第41話 つなぐための日々
選び終えた線は、一本にはならなかった。
翌朝、資材置場には長さの違う束が三つ並んだ。端に巻いた布へ番号が書かれ、継ぐ位置を示す札が下がっていた。レンは腰掛けに座り、前の日の紙と照らし合わせた。
「二つ目、端の札が逆だ」
担ぎ上げかけた隊員が束を下ろした。ミオが被覆の印を見て、札を取り替える。
「合ってる。こっちが第三炉側」
間違えたままでも、荷は運べた。現場でほどくまで気づかなければ、向こうでまた調べることになった。
レンは紙の番号に線を引いた。
先発隊にはガドがついた。支持材と線を分けて担ぎ、長い物を曲がり角でどう渡すか確かめてから出ていく。第三炉までの道は知っていても、荷を持つ者の幅は違った。
「お前たちは今日、こっちを頼む」
ガドが言った。
レンはミオと残った。杖を使う右手では荷を持てず、左腕は添えの中にあった。
先発の足音が消えてから、ミオは細い別の束を持ってきた。
「連絡用。太い線より先に、返事が戻る方を直す」
レンは継ぎ口の符号を読んだ。ミオが違う形の端を除き、技師が導通を調べる。午前の終わりには、右手で書いた数字が少し傾いていた。
「そこで休んで」
ミオに紙を引かれた。レンは指を伸ばした。掌に汗が溜まり、紙の角が湿っていた。
昼の配給には、運搬役の分を別に包む者がいた。広間へ運ばれる桶を眺めながら、水を飲んだ。自分が休む間にも、束は道の途中にある。
その日の終わり、戻った運搬役から受取の札が届いた。第三炉に材料を置き、両端を切り離して作業札を掛けたと書いてあった。
まだ、線はつながっていなかった。
次の朝、ミオとレンは内郭の倉裏へ向かった。前にエダへの声を聞いた点検口だった。隊員に支えてもらって階段を下り、レンは小部屋の入口近くに置いた台へ座った。
技師は扉の先の区間も前日までに調べたと報告した。第三炉側と連絡が取れるところまで細い線を直し、この部屋に受話器を戻していた。
ミオが呼びかけた。
少し間があった。返ったのは古い声ではなく、ガドの掠れた声だった。
「第三炉側。切離し、確認した」
ミオが言葉を繰り返した。手元の時計を見た技師が頷く。レンは紙に、応答した者と位置を書いた。
向こうでは、潰れた支えを外すところだった。見えない作業の速さは分からない。次に受話器が鳴った時には、昼の食事を終えていた。
「旧い支えが噛んでる。線を引くのは明日に送る」
ガドの声だった。
ミオは作業を延ばすようには言わなかった。今日閉じる箇所を聞き、こちらの端も保護する。借りた出力を戻したと技師が伝えるまで、紙の最後の欄は空けておいた。
レンは夕方、階段を上がる途中で休んだ。
直らなかった一日を、何も進まなかったと思いかけた。だが支えを外せなければ、替えた線をまた挟む。ガドたちは暗くなる前に第三炉の詰所へ戻り、そこから翌朝また出ると聞いていた。
自分が急いだところで、向こうの鉄は柔らかくならない。
さらに翌日、支えを替えたという返事が来た。
レンは受話器の脇で番号を読んだ。こちらの紙、ミオの図、向こうで線の端を持つ技師。その三つが合うまで、次の端を呼ばなかった。
午後になって、最後の継ぎ目を閉じたと報告があった。支持部の作業を始めてから、丸一日では収まらなかった。
ミオは生活側と門側を切り離したまま、区間ごとの測定を始めた。
最初の針は、決めた範囲へ入った。
二つ目は、戻りが遅かった。
技師が先を持ち直しても同じだった。ミオは紙へ数を書き、試験を止めた。
「線の途中か、端かを分ける」
端末を一つ外して測る。次を外す。レンは外した番号と、戻していない箇所を別々に記した。
倉裏のさらに奥にある接続箱を外した時、値が変わった。
運ばれてきた箱の底には湿った粉が溜まっていた。内側の絶縁材に細い割れがあり、触れたミオの布へ黒い筋がついた。
「電気が逃げてる。新しい線を通しても、ここから先へ送れない」
レンは箱を見た。第一炉も第三炉も、核は残っている。それでも、途中にこの小さな箱があるだけで、三つをつなぐ条件は満たせなかった。
割れた絶縁材を外し、汚れを落とした。交換片を合わせて封止した後も、ミオは蓋を閉じなかった。
「乾くまで待つ。表だけ触って決めない」
予定を書いた紙から、その日の給電試験が消えた。
その晩、資材置場の明かりの下で、ミオはレンの胴へ幅の広い帯を回した。
鉤と索は、受取役から調整用として借り出されていた。刀は預けたままだった。
帯の右脇に金具がつく。そこを通した索を、ミオがゆっくり引いた。腕ではなく肋骨の辺りへ力が来た。
「痛む?」
「腕は揺れない。ここが押される」
右手で場所を示した。
ミオが当て布をずらす。もう一度、弱く引く。今度は一点へ食い込まず、胴の周りが締まった。
「強く引かれた時は、別に確かめる。今日は掛け方だけ」
手首へ向かう短い部分には、たるみを残した。壊れた留めに張力を掛けず、信号の線だけを元の端子へ導く形だった。
レンは右手で鉤を持った。左腕は固定したまま、右側から身体の前へ運ぶ。
「刀と一緒には使えないな」
「持ち替える時間が要る。そこも書いておこう」
ミオは頷いた。何かの機械へ触れさせることはしなかった。鉤と索を外して調整箱へ戻し、帯だけを緩めた。
翌朝も、レンは同じ腕の痛みで目を覚ました。
倉裏へ下りる前に、配給と炉番の確認が届いた。前日と同じ人数ではなかった。移動を終えた家があり、運搬役の割当ても変わっていた。技師がその日の試験分を確かめ、ミオが受け取った。
乾かした接続箱を、つなぐ前に単体で測った。
針が止まるのを待つ。前の値と比べる。時間を置いてもう一度。
ミオがようやく頷いた。
箱を戻し、切り分けた箇所を図と照合した。受話器で各端を呼ぶたび、レンは復唱を聞いてから印をつけた。古い図に細い線で残る区間も、省かなかった。
最後の欄が埋まる頃には、右手の指先が冷えていた。
「全区間、無負荷では通った」
ミオが言った。
レンは紙から顔を上げた。
「三つ、つながったのか」
「まだ。力を送っていない。門側の最後の処置と、実際の接続確認が残ってる」
技師が測定器を外した。供給側の切離し札は、そのまま掛かっていた。
レンは完了と書かれた測定の欄を見た。隣の接続の欄は白かった。
帰れる日を数える代わりに、今日はここまでできたと読んだ。




