点睛開眼
「さあ、立って。そこのソファにお座りなさい」
床で口を開きっぱなしのポルターを促して王妃は向かいの長椅子に腰掛けた。
ポルターはソファの肘掛けで無理だと示そうと手を伸ばして驚いた。
「あれ?……触れる!?」
「やり方があるのですよ」
幽霊の先輩風を吹かせて微笑む王妃に呆れながらも、久しぶりの座り心地に安堵のようなものが湧いた。
「あの、陛下……」
「陛下はもう止めております。ですが、名で呼ぶのは憚られるでしょうから、王妃と呼びなさい」
「では、王妃。お尋ねしたいことは山ほどありますが、一体全体なぜこのようになったのか教えていただけませんか?」
「構いませんよ。察しているかもしれませんが、私もあなた同様に未練を遺して死にました。そしてあなたと同じく呪詛を口にしてしまったのです――」
王妃は遠い目をしながら話し始めた。疑心暗鬼に囚われた王に投獄され、幼い兄妹が引き裂かれた経緯と悲しみの物語を滔々と語り、秘密裏に処刑された日の顛末に至った。
「――せめてもの温情だったのか、最期の朝に王子が私に会いに来たのです。一日も早く王になって私を救い出すと泣いていたあの子に掛けた言葉が……『ここで、ずっと待っていますよ』でした」
「ああ……割とポピュラーなやつですね」
「でしょう?」
王妃の運命に関わった深刻な話だが、二人の幽霊はただの想い出話のように妙な軽さでやり取りをしている。
「それが未練ですか……」
「私は、私の不用意な言葉が兄妹の断絶を招くと思い至り、もう一度王子と話をしたいと懇願したのです……ですが叶わないまま私は最期を迎えました」
「王太子は権力欲だと言ってましたが、なりふり構わず玉座に手を伸ばした真相はそれだったのですね」
「そのせいで王は不慮の死を、娘は……あなたのご存知の通りです」
「つまり、仲違いをどうにかしようとして見守る中で俺を見つけて託したのですか?」
「私に与えられたのは見守るための力でした。いつでも子供らの側に行ける力です」
「え? でも雷だったり、この部屋だって……」
「主に願い、代償を捧げることであなたを導く力を別で授かったのです」
「それで、天使様に化けて……俺に託してご自身でおやりにならなかったのは何故ですか?」
「代償は、あなたを未練から解放することだったのです」
「あ………なんか、すみませんでした……」
「良いのです。あなたは娘の恩人なのですよ?」
「そう言ってくださいますか。勿体ない」
「力や理の制約もあったのですが、あなたには苦労させてしまいました。改めてお詫びと感謝を伝えたいと思います」
「そんな、別にいいですよ。姫様を守るのは俺の使命なのですから」
「あなたは立派に果たしましたよ。次は私の番なのですが……生憎とまだ少し時間がかかります。選んでくだい。私と一緒にあの子らを見守るか、そこのベッドで眠って待つか。どうされますか?」
「そんなの決まってますよ。結末を見なきゃ未練が増えてしまいます」
「それは困ります。では手をお出しなさい」
「こうですか?」
王妃が立ち上がり、ポルターが差し出した手を握ると、ニコリとした。その瞬間、二人は部屋から消失した。
続




