跳梁跋扈
氷炎伯は、カランの部屋を出た後、王女を訓練場に呼んで壁際に据えられたベンチに座らせると、カラン同様にマルヴァンテ夫人について話をした。
王女は真剣に耳を傾け、深く頷いた。
「まさか、そこまでご存知だったとは」
「お主には悪いが調べさせてもらったのだ」
「私は従姉妹と折り合いが悪く、兄はそれなりに好かれてよく遊んでおりましたが、私が女だから操れないと見られていたということでしょうか」
「恐らくな。元を正せばお主らの仲違いも、夫人が裏で絵図を描いていたと見て間違いない」
「ですが、当時は従姉妹も子供と言っていいい年頃です諸侯が相手にしたでしょうか…」
「王家に連なる血族の身分…と言いたいところだが、欲まみれの毒婦はきっと生来のものだったのだろう。色目を使う大人に応じて男共を自由に操れることに気付き、味をしめたのだろう。そこから野心が芽生え、ついには王家にまで届いたのだ」
「従姉妹のご両親はかつて公爵家の跡目争いに敗れ、東の辺境の一領主へと追いやられております。野心とはその仇討ちでしょうか?」
「そう見えなくもないが、あれの正体は欲の怪物だ。我らのような矜持はなかろう」
「では、兄と私は…」
「あれはお主らを操り、王を惑わせて王妃陛下を理不尽な死に至らしめた。兄に復讐心を植え付けて王を討たせ、継承権を持つお主を始末するよう仕向けた。さあ、お主が語らぬ兄妹の過去に重ねてみよ」
氷炎伯が出した結論に王女はみるみる顔色が悪くなり、なんて恐ろしいと呟いたきりうずくまってしまった。
氷炎伯は、無造作に壁から剣を取り素振りと型を始め、王女が立ち上がるのを見て手を止めた。
「お話を中断して申し訳ありませんでした。それで…兄の目がどうにか覚めると良いのですが」
「あれが生きておるうちは無理だろうな。多くの諸侯を長い時をかけて籠絡しておるのだ。今の立場では手は切れぬだろう」
「氷炎伯はどうなさるおつもりなのですか?」
「我は単純だ。探し出して斬る」
「なるほど。それが一番手堅いですね」
「お主らしくもない返事だな」
「ええ。王家に仇成し、家族を引き裂いた悪魔に慈悲など毛ほどもありませんゆえ」
「とはいえ、簡単ではないが」
「はい…」
「ところで、お主、一度カランと語らってみぬか?これまでの話で筋違いの恨みは解けると思うが?」
「できるかどうかはともかく、まずは腹を割ってお話してみましょう」
「その物言いもらしくないぞ?」
「誰かに感化されたのでしょう」
笑い合う二人とは対象的に、剣呑な雰囲気に包まれているのはポルターだ。
―マルヴァンテは、いつか多くの民を殺す国の災厄となる。救世主をやるつもりはないが、奴を討つことこそが俺に課せられた数々の使命の答えに他ならないのだ…
続




