。俺自身は人形を見てないから覚えてなかったんだ」


「アタシもあの後お兄ちゃんに代わりにって別のおもちゃ貰って、貴女のことを忘れちゃった。ごめんね。大切に思ってくれてありがとう」


 莉乃は少女人形を大事そうに抱え少なくなった髪を優しくすいた。人形の瞳から一筋の雫が流れ落ちる。


<……思い出してくれてありがとう。莉乃お姉ちゃん……. .>


 涙が莉乃の胸に落ちるとボロボロだった人形は元の姿に……優しい顔をした愛らしい少女の人形へ変化して莉乃へ笑い、丸い光の姿になると莉乃の中へと溶けていった。




 元凶となった人形の魔物が消えると大きかった響の部屋が縮み始め、大火事などなかったかの様に元の部屋へと戻った。

 流石に5人と1匹?となると狭かったので、翔馬達はリビングへと移動した。

 翔馬はソファーに腰掛けグーと体を伸ばし詰めていた息を吐く。


「あ“〜っ!やっと終わったぁ」


「お疲れだねぇ翔ちゃん」


 サツキは翔馬の膝の上に座りにぱっと笑う。


「みんな……本当にありがとう!!最初はすっごく怖かったし不安だったけど、お陰で大切なモノを思い出すことができたの」


 莉乃は胸に手を当て心から嬉しそうにそう言って笑った。


「おめでとう莉乃ちゃん。莉乃ちゃんが人形の事を思い出したから、きっとあの人形の魂も浄化されたのね」


「だと……良いんだけど」


「姫神」


 莉乃は呼ばれ顔を向けると霧島は少し真剣な表情で考え込んでいた。


「もしかしたら、俺たちみたいにお前にも魔物の力が宿っている可能性がある」


「アタシにあの子の力が?」


「そうだ。だから今日はまだ夕映と一緒にいろ。夕映も何かあったらすぐに俺に連絡する事」


「了解です。さぁてと、私たちはこの後報告書の作成だったかしら?忘れないうちにまとめとかなきゃ」


「面倒くさいが、取り敢えず今回の経緯を全て書き起こすかぁ」


「じゃあ俺は司にでも終わった連絡するか。えーと、四時半頃だったから……うわぁもう八時過ぎてるじゃん」


「げ、母さんからめっちゃメール来てる」


 夕映と霧島は報告書の打ち合わせをしているのを見て英佑は司へ報告の連絡をしようと携帯を探す。時刻を確認するとだいぶ時間が経っていた様だ。

 翔馬も携帯を見ると母からの夕食を知らせるメールがきていた。


「そういや泊まるって話だったもんね。じゃあ報告は先生と夕映に任せて俺たちは岸くん家に行こう!」


「明日は休みだが午後から対魔部の部室に集合だ。姫神と岸波もな」


「了解です。それではお先に失礼します!」


「じゃあねぇ」


 翔馬は英佑を引き連れ慌てて家へ帰った。

 サツキは念のためにと夕映と共に莉乃の家に泊まるのだった

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