本末転倒
「ふむふむ。こうなってるのか。さすがに歩かせるのは無理かな。いや、一度バラせば…」
ポルターは玉座の間に飾られたフルプレートの甲冑を出たり入ったりして固定具を調べている。
もちろん騒ぎを起こすためだが、歩かせてみたいという好奇心が必要以上に夢中にさせている。
背後の玉座では新王が退屈そうに謁見を捌いては宰相が愛想良く送り出していく。
来客の半分は商人で珍品を売り込に来る者や大口の注文に礼を伝えに来る者で残りは地方貴族による嘆願だった。
「中々奥深いな。いつか鍛錬して自在に操ってみせるぞ」
国政の脇で全く関係ない道楽を語る幽霊は文官が急ぎ入って来たため、手を止めて王太子の側に寄った。
文官は許可を得て耳打ちをする。
「畏れながら、カラン様がご挨拶されたいとのことです」
王太子は一瞬嬉しそうな表情を見せたが、すぐに険しい顔に戻り、宰相に今日はここまでだと告げスタスタと出て行った。
ポルターはついていこうとしたものの、さすがに趣味が悪いかと呟いて、玄関へと行き先を変更した。
ポルターは日課のお祈りに向かおうと教会への路地に入った矢先に消えた。新たな使命がやってきたのだ。
「っと…って、ええっ!」
転移したポルターの前にはベッドの脇で腕組みをする王太子が居た。
「え?ええ〜…」
※ ※ ※
「そうだ、そう約束したのだからお前は最後まで見届けるのだ」
「でしゅが…」
ポルターは空前絶後の展開に呆気に取られつつも、カランの違和感からベッドに近づきその正体を見た。
―カランの口元は爛れ引き攣っている。
「あの毒か…自業自得とは言え、さすがに惨い…」
氷炎伯は治癒師を誇っていたが、治すことは叶わなかったようだ。
「でしゅが、あたくしゅめわ…わんのおやくにもたてましぇん…」
「うるさい。どれだけかかろうと最高の治癒師を見つけて治してやる。その代わりに先ほど口にしたことは守らせるぞ。お前は、俺を王にして帆船で故郷を見せると言ったよな?」
王太子はカランの手を握りながら、反対の手でカランの涙を拭いている。
「使命はカラン…」
ポルターは頭が混乱した。俺が王女の仇敵を救い王太子を即位させて船旅に?
「どおか、おじぇひを…」
「ダメだ、暇などやらん。だが、お前が気を遣わずに静養できるよう手配してやる。ゆっくり休んで果報を待て、な?」
「でんか…ああ、でんか…」
王太子は氷炎伯に釘を刺されるまでもなくカランを大切にしている。長い主従の間柄からそういう関係に至ったのだろう。
ポルターは情が湧いたのか王太子を憎む気持ちが揺らいだ。
「これ以上は見ていられん」
ポルターは部屋を出て改めて教会に向かった。
静まり返る礼拝堂でいつも通り祈りを捧げていると、光を感じた。
「あ、あれ?天使様?」
『使命を果たしなさい』
「はい…いや、でも」
『諦めますか?』
「ちょ、待ってくださいよ。どうして良いのやら本当に悩んでるんですよ」
『そう感じてお話をしに来ました』
「あ…そうなんですか。感謝致します」
『使命に失敗するとどうなるか、が気になりますか?』
「そうだ、いつもそれを聞きたかったんですよ」
『何も起きません』
「へ?」
『正しくは終わりがなくなるだけです』
「すみません、全然分かりません」
『正解が消えたまま使命は続き、無間を彷徨うことになります』
「ちょっ、そんな無茶な!」
『それが理なのです』
「また理…救済はないのでしょうか?」
『神がご判断なさることはお答えできません』
「できませんって…ええ」
『使命を果たしなさい』
「分かってます!分かってますが!」
『使命が重ならないこともお忘れなく』
「何?あっ!」
今回の使命は王太子の行く末にゴールがある。つまり、それまで記憶が戻ることはないのだ。
「そんな殺生な…」
『最後にひとつ、決して力を悪用してはなりません』
「それは勿論です!…ですが何が正しいかが分からないのです」
『では今夜はこれで』
「無間てなんだよ…聞かなきゃ良かった」
リタイアどころか失敗すら許されない最大級の無理難題にポルターはしばらく動けなくなった。
―本当にどうすんだよこれ
続




