自家撞着
「カラン!」
不意に訓練場の扉から番兵3人とアルテマが雪崩れこんできた。
「何事ですか?」
「番兵!王女を護れ。そこの侍女は捕らえて地下に放り込め!」
「お、王女殿下?」
アルテマが驚いて王女を見た。
「あとは我がやる」
壁から長剣を取りカランに突き出す氷炎伯と、動きを止めて目を見開くカランが改めて対峙する。
「なじぇ…おおじょを?」
「またも抜かったわ。カラン、やめよ」
「……お願いしましゅ…おじょきくらはい」
「ならん。ここまでだ」
「おおじょ…おお…うわああ!」
再び目に怒りを宿らせたカランを悲しげに見て近づき、氷炎伯は剣を振り上げた。
ガンッ!……ガラン
丸い小盾が氷炎伯の剣を撃ち落とした。
「なんだ?貴様…今何をした?」
今度は氷炎伯が目を見開いた。
カランの前にはゆらゆらと剣が浮いている。
「なんと、王都の幽霊の正体は貴様だったか」
カランは氷炎伯の問いかけに呆然としながら、首を振る。
「ん、違うのか?まあ、いい」
氷炎伯は悠然と壁に近づき、幅広の刀身を持つ重厚な剣に持ち替え、冷酷に言い放った。
「さあ来い、怪異」
「まさか氷炎伯と闘うことになるとは…」
ポルターは、カランを守るためとは言え想定外どころか埒外の対決に混乱しながらも、戦士としての願望が湧き上がるのを感じた。
―最強に挑んでみたい
ポルターは、剣をピタリと止めて初撃を待ち、それを見た氷炎伯は上段に構え直した。
「ふむ。来ぬか、ならば叩き折ってくれる!」
ドンと足を踏み出し、振り下ろした氷炎伯の剣をポルターが受けて、火花が散った。
「これが…怪物!」
鍔迫り合いを全く押し返せないポルターは、一度流して水平に剣を振って距離を取るが、間髪入れず追撃が来て剣が床に叩きつけられた。ポルターがすぐに拾って構え直すと、氷炎伯は不思議そうな顔をした。
「その構えは、我らのもの。怪異、お前は一体なんなのだ?」
ポルターは構わず仕掛けた。だが疲れを知らないポルターの乱打を平然と捌き、次々と間合いを変えては正確に強撃を浴びせる氷炎伯にポルターはついに悲鳴をあげた。
「ちょ、強すぎる。こっちは姿がないんだぞ!」
身体の僅かな動きで手を読むのは近接戦闘では常識だが、氷炎伯は姿なき一閃すら意に介さない。ポルターは斬られることはないが、猛然と打ちかかってくる氷炎伯の剣圧に本能が抗えず、思わず間合いから飛び退いた。
「ほう、幽霊でも臆すか」
完全にやる気スイッチが入った氷炎伯が再び楽しげに乱打に入り、長い打ち合いの果てにポルターの剣が砕けた。
「クソッ、まだだ!」
ポルターは折れた剣を投げ、氷炎伯が払った隙に新しい剣を取り、再び構えたが予想外の問いがきた。
「ちょっと待て。さっきから峰打ちとは、どういうつもりだ?」
怪異に平然とちょっと待てという超人と物分かりの良い騒霊は互いに動きを止めた。
「おい、話が通じるなら剣を降ろせ」
氷炎伯の命令にポルターは思わず、従ってしまった。
「うわああ!存在を認めてしまった」
ポルターは我に返って叫んだ。
「貴様は、カランの守護霊なのか?」
「…」
「答えぬか。では、王女を殺しに来たのか?」
ポルターは、剣を放り投げた。
「ふむ、喋れぬだけか…最後だ、我らに敵意がなければ剣を壁に戻せ」
ポルターは従った。
カランは唖然としたまま氷炎伯を見守っている。
「つまり、怪異は誰にも死んで欲しくないのだな…番兵!カランを地下に放り込め。カランは武器を捨てよ!」
カランは今度こそ大人しく従い、小さな短剣と暗器を床に置いて離れると、奇妙な闘いを見守っていた番兵がカランを抱えて訓練場から連れ出した。
「怪異よ、これで良かったなら去れ。それから、中々良い剣筋だったぞ」
ポルターは、どこか満足気な氷炎伯にすっかり毒気を抜かれ、王女を任せて訓練場を後にした。
続




