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ポルター 死亡フラグと騒霊騎士  作者: めざしと豚汁
使命4.『足を洗う青年』

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九分九厘

ゼンとザックは壁を背に、お互い離れて板材の束に腰掛けていた。二人共難しい顔をして、石像にでもなったかのように動かない。


やがて、ザックが気まずい沈黙を破った。


「今更詫びたところで手遅れだよな」


「…」


「なあ、ゼンがそんなに強いとは知らなかったぜ」


「……鍛錬してたからな。商会の仕事だって命がけなんだ。獣や野盗と戦えるだけの腕くらい磨く」


「ただのガリ勉てわけじゃなかったのか…」


「遊び呆けていたお前にはそう見えたんだろうな」


「…俺達どうなるんだろうな」


「俺と俺を殺し損ねたお前は始末されるだろうな」


「そんな…どうすりゃいいんだよ」


「なんなら続きをやるか?俺はお前を殴り足らないから相手になるぞ」


圧し殺した声で怒るゼンに身を固くするザックでは、やるまでもなさそうだ。

再び沈黙が訪れ、ポルターは外の様子を見に行った。


3人は船で荷を検めている。組織からは逃げられないという自信からか、小屋に見張りはいない。

粗方終わったのか、帳簿の男が木箱の蓋に釘を打っている小男に声をかけた。


「よし、カジャはもういい。小屋の支度をしろ」


「分かった」


木箱の中には磁器や刀剣など様々なものが収められている。積み替える様子がないのは、また船で何処かへ運ばれるからなのだろう。

カジャと呼ばれた男は小屋に歩き、嵐にでも備えるかのように、板を打ちつけ始めた。小窓と戸板を塞いだ時にポルターは、意図を理解してゾッとした。


「焼き殺すつもりか…」


カジャは慣れた手つきで板を打ち終わると、馬の背から小さな樽を降ろし小屋にかけ始めた。


―臭いが油だと告げている


中では異変に気付いた二人が、戸や壁を破ろうと体当たりを始めたが、びくともしない。壊れかけとはいえ細い丸太を組み上げた小屋は人の力で破れるものではない。油を撒き終えたカジャは、何も聴こえないといった調子で船に戻り、帳簿の男は松明をカジャに渡した。


「そろそろ出発できるぞ、やれ」


「うむ」


「クソッ!」


ポルターは、咄嗟に浜に捨てられた木杭を横薙ぎに振って、歩いてきたカジャの膝を打つと、カジャは悲鳴をあげて転倒した。


「何やってんだよ」


帳簿の男がカジャが転倒したのに気付き、船から降りてきた。杭は…腐っていたのか砕けてしまっている。


「また、うまくいかないのかよ!」


ポルターが帳簿の男に気を取られた一瞬の隙に、カジャはさっと起き上がって松明を小屋に投げつけ、炎が上がった。


「ああ、ダメだダメだ!」


眼の前で騒ぐ真犯人に気付くわけもなく、カジャは膝を擦りながら不思議そうに足元を見回したが、帳簿の男に急かされて、振り返りながらも船に乗り込み桟橋を離れていった。


ポルターは、立ち昇る炎を見て消火を諦め、戸板に斜交いに打ちつけられた板をどうにか外そうとしたが、板はビクともしない。


「何か…これか!」


軒先に曲げ木に使う鉄の楔が入った箱とカジャが捨てていったハンマーがあった。


「間に合え、間に合え!」


ポルターは楔を板に差し込みハンマーで打ったが、僅かな隙間ができただけで板は剥がれない。

中からゼンの叫び声が聴こえる。


「おい!誰か居るのか、出してくれ!」


「やってるってば!」


ポルターは楔を重ねて打ち込み隙間を拡げたが、それでも板は剥がれない。焦るポルターのすぐ脇で、異変を感じた馬たちがいななき暴れ始めた。


「それだ!」


ポルターは鞍に掛かった縄束を取って板の隙間に巻きつけ、もう一方を大きな輪にして、馬の首にかけた。


「さあ、行け!」


手綱を小屋から外し、木切れでバシッと尻を打つと馬は狂ったように走り出した。縄はあっという間に張り詰め、板をなんなく引き剥がし、そのまま引き摺られていった。同時に戸が外れて二人が浜にドッと倒れ込んだ。


「やった、やったぞ!」


歓喜も束の間、ポルターは目眩にふらついて仰向けに転がった。使命は果たされたのだ。


※ ※ ※


雨の峠道。泥濘に脱輪した馬車。騎士が4人と侍女が2人。これまでと違って、ぼんやりとした光景ではなく、声もはっきりと聞こえる。


『クソッ、迎えの場所まであと僅かなのに!』


『馬車はもうダメだ!マルックは姫様を連れて向かえ!』


視界が左右する。


『俺は、戻って足止めする!』


―これは、俺か。


馬車からマントを身に付けた女性が降りた。フードから覗くのは、肖像画で見た姿がそこにあった。


―やはり姫殿下が俺の主君なのだ


『ボルソ!縄をありったけ集めろ』


『分かった』


ボルソと呼ばれた男が縄を積んだ馬を引いてきた。


―憶えはないが、これが俺の盟友なのか


『俺も行く』


『よし、急ごう』


視界が揺れ、馬に乗ったのが分かった。

俺とボルソは白く烟る道へと走り出した。


―なぜ、そんなことに…


だが、考える間もなく再び暗転し、気が付いたポルターは静かな海を見ていた。

起き上がって辺りを見回したが、ゼンとザックの姿はない。きっと逃げたのだろう。

ポルターは浜に座り、記憶を反芻する。


「今回は、やけにはっきりしてたな。あの後どうなったんだっけ?ボルソ、マルック…隊長…」


静かな海を眺めながら思考を巡らせるポルターは暫く動かず、ようやく腰を上げた頃には、陽が高くなっていた。


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