造言蜚語
―ポルターはギルドから王城に移動して、正面玄関でずらりと並んだ侍女に混じって王太子の到着を待っている。
馬車が着くと宰相が出迎え、王太子を労いながらホール脇のサロンに導いた。
ソファにドカッと座った新王に茶が出されると、ドレス姿の貴婦人がサロンに通された。
「無事お戻りで何よりに御座います」
「うむ。明日は諸侯らとの狩りだったな。忘れてはおらんよ」
「畏れ入ります。そちらの件ですが、メロ伯爵もお越しくださると報せを受けております」
「そうか!それは良い報せだ。そなたに褒美を出さねばならんな」
「ありがたき幸せ」
「あの喜びようはそれなりの有力者なんだろうな。その勢いで選挙やって勝ってくれないかなあ」
ポルターは、王女に国を治めて欲しいわけではない。新王が王女を付け狙う理由が消えてさえくれればそれでいいのだ。
貴婦人が立ち去ると、宰相が留守中の雑務の報告を始めたが、王太子は面倒臭そうに遮り、立ち上がった。
「今日はもう休む。火急でなければ、明日馬車の中で聞く」
「ひとつだけ、宜しいでしょうか」
「話せ」
「公爵様が近く王都にご滞在なさるようです。先んじて使用人の一団が明日到着すると報せが入っております」
「詰めにかかってくるか。抜かりなく見張らせろ」
「御意」
宰相が下がるとすぐに王太子は侍女たちを従え、サロンから出ていった。
―本当に疲れているようだ
ポルターは、期待せず城を一回りしたが予想通り得られるものもなく、森で鍛錬して夜を明かすことにした。
そして翌朝、ポルターは街道で苦々しく新王の馬車を見送っていた。
「やっぱり、こうなるかあ!」
半ば分かっていたことだが、馬車に振り切られたポルターは悔しそうだ。
諦めて街に戻り、今日のお祈りに向かう途中でポルターは足を停めた。
「ああ、それもあったっけ」
ポルターが貴族街の正門を行き交う雅な馬車を眺めながらボーッとしていると、お目当ての馬車の一団が現れた。
「凄い数だな」
馬車の車列の窓に侍女や文官の姿が見える。続いて騎兵と荷馬車が通過していく。
ポルターは車列についていき、ひときわ大きな屋敷に辿り着いた。
「公邸というやつか」
使用人達が荷を運び、騎士たちが庭を見回り、掃除をする。そうして屋敷が落ち着いたのは夕方で、終礼なのか、使用人らは玄関ホールに整列し、騎士と老執事がその前に立った。
「さすが粒揃いだな。皆、貴族の御息女なのだろうな」
ポルターは化粧の行き届いた気品ある侍女達に感心していると、老執事が話し始めた。
「公爵様は3日後にお越しになる。くれぐれも、粗相のないように願います」
そう執事が述べると、50人近くの使用人が一斉に応じる。
「承知致しました」
「それから、今は国の大事ゆえ、外にも気を配らねばなりません。外出はこちらの指示以外は禁止、出掛ける者は必ず騎士を伴うことを忘れないよう」
「承知致しました」
「宜しい。メリルこちらに」
「はい」
侍女の一人が執事に並ぶ。予定された呼び出しではないようで緊張している。
「先にも申し上げましたが、今は国の大事。メリル、直ちに自害なさい」
「えっ!」
突然の死の宣告にメリルは真っ青になりガクガクと震え出した。
老執事は見向きもせず使用人に宣言した。
「この者は、王家と通じておりました。他にも憶えのある者は居るでしょうが、どうか今すぐ改めるようお願い申し上げます」
「わた、私は、何も…」
言葉に詰まるメリルに、背後から麻袋を被せて縄で首を絞め上げる騎士を見て、使用人たちが悲鳴をあげて顔を背ける。
やがて床に崩れたメリルを一瞥して老執事は終わりを告げた。
「本日は以上です。改めまして、くれぐれも粗相のないように。では解散」
使用人らは逃げるように仕事に取り掛かり、騎士がメリルの遺体を外に運び出す。
「おいおい、まじかよ」
この容赦ない仕打ちは王太子陣営への見せしめであり、裏の宣戦布告だ。
「穏健派だと勝手に思い込んでいたが、公爵も想像以上に追い詰められているんだな…」
ポルターは政治の世界に、ただただ戦慄しながら屋敷を後にして城へと歩いた。
昨日に続いて王太子の帰りを玄関で待ち構えていたが、日が暮れても戻る様子がない。城をうろつくうちに厨房で片付けをする使用人の会話から明日まで戻らないのが分かった。
「最近は、殿下のご予定が降りてこないから、料理が無駄になってばかりだな」
「国の大事でお忙しいようだし仕方ないさ」
「それにしても、もったいないよなあ」
残念そうに木桶を見る髭面の男が呟いた。
「王様は、無駄を嫌うお方だったから役得も度々あったが、殿下は厳しいんだよな」
「まあ、こんなこといつまでもやってたら王様が化けて出るかもな」
「おい!それは禁句だぞ」
慌ててキョロキョロする髭面の怯えように、ニヤつきながら着替え始める相棒。これで城外に漏れていないのが不思議だが、そういうものなのだろう。
「王が化けて出るか…面白いかもな」
ポルターは立てかけられた鍋の蓋を倒した。
「おい、脅かすなよ」
髭面がギョッとして怒鳴った。
「何もしてねえよ。たまたまだろ」
声を出して笑う相棒は意に介さない。
ポルターも笑いながら、もう一撃とレードルを浮かせようとしたが、雷が降ってきた。
「ギャッ!」
『いつも見ていますよ』
「はい…」
ポルターは反省したかのように見えたが、諦めがつかなかったのか、愚痴交じりの悪企みを口にする。
「たまには幽霊らしいことをしてみてもいいじゃないですか…しかし、幽霊らしくか。王太子を揺さぶってみるのも悪くないかもな」
ポルターはすかさず雷に身構えたが、何も起きず、ニンマリとしながら灯の消えた厨房から出ていった。
続




