因果応報
「王女を……っ!!」
叫ぼうとしたマルヴァンテの喉を鷲掴みにして黙らせた氷炎伯は、護衛に告げた。
「下がれ!王女はこちらに」
護衛は判断に迷ったが、酸素を求めて藻掻くマルヴァンテを見て従い、氷炎伯は手を緩めた。
「……逃げられるわけ……ないでしょ?」
「ハハハ。逃げる必要などないのだ―騎士殿出番だ」
「は?」
天幕の外からナイフが滑り込み、護衛の喉を貫いた。
「ガハッ!」
「敵襲だ!」
叫んだ片割れが天幕の外に飛び出したところで、ポルターは背後から一突きで仕留めた。マルヴァンテは驚愕して悲鳴をあげた。
「なん……! 今度は…何なのよ!」
「王都の幽霊は知っておるだろ?それが貴様を追ってきたのだよ」
意味が分からないと目を泳がせるマルヴァンテを笑い、再び羽交い締めにした氷炎伯は、王女に後ろに隠れるよう指示して天幕の外を睨んだ。
外では見張りの二人が弩を構えながら慎重に天幕に近づいてきたが、血を噴きながらあっけなく倒れた。敵を片付けたポルターは、カランたちの元へ行き、目の前でナイフをゆらゆらとさせる。
「助けが来た。これ切って」
ゴロンと転がったモエの縄を切り、皆が真似て全員が解放された。
「……これは……一体……」
一人だけ事情を知らないロッドは怯えきっているが、周囲がニヤニヤとしているのを見て首を振った。
「カラン。鞄取りに行こう」
「はい」
モエとカランが螺旋階段に向かうと、戦利品として木箱の上に装備が纏めて置かれていた。モエはすぐに鞄を掴んでロッドの治療に、カランは斧を構えて天幕に走った。
一同が集結し、ポルターは螺旋階段を警戒する中、氷炎伯が素早く指示を出す。
「舟が戻ってくるまでに扉を塞げ。カランはマルヴァンテを縛れ、王女はロッドを頼む」
氷炎伯の指示を遂げた一同は、マルヴァンテが逃げられないよう囲った。
「終いだ、と言いたいが暴れ足りん。舟の連中で憂さ晴らししてくれる」
「まだこっちには王太子が居るのよ?街には手下だって集まってる。降伏するのはあなた方じゃなくて?」
「馬鹿か。これだけの騒ぎだ。貴様ごときの手に負えると思うなよ」
「…ねえ、王太子の居場所と取引はどう?」
「要らん、我は蛮族だからな。言い忘れたが、我は人が狂うまで締め上げて吐かせるのが趣味だ」
「………っ!」
長剣の先で頬を撫でられ血が滴ったマルヴァンテは、顔を傷つけられた怒りで絶叫した。
「……よくも、よくもおおおおおお!」
「安心せよ。我の治癒師は優秀だ」
「氷炎伯。それだけは断る」
マルヴァンテが大人しくなり、少しの間空気が緩んだ一同は夜明けの海を眺めていた。やがてこちらに向かってくる船影を発見して皆が物陰に隠れた。
―俺が手を出したら怒るよなあ
ポルターは、今度は大丈夫だよなと呟き、王女の護衛に専念すべく倒した敵から剣を奪って王女の前に突き立てた。
「ああ、騎士様!ありがとう御座います」
再び驚くロッドに王女は、これまでのポルターの活躍をゆっくりと語り始めた。
―こんなの泣くわ!
王女は脚色が激しく、次から次に繰り出される美化されたポルターの英雄譚で酔いが回ったように口元を緩めている。
「おーい!なんで誰も居ねえんだ!」
「待て、なんかおかしいぞ」
ゾロゾロと舟から降りてきた男は剣を抜いて立ち止まった。
「おい! どうなっている? ボス?」
リーダーらしき男の腹に弩が命中して、それを合図にカランと氷炎伯が立ちはだかった。
「さあて、始めるぞ」
「はい」
舟から降りたのは8人。1人は戦闘不能だが、残りがゾロっと取り囲み、最初に3人が斬り込んだ。全員でないのはそれなりに戦闘経験があるのだろう。
しかし、その程度の経験だったのか、二人に遠く及ばず、一瞬で3人が地に伏した。
「なんだ、弱いな」
氷炎伯は突っ込んできた1人の剣を軽々といなして、鳩尾を剣で突き刺して蹴り剥がした。入れ替わりで挑んだ男は鍔迫り合いを仕掛けたが、下がりながら横に薙いだ氷炎伯の刀身を左耳の辺りに受けて絶命した。
「カラン。あとは譲ろう」
すでに及び腰の2人は剣を捨てて命乞いを始めたが、カランの挑発を受けて無駄だと知った片割れが短剣で挑み、飛来した斧に頭を割られた。
「畏れながら、殿下の居場所を聞いてみて宜しいでしょうか?」
「好きにせい」
胸ぐらを掴み尋問を始めたカランを微笑ましく見守っていた氷炎伯は、マルヴァンテの元に戻って尋ねた。
「ところで貴様、舟は漕げるか?」
続




