自由闊達
ポルターは、教会を出て、ある食堂をイメージして探した。
別に腹が空いているわけではないが、教会まで迷わず行けた不思議な感覚を確かめたかったのと、情報収拾にうってつけだと思いついたからだ。
「幽霊は腹減らないんだろうな。便利だが寂しいといえば寂しいな…」
ブツブツと独り言を呟きながら往来を歩くのは変人ぽいが、聴こえる奴が居たら儲けものとでも言わんばかりに、呟くことを憚らず路地を歩く。
「猫には視えるって噂もあったけど死んでみないとわからんものだな」
目の前の幽霊にお構いなく欠伸する猫を眺めて、新たな発見に満足しながら、なんとなく歩いていくとお目当ての店が見えてきた。
―やはり見知った街なのだ。
店は客でごった返していた。次々と運ばれる料理の香りに心をくすぐられたが食べることは叶わない。複雑な気分になったが気を取り直して周囲の会話に耳を傾けた。
「ボロン村にクマの魔獣が出たってさ!」
「おっ、稼ぎに行くか?」
「ここだけの話、王様の具合は良くないんだって」
「まあ、お気の毒に。アタシは嫌いじゃないから良くなって欲しいわね」
男は日常的な知識までは忘れていないが、地理はちんぷんかんぷん、触覚だけはないが、他は、これまで通りだと分かった。欲求は弱いものの料理への僅かな興味は残っているようだった。
「欲求か、他も色々調べてみるか」
男はなんとなくある気がする公衆浴場に向かった。
「うん、ダメだな」
男は湯に浸かってみたものの湯は身体を通過して、ぼんやりと熱を感じただけで不快なだけだった。次に、そのまま壁を抜けたポルターは一瞬で戻ってきた。
「もっとダメだ。けしからん!」
生前生真面目だったのか、単に女性が苦手だったのか、ポルターは性欲を確かめることなく、さっさと浴場を後にした。
「しかし何も思い出さんな。ポルターよ、お前は何者だったんだ?」
適当に見つけた土手に寝転がり、雲を見上げて呟いた。地面という条件は摩訶不思議だったが、ポルターにとっては、草や小石の絵が描かれたただの斜面で、滑り落ちることもなかった。試しに橋から飛んでみると生前と変わらず落ちたが、痛みもなく地面に転がっただけだった。
「そういえば疲れもなければ、眠くもならないな」
睡眠が不要では、とにかく暇を持て余しそうだが、好奇心でどうにかするしかない。ポルターは、好奇心という言葉で力を思い出して、少し試してみることにした。
「動け動け…」
河原の石に念じるが簡単ではなさそうだ。標的を小石に変えたらうまくいきかけた。小石はフラフラと宙を漂い川にポチャリと落ちた。
「鍛錬あるのみか。それにしても地味だなあ」
それでも日暮れになる頃には小石を飛ばすことに成功し、動かなかった石はひっくり返せた。ポルターは大声を挙げて喜んだが無論どこからも反応はない。満足気に土手に身を投げ出した騒霊初心者は、小さな前進を喜び、より実践的な試験を思いつく。
「よし、酒場で少しいたずらでもしてみるか」
そう言って立ち上がり土手を登っていたポルターが不意に姿勢を崩し、土手から消えた。
続




