バインバイン
ポルターは、夜通し駆けて、翌日の昼に王都に戻ってきた。距離の感覚的には王太子が戻るのは夕方近くだろう。
「帰ってきたあ!」
何の変哲もないいつもの土手だが、ポルターはここを気に入っている。
幽霊でもストレスは溜まる。ポルターを取り巻くドロドロとした世界とは無縁な場所が必要なのかもしれない。
「さて、これからどうするかなあ…」
共和国が姫様を手放さないのは現状では好都合だが、公爵派は何としても王女を帰国させて擁立に動くだろう。ポルターは、メモができないため、声に出して反芻した。
「公爵は、先王の葬儀を理由に姫様に帰国してもらい、選挙で覇権を狙う。王太子は姫様をどうにかできなければ、戦をしてでも公爵派を黙らせようとしている」
ポルターは巌公も探りたかったが、今のところあてがない。当面は、王太子に張り付く他ないようだ。
「さて、教会に行ってから、ギルドでも覗いてみるか」
天使様との約束を守ってからギルドに行くと、入口でモエと鉢合わせた。カウンターにはキャルと知らない受付嬢が座っている。
「あら、モエちゃん。久しぶり」
「どうも」
「今日は、ああ解約だったよね」
「そう」
「ところでフィルは良くなった?」
「脚は完全には治らない。私が救助を呼びに行って治療を空けたのがダメだった」
「それしかなかったんだから、モエちゃんの責任じゃないよ」
「うん。マーラも同じこと言ってくれたから大丈夫」
「それで、今後はどうするの?」
「弟は素材屋を始めた。私はそこで研究しながら手伝う」
「治癒院はやらないの?」
「学院からの圧力で許可が降りないからやめた」
「酷い話よねえ、散々搾取されて、やめたら独立の邪魔するなんて」
「そういう世界だから。だから私はこれからは美容をやる」
「美容?化粧品とか?」
「違う。痩せ薬とか、バインバイン」
「バインバインって…え、ホントに?」
「そう、キャルもバインバインになれる」
「ちょっと!今晩食事でもどう?」
「今日はダメ。明日ならいい」
「ハーベストを予約しておくわ」
「分かった。それより手続き」
「ああ、はいはい。レイラお願い」
テキパキと処理をするレイラ。モエがじっと作業を見つめているのはいつもの観察癖か。
「レイラ、その腕よく見せて」
「ああ…これ?」
レイラが袖を捲くると大きな火傷の跡があった。
「それ、治したい」
「え?」
「今、傷隠しの薬も研究してる。材料が揃ったら試させて」
さらっと人体実験しようとしている。
「うーん、ちょっと怖いかなあ」
苦笑いするレイラにキャルが割り込んだ。
「そうだ、レイラも明日食事に行こうよ。実はモエちゃんは凄い子だから、気が変わるかもよ?」
「どうだかねえ。まあ、善意で言ってくれてるみたいだし行ってもいいよ」
「よーし。じゃあ決まり」
「バインバインねえ」
ポルターは、キャルの反応からモエの彗眼というか商才に感心して、ガールズトークから離れた。ポルターが寄ったついでとギルドを物色しているうちに手続きが終えたモエは帰り、キャルとレイラが事件の話を始めた。
「それにしても、とんでもない事件だったよね」
キャルが溜め息混じりに言った。
「結局、一頭を誰が仕留めたかは謎のままだし、色々気味の悪い事件だよね。その前はキャルも不思議なことがあったんでしょ?」
「ジン様?あれは日頃から頑張る私に神様が奇跡を与えてくれたのよ」
「それにしたって、立て続けだもの。ひょっとしたらギルドに悪霊でも取り憑いてたりして」
「やめてよ。変な噂立てないでね」
「あはは」
「あながち間違いでもないんだけど」
ポルターは聴こえることはない自虐ネタを二人に披露してギルドを出た。
続




