↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逹長と景直 〜洲本城陥落〜  作者: 熱田大
岸和田合戦
PR
21/30

第21話 住吉天王寺の攻防

(波の音。遠くで鬨の声)


住吉付近。


海上に展開する四国水軍と、陸上を進む紀州勢。


その先頭に立つ逹長は、対岸の羽柴勢を眺めていた。



無数の旗。


その中に――


一際見覚えのある旗があった。


「……あれは」


逹長が目を細める。


「生駒殿か」


側近が尋ねる。


「ご存じなのですか?」


「知っている」


逹長は、しばらくその旗を見つめた。


「岩屋城以来か」


三年前。


淡路・岩屋城。


淡路攻めの先陣だった将…


「律儀な将だった」


逹長は、ふっと笑う。


「今も律儀に、わしの前へ出てくるか」



(法螺貝)


陸では紀州勢が動き始めていた。


「逹長様!」


「うむ」


逹長は振り返る。


船から兵たちが上陸を始めていた。


土佐。


阿波。


淡路。


一年かけて集め、育てた兵たち。


海の一領具足。


逹長は兵たちを見渡した。


「皆、聞け!」


兵たちが足を止める。


「これより我らは、敵の脇腹へ回る!」


「だが――」


逹長は指を一本立てた。


「間違っても、味方の鉄砲に当たるなよ!」


兵たちから笑い声が起こる。


「我らが敵へ近づきすぎれば、紀州の鉄砲が撃てぬ!」


「だから――」


「敵の脇腹を突くと見せるだけでよい!」


「敵が縮こまったところを――」


逹長は、紀州勢の鉄砲隊を指した。


「紀州の鉄砲が撃ち抜いてくれる!」


(歓声)


「我ら水軍はな――」


「水の上でこそ本領を発揮する!」


「陸で無理をするな!」


「敵を追い詰めるのは陸の兵に任せろ!」


「我らは海から脅かし、敵を海へ追い落とす!」


逹長は笑った。


「陸で死ぬな!」


「船に戻ってこい!」


「それが一番の働きだ!」


兵たちが笑いながら声を上げる。


「おお!」


「分かったか!」


「おお!」


「ならば――」


逹長が東を指す。


「行け!」


(鬨の声)



四国水軍が動いた。


紀州勢も進む。


(鉄砲の音)


一発。


二発。


やがて――


一斉射撃。


羽柴勢が押される。


四国水軍が側面へ回る。


敵がそちらを向けば、紀州勢の鉄砲が撃ち込まれる。


正面を見れば、紀州勢が迫る。


海を見れば、四国水軍がいる。


羽柴勢は徐々に後退していった。


(太鼓)


「押せ!」


「進め!」


紀州と四国。


二つの軍勢が、少しずつ敵を追い詰めていく。


そして――


その先に見えてきたもの。


ーー大坂。





三月二十五日。


連合軍は、ついに天王寺まで押し上げていた。


大坂城は――


もう、目の前だった。


⸻


(夜。陣中)


大坂城攻めを翌日に控え、紀州勢の陣では評定が開かれていた。


集まっているのは、紀州の諸勢力。


雑賀衆。


根来。


その他、紀州各地から集まった兵たち。


寄り合いの軍である。


そのため、戦の方針は一人の大将が決めるのではない。


最大勢力である雑賀衆。


その土橋兄弟を中心に、幾人もの将が意見を交わしていた。


「明日には大坂城へ迫れる」


「だが――」


一人が口を開く。


「鉄砲隊は、城攻めには向かぬ」


別の者が頷く。


「その通り」


「鉄砲は遠くから撃つには強い」


「だが、城へ取りつけば弾は撃てぬ」


「槍兵のようにはいかぬ」


逹長も黙って聞いていた。


「羽柴の主力は小牧長久手にある」


「大坂に残る兵は、そう多くはないはず」


「我らと兵力は、さほど変わらぬだろう」


「だが、大坂城は――」


地図を見る。


「普請の途中とはいえ、地形がよい」


「城へ近づくほど、こちらが不利になる」


「ならばどうする?」


沈黙。


「鉄砲で兵を減らす」


「敵が縮こまったところを――」


「一気に攻めるしかない」


「だが、城へ近づけば鉄砲の利が薄れる」


「それでもやるしかない」


意見が交わされる。


逹長は、しばらく黙っていた。


やがて――


「一つ、よろしいか」


皆が逹長を見る。


「菅殿」


「水軍を使えばよい」


土橋兄弟の一人が尋ねる。


「どうする?」


逹長は地図を指した。


「木津川です」


「我らの水軍を木津川から上げる」


「そして――」


指を大坂城の背後へ動かす。


「城の後ろまで侵入する」


「敵から見れば、正面だけでも手一杯なのに――」


「背後から海の兵が現れる」


「それだけで十分な脅威になります」


一人の将が頷いた。


「敵の目を分散させるということか」


「そうです」


逹長は答えた。


「城兵が海へ目を向ければ、正面の兵が手薄になる」


「正面を守れば、背後が気になる」


「それだけで、こちらには隙が生まれる」


「なるほど」


評定の空気が変わった。


「ただし――」


逹長が付け加える。


「水軍は、上陸してから城を攻めることまでは考えないでいただきたい」


「なぜだ?」


「水軍は、水の上でこそ強い」


「大坂城の城壁へ取りつくとなれば、我らはただの兵です」


「それなら、陸の兵に任せたほうがよい」


「我らは背後を脅かす」


「敵の注意を引く」


「そして――」


逹長は静かに言った。


「敵が海を見た隙を、正面から突いてもらう」


土橋兄弟が顔を見合わせる。


やがて――


「よかろう」


「水軍は木津川へ」


「城の背後へ回る」


評定がまとまった。


(ざわめき)



逹長は地図を見つめた。


大坂城。


ここまで来た。


岸和田を囲み。


堺を抜き。


天王寺まで押し上げた。


明日は――


大坂城。


だが。


逹長の胸には、わずかな引っ掛かりがあった。


「……」


ここまで追い込んでいる。


敵の主力は小牧長久手。


紀州勢一万の鉄砲。


四国水軍。


兵力も決して少なくない。


それでも――


決め手がない。


大坂城を落とせるか。


そこだけが、まだ見えない。


逹長は一人、陣の外へ出た。


(夜の虫の音)


遠くに大坂城が見える。


「無理をするな」


自分に言い聞かせる。


これは――


秀吉一人を倒す戦ではない。


家康と連携した戦だ。


小牧長久手。


紀州。


大坂。


四国。


それぞれから羽柴を締め上げる。


包囲網。


ならば、一つの城を無理に落とす必要はない。


「……そうだ」


逹長は、自分に言い聞かせるように呟いた。


「焦る必要はない」


しかし――


その目は大坂城から離れなかった。


「明日、どこまでやれるか」


風が吹く。


旗が揺れる。



遠くで、羽柴方の陣太鼓が鳴った。


(ドン……)


逹長は、静かに笑う。


「さて――」


「秀吉殿」


「今度は、どのようにお相手いただけますかな」



(暗転)


翌朝。


四国水軍は――


木津川へ向かう。


そして、紀州勢は――


大坂城へ向けて、進軍を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。