有備無患
嵐が去り川の水が引いたのは3日後だった。爺さんの船が無事だったかどうかは分からないがポルターは気にしないようにした。
どこかの貴族に召し抱えられた後、何かで死んだと思しきポルターは、きな臭い城での会話が自分の最期と無関係とは考えられず、兵士として鍛錬しておくことが、真っ先にやるべきことだと考えたからだ。
そして現在、ポルターは鍛冶屋のガラクタを漁っている。
「とりあえず自由に扱えそうな短剣からか」
ポルターは錆びてガタガタになった短剣を携え近くの森に入って行った。
木立を相手に、突く、投げるが思いのままになったところで、離れて操る鍛錬に移る。
「しかし、刃毀れしていては、加減が分からんな。手頃な野盗でも探すか」
木や岩を避ける必要もなく起伏も崖も疲れ知らずには障害にならないポルターは、野盗を探して森をスイスイと進み、やがて小さな集落を発見した。櫓には見張りが居るがポルターを見つけられる者などおらず、何事もなく侵入して小屋を覗いて回ると、乱雑に積まれた剣や弓を見つけた。
「野盗の根城か」
狩人や農民は、長剣を使わない。ポルターは手入れがマシな長剣と短剣を吟味した後、今度は見張りに気をつけながら、持ち出した。
「ついてるぞ、これで鍛錬が捗る」
ポルターは、手頃な野盗と、物騒なことを吐いて出かけたが、腕試しというわけではなく、単に商店でくすねるのが嫌なだけだったようだ。どうやら、記憶と共に矜持も戻ってきているらしい。
ポルターは、鍛錬に夢中になり、10日近く経った辺りで長剣の扱いも人並みになっていた。鍛錬相手の木の枝は全て打ち払われ、幹は下からてっぺんまで深い斬撃が刻まれていた。
「これを、ハンターが見つけたらギルド案件だろうな」
ポルターは地面に剣を突き立てて、かくことのない汗を拭った。
街に戻り様子を探ろうと警備隊の詰め所に張り付いてみたが、先王の病を噂しているだけだった。今のところ変わった動きはないようだが、代わりにひとつだけ事件を知った。キャルを嵌めた二人が性懲りもなく依頼書のすり替えをやったのが見つかり投獄された話題を耳にしたのだ。
「へえ、ギルドでも覗いてみるか」
ギルドに入るとなにやらキャルがマーラを冷やかしていた。
「フィルが帰ってきたらマーラが結婚かあ」
「やめてよ。まだちゃんと言われたわけじゃないし」
「でもでも、フィルが急に貯金を始めてもう1年経ったし、この仕事は色々分かっちゃうんだよねえ」
「はあ、ギルドって怖いわ。キャルはどうなのよ?」
「私はいつでもジン様ひと筋よ。あの奇跡でばっちり憶えてもらったから来年はグイグイいくよお。私のプラン聞きたい?聞きたいよね?」
「はいはい、まずは仕事をしてください」
鼻息荒いキャルの顔を押し退けて、マーラは席を立ち、書類を持って奥に消えた。
ホールでたむろするハンターの雑談は、どれも他愛のないもので、飽きてきたポルターは収穫のないまま、ギルドを離れた。
「日暮れか。怪しげな密談に期待して、城は夜にでも忍び込むとするかな」
のんびりと広場に向かって歩き出したポルターは、辿り着くことなく通りから消えた。使命のお呼びがかかったのだ。
続




