豁然開朗
「戦士長、戦況を―」
ポルターは帰ってすぐに始まった氷炎伯の軍議を見守っていた。
「公爵軍は現在東部への侵攻を止め、王都方面で主力の再編を行っているようです」
「公爵も勝負に出たか。王都は陥落すると思うか?」
「いえ、後詰めのメロ伯爵軍が健在ですので逆に押し返すかと」
「潮時か。さしあたり東部の諸侯に威力偵察を仕掛けて動きを封じるぞ。手を出してきたら構わず討て」
「仲裁を申し出ていた諸侯はいかがなさいますか?」
「鳥を飛ばして呼びつける。保護はせぬが、話次第では公爵にとりなしてやろう」
「王家にはなんと?」
「放っておけばよい。我の狙いはマルヴァンテだ。東部を突いて回ればいずれ姿を現すだろう」
ノックと同時に番兵が入ってきた。
「ご報告があります!」
「話せ」
「先頃王太子殿下より親書が届きました!」
「何?見せよ」
氷炎伯はすぐさま開封して目を走らせると立ち上がった。
「戦士長、威力偵察の件は任せる。明日には出立させよ」
「はっ」
―偉く慌ててるな
ポルターが後を追うと氷炎伯の向かった先は王女の部屋だった。
「どうされましたか?」
王女は、氷炎伯が差し出した手紙を受け取り読み終わると険しい表情で氷炎伯を見た。
「どう見る?」
「王家の者しか分からない印が書かれています。少なくとも差出し人は兄で間違いありません」
「そうか。しかし、このタイミングで我に仲裁を頼ってくるとはどういうことか」
「戦況はどうなのですか?」
「公爵軍は王都に迫っておるが、攻めきらんと戦士長は読んだ」
「兄が諦めるような情勢でもない、ですか」
「うむ。考えられるのは件のマルヴァンテの悪意に気づいた…全てではないにせよ」
「カランの保護も書かれていますね」
「そうなのだ。我を信用しておるのか油断させる罠か」
「あの、ひとつ気になったのですが、この封書は王家のものではありません。兄は今どこに?」
「東の砦に入ったと聞いたが、すでにそこは陥ちた。王都だと思ったが、違うとなると皆目見当がつかん」
「戦況が優位にも関わらず王都を離れて身を隠した…つまり王都に敵が居る…」
氷炎伯は、大きく溜め息をついた。
「やはり、マルヴァンテか…」
奇しくも同じ結論に辿り着いた二人を見てポルターは胸を撫で下ろした。
「いずれにしても、兄が所在を報せるまではどうにもなりませんね」
「うむ。全てが罠の可能性もある。何よりこれだけでは公爵も信じまい」
「カランには伏せますか?」
「そうだな。また暴れかねん」
「承知しました。兄が無事だと良いのですが」
「祈るしかあるまい。我はやれることをやる、動きは逐一報せよう」
「お願い致します」
深々と頭を下げた王女の佇まいには、かつて見られたような弱々しさは微塵もなかった。
乱世を治める者としての責任感と、兄妹の凄惨な過去を自らの手で清算するという強い覚悟――。それは、かつて自らを小娘と自嘲した一人の少女を、真の「王家の者」へと覚醒させていた。
続




