百鬼夜行
ポルターはパーティが眠っているうちにモエの荷を漁って毒の礫を作り、巣の側に隠した。
投げたところで、黒地竜の鱗は貫けないが、口の中に押し込むくらいはできるだろう。
「やっぱり、最初に少しだけ手助けするぞ」
夜明けになり、支度を終えた四人は、励まし合い、行動を開始した。
「さあ、倒すぞ」
「いよいよね」
「腕がなる」
「危なくなったらすぐ撤退」
ポルターは先行して巣を見に行ったが、異常はなく、作戦を見守った。配置についたフィルとハーブは、打ち合わせ通り高台で大声をあげてオスの注意を惹き始めた。オスは唸りながらうろついて警戒しつつも、巣を離れる様子はない。
「次は、モエとリーズか」
ポルターは巣と二人の中間を維持して毒礫をフワフワさせながら香を焚き始めるまで見守り、そよ風に乗った香の匂いを合図に巣に踏み込んだ。幼体は香が効いたのか、ゾロッと固まって、岩屋の中に逃げこんだ。
「ハーブ、裏切ったら助けないからな」
ポルターの言葉を拭うように、ハーブがジャベリンを片手に巣に飛び込んできて、オスの間合いを見計らって対峙する。地竜が唸れば、ハーブが怒号で返し膠着する中、ポルターは黒地竜に近づき、半開きの口に毒礫を放り込んだ。
「卑怯だと思うなよ」
モエを疑うわけではないが、致死毒ではないらしいからどんな状態になるかは想像がつかない。
ピタリと動きを止めたオスは口を大きく開け、涎を垂らしながら、微かに震え始めた。
「うおおお!」
ハーブはその瞬間を逃さず、咆哮と共にジャベリンを放った。が、オスは食い付かずに頭を振って弾き飛ばし、狂ったように暴れ始めた。
「フィル、一旦下がる!」
ハーブは叫んで近くの茂みに飛び込んだ。
オスはもはやハーブなど眼中になく、口を開け痙攣しては尾をめちゃくちゃに振り回すを繰り返している。
「かかるぞフィル!」
「分かった!」
二人は槍を構え勇敢に突進して暴れるオスと戦闘を始める。フィルが尾に絡め取られたが、その隙を逃がさずハーブが滑り込んで、槍で急所を貫いた。
オスは、ガハッという大きな吐息と共に大量ね血を撒き散らしながらのたうちまわり、毒の舌をめくらめっぽうに突き出して最後の抵抗を見せる。
「成功だ、離れよう!」
だが、2人が撤退しようとした瞬間、木立からリーズの金切り声が聴こえてきた。
「逃げて、メスが戻ってきた!」
「な、早すぎる!」
「フィルはリーズを守りながら退け!モエ!」
「こ、ここ…」
岩屋の上からモエが顔を出した。
「クソッ、いいから逃げろ!」
「どこへ?」
ジャベリンを拾い雄叫びを挙げながら木立に走り出すハーブを横目に、ポルターはフィルを追った。
「リーズ?…リーズ!」
ポルターはすぐにフィルに追いついたが、リーズの姿はなく、フィルは辺りを見回しながらリーズを探している。
「フィル、静かに。こっちよ…」
声に目を向けると急な斜面に伏せるリーズが見えた。
「脚を痛めたみたい」
「待ってろ、今そっちに」
ポルターはゾッとした。
「まさか滑落死なんてないよな?」
警戒しながら巣に戻ってくるメスが木立にチラつくのが目に入ったポルターは、フィルの腰から短剣を抜き取り、メスに向かっていった。
「おい、これは良くないぞ」
メスはハーブの雄叫びと、巣のどちらに向かうか迷っているのか、首を左右に振りながら慎重に匂いを探っている。巣に向かえば、フィルとリーズは見つかり、ひとたまりもない。
「もはや、俺が倒すしかないのか」
気配なき刃が宙を滑り、メスを浅く切りつけた。かすり傷だが、姿勢を低くして立ち止まったところへ、顔面に短剣を何度も突き立てるとメスは物凄い勢いで走り出し、茂みの中へ消えた。
ポルターは追撃に入ったが、背後の悲鳴に引っ張られて、中断せざるをえなかった。
「フィル!」
斜面に駆け戻ると二人の姿はなく、斜面は藪で見通せない。ただ、落ち葉の跡が、二人共に滑り落ちたのを物語っている。
ポルターはすぐさま滑り下りようとしたが、急停止した。
「待て、滑ったらどこまでも止まらないんじゃないのか?」
ポルターは、冷静になって、斜面を駆け降りることにした。
「見つけた」
幸い、先に見える谷底ではなく、窪地でリーズはうずくまり、フィルは脚を押さえて唸っている。
「こっちは、当面は無事か。ハーブを加勢してくるから大人しくしててくれよ」
ポルターはリーズの息があるのを確認してすぐに崖を駆け上がる。
「ハーブはともかく、モエも心配なんだよな」
ポルターは、使命を忘れたわけではないが、救える者は救わずにはいられないのだ。
続




