果報随眠
王女は貴賓室へと通されていた。外では城の近衛と氷炎伯の護衛がなにやら信用するしないでいがみ合っていたが、カランと宰相の一喝で場は収まった。
「そういえば、モエはどうしたんだろう…」
「一緒でしたよ。お店かギルドでも見ていらっしゃいな」
「ありがとうございます」
ポルターは、久しぶりの王都を駆けてギルドに向かった。戦時下にも関わらず通常営業をしており、カウンターにはキャルとレイラの顔があった。
「さっき聴いたんだけど、氷炎伯様が王都にお入りになったんだって」
「レイラは、挨拶に行かなくていいの?」
レイラは心底嫌そうな顔をしてキャルの肩を押した。
「あら、モエちゃんはすっかり仲良しになったって言ってたじゃない」
「いやいやいや!あの子は本っ当に特殊だから」
「あはは、何その特殊って」
ケラケラと笑うキャルと必死に食い下がるレイラをしばらく見守ったポルターはモエの店に向かった。
「ああ、いたか」
モエはロイに何やら説教をされている。
ロイは戦が始まるのを教えてくれなかったのを怒っていたが、モエはいつもの調子で右から左に流してさらにロイを怒らせていた。
「姉弟仲良くな」
気が済んだポルターは、土手に向かい寝転がって夕焼けを見上げながら自分が書いた手紙のことを考え始めた。
「姫様宛ってなんだろうな……って、まさか恋文じゃないよな!」
記憶が欠けているポルターは、過去の自分が全く信用できない。黒歴史の深淵を意識してゴロゴロと転げ回り、馬鹿げた考えだと落ち着くまでに日が落ちていた。
「なわけないか。もしもそんなだったら王妃にもう一回殺されるわ」
くだらない想像に時間を費やして中身を考えないようにはしたが、手紙を託したハンターが死んでたりしたら未練の正体は永遠の謎になることに気付いてゾッとした。
「ここまで来てそれはないだろう…ないよな?」
次の日の午後に王太子が帰還し宰相らとの会話から、メロ伯爵領は制圧され、東部の諸侯は完全に沈黙したそうだ。
「では首を獲ってくる」
氷炎伯は、入れ替わりで公爵城に向かい降伏を申し出たメロ伯爵を捕らえた。
「負けたか…あと一歩が届かなんだわ」
街外れの水車小屋に潜んでいたメロ伯爵は、悪びれもせず言った。
「ひとつ確認するが、マルヴァンテとの企みを貴族院で告白する気はあるか?」
「馬鹿な、こうなっては、丸く収めることが国のためじゃ。諸侯に飛び火すれば、国はまた…」
氷炎伯の剣がメロ伯爵を黙らせた。
「賊が国を語るな。首は塩漬けにせよ」
「はっ」
一瞬で首を刎ねた氷炎伯は、水車小屋を出て馬で走り去った。
「相変わらず容赦がありませんね」
王妃は溜め息を吐き呆れるも、必要なことだったと理解をしているようだ。
「あとは公爵ですね」
「ええ。あちらは首までは取らないと思うけど」
巌公は、最初は助けが来たと思い横柄な態度で氷炎伯を城に迎えた。
「貴殿の決断が早ければ、我が軍の被害は抑えられたのにな」
「閣下、勘違いをしてもらっては困る。我は王太子に付いたのだ」
「何?だが、メロ伯爵を討ったではないか」
「あれは裏切り者の賊だ。そして公爵閣下、あなたは反乱軍の首魁だ」
「ま、待て……俺を捕らえるのか?!」
「左様に御座います。ですが、それも御身のためです。まずは降伏を」
「……」
「降伏を」
「………ええい、分かった!誰でもよい、全軍に伝えよ!」
「巌公、もう一つ。王女の後見人は我に変わりますゆえ、今後はお近づきにならないことをお勧め致します」
「なんだと?最初の話と違うではないか!」
「いいえ、違いません。閣下は先ほど降伏なされた。約定は閣下の勝利ではなかったかな?」
「クソが!」
「閣下、賠償金を楽しみにしております」
巌公は馬車に乗せられて王都に送られた。
街は氷炎伯の軍が駐留し、巌公の裁判を待つようだ。
「ポルター。私の用は済みました」
「俺もです。行きましょう」
ポルターは王妃の手を握り王太子の私室に戻ったが、王太子とカランの雰囲気は見られたものではなかったため、適当な客間に避難した。
「次は、王の葬儀。そして貴族院ですよ」
王妃はポルターに粛々と予定を告げる。才色兼備と名高い王妃陛下らしい立ち振る舞いは氷炎伯とは別の魅力を感じた。
「それなのですが、一度眠ってみて宜しいですか?」
「全てを見なくて良いのですか?」
「はい。俺を連れ回す時間を姫様や王太子を見守るのに使っていただきたくて」
「……ありがとう。それで、いつ起こせばいいのかしら」
「姫様と王太子の行く末が決まった時にお願いします」
「分かったわ。ゆっくりお休みなさい」
ポルターは、ベッドに横たわり目を閉じると一瞬頬に温かいものを感じて眠りに落ちた。
続




