暗夜行路
ポルターの幸運は続いた。街道は川沿いに延びており、地形を迂回して時折川から離れるものの大きく外れる様子もない。
「幸先は悪くない、だが」
ポルターの目は闇夜であれ見通せるが、陸からは遠く、二人の様子まではよく見えない。灯が乱れることなく川を下るうちは何も起きてない証になるが、いつどうなるかは知りようがない。
「クソッ、視えたところで何もできないじゃないか。ああ、失敗するとどうなるか、天使様に聞いておけば良かったな」
ポルターは、シロンが出発を急かしていたのは、恐らく到着前にゼンを始末させる時間を与えるためだと考えていた。
追い掛けるうちに諦めが首をもたげ、ポルターはいつしか速度を緩め、滑らかに追い越していく船の灯を眺めて頭をくしゃくしゃと掻いた。
「子牛…」
使命を諦めたとして、辺境領に辿り着つく唯一の手掛かりをここで見失えば、使命どころか主君を助けることまで諦めることになる。
「迷っている場合じゃないぞ!」
ポルターは、気を入れ直して駆け出し、空が白み始めた頃に事態は動いた。
灯が川を横切るように航路を乱し、フラフラと揺れながら流されていく。
「クソッ、始まったか!」
岸に乗り上げでもしてくれと願いながらポルターは走ったが、しばらくすると安定を取り戻し、再び川を下り始めた。
「何が起きた?ゼンはまだ無事なのか?」
自分の身に何も起きないのを訝しみながら、船を追跡するポルターの先に、終点が見えてきた。
「海かよ…」
街道の先に広がる湾には大きな帆船がいくつも浮かんでいる。浜に沿うように煌めく港街が見え、街道はそこに続いているようだ。
「不味い、見失う」
ポルターは焦った。沖に出られでもしたらおしまいなのだ。浜が見える坂から見下ろす海には無数の漁船が沖に向かっている。ポルターは、とにかくゼンたちの船に集中した。
幸い船は沖には向かわず浜辺に沿うように進み出し、伴走しながらしばらくすると更に岸に近づいてきた。ポルターが先に目をやると、小さな桟橋と壊れかけの漁師小屋がポツンとあり松明の火が見える。
―どうやら、そこが目的地のようだ
桟橋には、男が4人待ち構えており、小屋の脇に馬が3頭つながれている。
「さあ、どうする」
帳簿を持った男が怒鳴ると、一人が桟橋の先で船に向かって松明を船に向かって振り始めた。ポルターはゼンとザックが船を漕いでいるのを見て安堵した。
「とりあえず無事か」
近づいてきた船は男らによって桟橋に係留された。降りてきたザックは顔を腫らし鼻血を拭った跡がつき、ゼンはシャツが破れていたが目立つ怪我はなさそうだった。
「…ゼンが勝ったのか」
ポルターにとっては予想外の展開だった。
「なんだよ、お前ら喧嘩か?」
「…」
二人は答えず、互いに目を逸らしながら、帳簿の男の前に立った。
「まあ、いい。積荷を確認するから小屋で待ってろ」
二人は黙って従い、帳簿の男は沖を見た。
「ああ、面倒だ。二人かよ」
目つきの悪い髭面の男が子牛を連れてきて、帳簿の男の前を通り過ぎながら言った。
「こいつは朝一の馬車に乗せないと間に合わねえから、先に行くぞ」
「分かった。あとはやっておく」
男が向かう先の街道には、ちらほらと往来が始まっており、ここで荒事はなさそうに見えるが、ポルターにはゼンを見届ける使命がある。
「道標が、行ってしまった…」
この街が辺境伯の居城ではないのは会話から明らかなのを理解したポルターは、帳簿の男同様に面倒臭そうに呟きながら小屋に入っていった。
続




