第15話 閉じられる通路
朝、トワの作業台には、まだ誰も座っていなかった。
レンは杖を壁へ立て、昨日使った三つの皿を並べた。厚い環、薄い環、曲がったもの。見本をそれぞれの手前へ置く。
「今日は昼前までなら」
管の向こうから来たトワに、レンは言った。
「ガドと受け渡し場へ行く。回収品の数を合わせる仕事だ」
「分かった。じゃあ、その箱だけ。途中で混ぜないようにね」
トワは仕事の札に短い線を引いた。それから工具を数え、昨日と同じ場所へ置いた。
待っていてほしくないなら、先に言う。それで済む話だった。
レンは箱の蓋を開けた。
約束の時間にガドが来たとき、最後の皿を確かめていた。数を伝え、見本を箱へ戻す。トワは頷き、空いた椅子を台の下へ押し込んだ。
受け渡し場は、外門を出てすぐの庇の下にあった。防護線の柱が二つ、その両端に立っている。奥へ行けば瓦礫の斜面で、そこから先はガドの隊と一緒でなければ出ないよう言われた。
荷車に載ってきた管を、長さごとに分けた。レンは腰掛けて札を読み、数を呼ぶ。ガドと隊員が実物を確かめ、別の荷車へ積み替えた。
風に混じって、乾いた金属音がした。
顔を上げると、灰白色の装甲が庇へ入ってきた。
シグだった。背負い袋は薄く、片方の肩紐を胸の前で握っていた。右足を置いてから左足を引き寄せるまで、わずかな間があった。
「戻ったのか」
「水と、食えるものが要る」
シグは腰掛けの端に袋を下ろした。中から回収したらしい金具を出し、受け渡しの係へ見せる。係は一つずつ調べ、二つを押し返した。
残りと引き換えに、シグの前へ小さな包みと水の容器が置かれた。
ガドがこちらを見た。
「ここで待て。奥の荷を見てくる」
レンが頷くと、ガドは係と一緒に保管庫へ入った。扉は開いたままで、荷を引く音が聞こえていた。
シグがレンの右膝へ目を落とした。
「部品は合ったか」
「機械は直った。中はまだ痛む」
「動くところまで直れば、先へ行ける」
男は水を一口飲んだ。蓋を閉める指が震え、ねじ山を二度探った。
「二つ目は?」
「まだだ」
レンは中央炉のことを話した。接続だけでも許されなかったこと、観測の記録を出し直したこと。話しているうちに、待つ以外のことは何もしていないような気がしてきた。
「ヴァルクか」
シグは容器を袋へ戻した。
「前もそうだった。危ないと言うだけなら、何も決めずに済む」
「前の門の計画を知ってるのか」
「俺もいた」
レンは男の顔を見た。
「外縁が壊れたと聞いた」
「設備を失った。そこから先を、あいつは全部閉じた」
「何をしたんだ」
シグは開いた保管庫の扉を見た。
「ここで説明できる長さじゃない」
レンは返事を待ったが、男は包みを袋へ詰めた。ガドの声が奥でした。もうすぐ出てくるのだろう。
「中央炉には、古い保守路がある」
シグが低く言った。
「表の二つの錠を通らずに入れる。俺はその道を知ってる」
レンの手が、膝の上で止まった。
「許可は」
「要ると思うなら、待てばいい」
ガドが箱を抱えて戻ってきた。シグはもう口を閉じ、水の袋の紐を結んでいた。
レンは札を拾った。次の数を読み上げるまでに、少し時間がかかった。
仕事が終わると、シグは庇の隅に座っていた。荷の受け渡しが済むまで、そこにいてよいらしい。レンたちは空箱を積んで門へ戻った。
ミオが修繕場で待っていた。
机には提出した紙が広げられていた。端に別の手で文字が足されている。レンは椅子へ腰を下ろし、読んだ。
確認継続。接続は認めず。
「調べるのは?」
「認証口の場所で測るのも、今は保留。先に古い保守記録を確認するって」
「その記録を見せてくれと言ったんだろ」
「頼んだ。まだ受け取ってない」
ミオは紙を奪い返さなかった。レンが最後まで読めるよう、端を押さえていた。
部屋の外で、重い板を下ろす音がした。
戸口を覗くと、作業員が二枚の鉄板を壁へ立て掛けていた。片方には新しい穴が開き、留め具が布袋に分けてあった。
「どこへ使う」
ガドが尋ねた。
「中央炉の旧保守口。明朝、塞ぐ」
レンは立ち上がった。杖を取るのを忘れ、右膝に力が掛かって顔をしかめた。
ミオが杖を差し出した。
「決まった話なのか」
レンが聞くと、作業員は折った指示書をガドへ渡した。ミオも横から読み、眉を寄せた。
管理長の印があった。
「床の支持部に損傷、通常点検には使用しないこと。無断立ち入り防止のため封鎖」
ガドが読み上げた。
「申請への返事より先に、道を閉じるのか」
「この口を通る許可は、もともと出ていない」
ガドは指示書を作業員へ返した。
「閉じる理由も書いてある。そこを一緒にするな」
レンは鉄板を見た。
傷んでいるなら、支えを直す方法もあるはずだった。だが用意されているのは、通れるようにする部材ではなかった。
「この道が閉じても、正面の保守扉は残る」
ミオが言った。
「調べる方法までなくなったわけじゃない」
「その扉を開けてもらえない」
答えてから、彼女に言っても仕方がないと思った。ミオは観測をまとめ、もう一度持っていった。その結果が机の上にある。
レンは声を落とした。
「記録が来たら、教えてくれ」
「もちろん」
まだ日は残っていた。
ガドが空の袋を持って戸口へ向かった。受け渡し場に預けた道具を引き取るという。レンは自分も行くと言った。
「脚を休めろ」
「座って待つ。運ぶのは頼む」
ガドは顔を見た。しばらくして、ついて来いと言った。
受け渡し場には、まだシグがいた。
庇の外へ出かけていた男は、レンを見ると足を止めた。ガドは係から道具袋を受け取り、一本ずつ中身を確かめ始めた。
レンは腰掛けへ座った。
「明日の朝、塞ぐそうだ」
シグはすぐに意味を理解したらしかった。
「古い口か」
「支持が傷んでる。指示書を見た」
「傷んでない道なんか、ここにはない。踏める場所を選ぶんだ」
レンは男の止まりかける脚を見た。
「通れるのか。その脚で」
「通ったから、知ってる」
シグは庇の外の低い壁を指した。
「今夜、あの排水口の脇にいる。明け方には離れる。来るなら、それまでだ」
風が吹き、水の容器が袋の中で鳴った。
「証印だけでも取れば、お前が進めると分かる。あいつの見えない文字より、話は早い」
レンは手首を押さえた。
一つ目は確かに取れた。炉も止まらなかった。二つ目でも同じだと示せれば、認めてもらえるだろうか。
ガドの道具袋で、留め金が閉じた。
「レン。戻るぞ」
レンは杖を取った。
シグは返事を求めなかった。灰白色の肩を風へ向け、ゆっくり坂を下りていった。
門へ歩きながら、レンは管理室で出した紙の端を思い出していた。確認継続。日付はなかった。
明朝の封鎖には、日付があった。




