驚天動地
二人が屋敷に戻り、王女は部屋に戻ったが、氷炎伯は、戦士長を執務室に呼んだ。
「王都に急用ができた。明日の朝出る」
「では、馬車を用意しておきます」
「いや、目立ちたくない。馬で行くから小隊を見繕ってくれ」
「はっ」
「それから、地下牢の連中は部屋に移すが、決して出すな」
「はっ」
「さすが氷炎伯。決断が早い…待てよ、馬…?」
ポルターは突如屋敷を飛び出し全力疾走を開始した。
「ダメだ。これでも間に合わんかもしれん!」
ポルターの不安は的中して、街道で一団に追い越された。しかし、王都目前だったためギルドに到着したのは、僅かにポルターが先だった。
「馬の係留所が離れてて、良かった…」
高級なマントにフードを深く被った一団にハンターたちが思わず道を空けた。キャルが立ち上がり、緊張した声で応対する。
「ほ、本日はご依頼でしょうか?」
「ギルド長を出せ」
氷炎伯が低い声で云うと、キャルはダッシュでギルド長を呼びに行った。
部屋から面倒くさそうに出てきたギルドは、一団を見て緊張した。
「私がギルドの責任者だ。本日はどういったご用件かな」
威厳を保とうと必死だが、氷炎伯に通用するわけもなく、従者のひと睨みで屈伏したギルド長は諦めて部屋に案内した。
「正直分かりかねますなあ。治癒師は治癒師組合の領分ですから」
「よく見てくれ、レイラという関係者はいないのか?」
「レイラという者はうちの職員におりますが、本日は休みでして。別の者にも見せてみますので、お待ちください」
「うむ」
カウンターでギルド長とキャルが小声で話す。
「あの人達何者ですか?」
「分からんが、お忍びの貴族だろう」
「身元くらい確認してくださいよ」
「うう…余計な詮索をするのもなあ」
「しっかりしてくださいよ。物騒な連中だったらどうするんですか?」
「で、キャルはこれのこと分かるのか?」
「まずは、身元確認を。ちゃんとした方々なら私がお話します」
「分かった分かった」
ギルド長が胃の痛みを堪えながら、部屋に戻っていった。
「あの、大変恐縮なのですが、近頃は物騒な事件もありまして…」
「ほう、我らを疑っておるのだな」
「いえいえ!決して…ですが…」
「よい、我は辺境伯だ。世間では氷炎伯と揶揄されておると言えばわかるか?」
「ひょ、氷炎伯様!?」
「いかにも。これが証だ」
氷炎伯は、紋章が彫られた指輪を見せた。
「あばばばば…」
「気が済んだなら、レイラという者を呼べ。急ぎ確かめたいことがあるのだ」
「承知致しました!すぐに手配して参ります!」
転がりそうな勢いで部屋を飛び出したギルド長はキャルに鬼の形相でレイラを呼ぶよう迫り、その後、ギルドは臨時休業となった。すぐにキャルを中心にレイラ捜索隊が編成されて職員たちが市中に散り、買い物中だったレイラを無事捕獲してきた。
「ちょっと、一体何の騒ぎよ」
「いいから!私もついてるから」
「キャル、なんか怖いんだけど」
「いいから、は・や・く」
「大変、大変お待たせ致しました!」
レイラとキャルを連れたギルド長の声は裏返っている。
「貴様がレイラか、休みに済まないな」
「レイラ、こちらのお方は、かの氷炎伯様よ」
「ひょ!」
レイラがキャルの首根っこを掴んで、二人は深く頭を下げた。
「レイラよ、これに見覚えはあるか?」
従者がレイラにカルテ差し出した。
「は、はい。私の治療記録に御座います」
「ふむ。ギルド長、お前は下がれ」
「喜んで!」
酸素を求める魚のように口をパクパクとさせながら助かったと言わんばかりの顔をしてギルド長は下がっていった。
「さて、レイラよ。まずは我を見よ」
ベールを捲り上げて低頭したままのレイラを促した。
「畏れ多いです!」
「楽にしろ、話が進まん」
「で、では…?…なんと痛ましい!」
「理解したか?」
「はい。治癒師をお探しなのですね!」
「うむ。だが描かれているものが真か確かめたいのだ。腕を見てもよいか?」
「どうぞ!」
レイラが包帯を解いて湿布を剥がした。
「元はどうだったのだ?」
「それはもう、一目で火傷だと分かる痣でした」
「それが、これか?」
「はい。信じられません、よね?」
レイラは嘘をついていないが、緊張で顔の汗が止まらず説得力にやや欠けていた。
「あの、よろしいですか?」
妙な間を察して、すかさずキャルが助け舟を出した。日頃から粗暴なハンターたちとやり合うギルド受付嬢はこうした連携はお手のものなのだ。
「構わん」
「その治癒師は、噂が広まるのを恐れております。いつか良くない連中に拐われまいかと」
「良いぞ、いよいよ信じる気になった。安心せよ、悪いようにはせん」
キャルのフォローで回復したレイラが改めて低頭して恐る恐る氷炎伯に告げた。
「では、畏れながらご紹介させていただきます。ですが、その者なのですが、少々無礼といいますか…普段から物言いがですね…」
「構わん、早く行くぞ」
「えっ!呼ぶのではなく?」
「時間が惜しい。案内せよ」
「か、かしこまりました…大丈夫かなあ…」
戸惑う二人を無視して部屋を出ていく氷炎伯の後を慌てて追うレイラを見てポルターは苦笑せずにいられなかった。
「さあ、究極のマイペース対決が始まるぞ」
ポルターは、モエと氷炎伯のやりとりを、あれこれ想像しては吹き出しながら一団について行った。
続




