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奈落の帰還者 ― 黒鎧の門  作者: 山本田38ページ
第2章 熱を奪う者
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第15話 閉じられる通路

 朝、トワの作業台には、まだ誰も座っていなかった。


 レンは杖を壁へ立て、昨日使った三つの皿を並べた。厚い環、薄い環、曲がったもの。見本をそれぞれの手前へ置く。


「今日は昼前までなら」


 管の向こうから来たトワに、レンは言った。


「ガドと受け渡し場へ行く。回収品の数を合わせる仕事だ」


「分かった。じゃあ、その箱だけ。途中で混ぜないようにね」


 トワは仕事の札に短い線を引いた。それから工具を数え、昨日と同じ場所へ置いた。


 待っていてほしくないなら、先に言う。それで済む話だった。


 レンは箱の蓋を開けた。


 約束の時間にガドが来たとき、最後の皿を確かめていた。数を伝え、見本を箱へ戻す。トワは頷き、空いた椅子を台の下へ押し込んだ。


 受け渡し場は、外門を出てすぐの庇の下にあった。防護線の柱が二つ、その両端に立っている。奥へ行けば瓦礫の斜面で、そこから先はガドの隊と一緒でなければ出ないよう言われた。


 荷車に載ってきた管を、長さごとに分けた。レンは腰掛けて札を読み、数を呼ぶ。ガドと隊員が実物を確かめ、別の荷車へ積み替えた。


 風に混じって、乾いた金属音がした。


 顔を上げると、灰白色の装甲が庇へ入ってきた。


 シグだった。背負い袋は薄く、片方の肩紐を胸の前で握っていた。右足を置いてから左足を引き寄せるまで、わずかな間があった。


「戻ったのか」


「水と、食えるものが要る」


 シグは腰掛けの端に袋を下ろした。中から回収したらしい金具を出し、受け渡しの係へ見せる。係は一つずつ調べ、二つを押し返した。


 残りと引き換えに、シグの前へ小さな包みと水の容器が置かれた。


 ガドがこちらを見た。


「ここで待て。奥の荷を見てくる」


 レンが頷くと、ガドは係と一緒に保管庫へ入った。扉は開いたままで、荷を引く音が聞こえていた。


 シグがレンの右膝へ目を落とした。


「部品は合ったか」


「機械は直った。中はまだ痛む」


「動くところまで直れば、先へ行ける」


 男は水を一口飲んだ。蓋を閉める指が震え、ねじ山を二度探った。


「二つ目は?」


「まだだ」


 レンは中央炉のことを話した。接続だけでも許されなかったこと、観測の記録を出し直したこと。話しているうちに、待つ以外のことは何もしていないような気がしてきた。


「ヴァルクか」


 シグは容器を袋へ戻した。


「前もそうだった。危ないと言うだけなら、何も決めずに済む」


「前の門の計画を知ってるのか」


「俺もいた」


 レンは男の顔を見た。


「外縁が壊れたと聞いた」


「設備を失った。そこから先を、あいつは全部閉じた」


「何をしたんだ」


 シグは開いた保管庫の扉を見た。


「ここで説明できる長さじゃない」


 レンは返事を待ったが、男は包みを袋へ詰めた。ガドの声が奥でした。もうすぐ出てくるのだろう。


「中央炉には、古い保守路がある」


 シグが低く言った。


「表の二つの錠を通らずに入れる。俺はその道を知ってる」


 レンの手が、膝の上で止まった。


「許可は」


「要ると思うなら、待てばいい」


 ガドが箱を抱えて戻ってきた。シグはもう口を閉じ、水の袋の紐を結んでいた。


 レンは札を拾った。次の数を読み上げるまでに、少し時間がかかった。


 仕事が終わると、シグは庇の隅に座っていた。荷の受け渡しが済むまで、そこにいてよいらしい。レンたちは空箱を積んで門へ戻った。


 ミオが修繕場で待っていた。


 机には提出した紙が広げられていた。端に別の手で文字が足されている。レンは椅子へ腰を下ろし、読んだ。


 確認継続。接続は認めず。


「調べるのは?」


「認証口の場所で測るのも、今は保留。先に古い保守記録を確認するって」


「その記録を見せてくれと言ったんだろ」


「頼んだ。まだ受け取ってない」


 ミオは紙を奪い返さなかった。レンが最後まで読めるよう、端を押さえていた。


 部屋の外で、重い板を下ろす音がした。


 戸口を覗くと、作業員が二枚の鉄板を壁へ立て掛けていた。片方には新しい穴が開き、留め具が布袋に分けてあった。


「どこへ使う」


 ガドが尋ねた。


「中央炉の旧保守口。明朝、塞ぐ」


 レンは立ち上がった。杖を取るのを忘れ、右膝に力が掛かって顔をしかめた。


 ミオが杖を差し出した。


「決まった話なのか」


 レンが聞くと、作業員は折った指示書をガドへ渡した。ミオも横から読み、眉を寄せた。


 管理長の印があった。


「床の支持部に損傷、通常点検には使用しないこと。無断立ち入り防止のため封鎖」


 ガドが読み上げた。


「申請への返事より先に、道を閉じるのか」


「この口を通る許可は、もともと出ていない」


 ガドは指示書を作業員へ返した。


「閉じる理由も書いてある。そこを一緒にするな」


 レンは鉄板を見た。


 傷んでいるなら、支えを直す方法もあるはずだった。だが用意されているのは、通れるようにする部材ではなかった。


「この道が閉じても、正面の保守扉は残る」


 ミオが言った。


「調べる方法までなくなったわけじゃない」


「その扉を開けてもらえない」


 答えてから、彼女に言っても仕方がないと思った。ミオは観測をまとめ、もう一度持っていった。その結果が机の上にある。


 レンは声を落とした。


「記録が来たら、教えてくれ」


「もちろん」


 まだ日は残っていた。


 ガドが空の袋を持って戸口へ向かった。受け渡し場に預けた道具を引き取るという。レンは自分も行くと言った。


「脚を休めろ」


「座って待つ。運ぶのは頼む」


 ガドは顔を見た。しばらくして、ついて来いと言った。


 受け渡し場には、まだシグがいた。


 庇の外へ出かけていた男は、レンを見ると足を止めた。ガドは係から道具袋を受け取り、一本ずつ中身を確かめ始めた。


 レンは腰掛けへ座った。


「明日の朝、塞ぐそうだ」


 シグはすぐに意味を理解したらしかった。


「古い口か」


「支持が傷んでる。指示書を見た」


「傷んでない道なんか、ここにはない。踏める場所を選ぶんだ」


 レンは男の止まりかける脚を見た。


「通れるのか。その脚で」


「通ったから、知ってる」


 シグは庇の外の低い壁を指した。


「今夜、あの排水口の脇にいる。明け方には離れる。来るなら、それまでだ」


 風が吹き、水の容器が袋の中で鳴った。


「証印だけでも取れば、お前が進めると分かる。あいつの見えない文字より、話は早い」


 レンは手首を押さえた。


 一つ目は確かに取れた。炉も止まらなかった。二つ目でも同じだと示せれば、認めてもらえるだろうか。


 ガドの道具袋で、留め金が閉じた。


「レン。戻るぞ」


 レンは杖を取った。


 シグは返事を求めなかった。灰白色の肩を風へ向け、ゆっくり坂を下りていった。


 門へ歩きながら、レンは管理室で出した紙の端を思い出していた。確認継続。日付はなかった。


 明朝の封鎖には、日付があった。


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