急転直下
氷炎伯が戻ってきたのは夕刻遅くだった。軍議は続いていたが、議論の中心になっていたのは情報不足を補う密偵の送り先についてだった。
「遅くなった。だが、もう少し付き合ってもらうぞ」
一緒に入ってきた執事が、戦士長に書状の束を渡した。
「そいつらは皆、古い王家派だ。メロ伯爵の子飼い共とは折り合いが悪かったらしく、渡りに舟だったのであろう」
「停戦同盟ですか。これだけの諸侯が受けたとなれば、真っ直ぐ王都に乗り込めますな」
「うむ。すぐに斥候部隊を編成して各地に送りこめ、敢えて目立つようにな」
「はっ」
目立つ斥候とは裏腹だが、単に裏切り防止の牽制が目的なのだろう。
「よし、ここからは、食事をしながらだ。支度ができるまで休め」
氷炎伯はそう命じて部屋を出て、カランの部屋へ向かった。
身体を拭いていたカランに慌てたポルターは壁と向き合い見てないぞと何度もブツブツと繰り返している。
「カランよ。この後軍議に出てもらう」
「え?宜しいのですか」
「ああ、状況が変わった。我らは王都に軍を進めるのだ」
「言い方あ!氷炎伯はわざとやってんのか?」
ポルターの指摘通り、カランは取り乱して鉄格子を引き裂かんとする勢いで氷炎伯に食って掛かった。氷炎伯は薄ら笑いを浮かべている。
―わざとかよ…
「聞け、すでに王太子は王都を追われてどこかに落ちのびておるようなのだ。我はマルヴァンテの仕業だと踏んでおる」
「そんな…氷炎伯様、どうかお助けを!」
「無論だ。だが、今はやつがどこかに落ち着き報せを待つことしかできんのだ」
「……探しに参ります」
「そう言うと思ったわ。だから軍議に出よと申したのだ」
「先にそれを言ってください…」
無駄に腹を立てさせられたカランは居心地悪そうに言ったが、以前よりも聞き分けがよくなっている様子だ。
「貴様なら、万が一に備えた退路も知っておろう。軍議ではそれを洗いざらい話せ」
「わかりました。但し氷炎伯様、殿下を見限ることは決してないとここでお約束くださいませ」
「約束しよう。その代わり王位までは保証はできんぞ。貴様は王女の言葉は理解できておるか?」
「…はい。殿下が王でなくともお側で尽くすことが私めの願いです」
「使命だ役目だと言わなんだのは大した変わりようだ。カランよ、事が収まるまでは我の臣下となって働け。貴様が役目を果たせば必ず酬いてやる」
「はっ!」
「よし、このまま皆に紹介するとしよう。腹は空いておるよな?」
「…はい」
番兵が鍵を開け、呼ばれた下女がカランを連れ出し氷炎伯と共に出ていった。
ポルターは、何やら難しい顔をしている。
―んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん???
続




