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異世界を知った悪役令嬢、転生者を捕まえます  作者: 生ハム


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攻略開始

直ぐにナアマさんたちのいる部屋に向かい、第二王子殿下へ誘惑する手筈を話し合うことに。

彼らには年上女性としてのふるまいを軸に進めていくことを共有した。


「年上系かぁ。頼れそうっていう意味ではあんたにあってるんじゃない?」


「年上の女子(おなご)のぉ。儂にも覚えがあるぞい。若いころは振り向いてもらうために色々無茶をしたもんじゃ」


二人には概ね理解を得ることが出来た。問題は私が過去に弱みを見せる事なく生きて来たこと。評判として完璧な淑女という肩書きが広まってしまっている。


「私が頼り甲斐がある年上というのは概ねその通りですが、手引書の弱みという点が少し問題です」


「あ〜、確かに。あんた学園やゲームでも“隙のない完璧淑女”っていう肩書きだったもんね」


「確かにお嬢さんが弱音を吐くなんぞ、想像もつかんな」


私の評判はヤコブ殿下にも届いていると考えた方がいい。その前評判を覆す必要がある。幸いにも社交界には婚約破棄の事件で傷心中という話は流している。


そうでなければ、2ヶ月も屋敷の中で気球製作に集中できなかった。……おや、婚約破棄で心に傷を負ったというのは使えるのでは?


「婚約破棄で心に傷を負って、精神的に弱っているというのは如何でしょうか?」


これなら過去の評判と現在の状況に矛盾は無いはず。二人へ意見を求める。


「確かに、それなら無理のない設定だし、魅力的に振る舞う事もできるかも」


「……そこまで計算された振る舞いを行われると、女性不信になりそうじゃわい」


貴族女性にとって婚姻とは全て計算する物だ。私の場合は婚約者が計算外の愚か者だったから失敗したに過ぎない。今度はどんな人物だろうと計算できるように、盤面を完璧に操らなければならない。


その後は、ナアマさんに頼り甲斐のある女性の振る舞いと言動を教わり、レメク男爵からは男性が女性のどこに魅力を感じているのかを聴取した。


その後も情報を集めつつ、殿下への拝謁に備え準備を整え、ひと月ほどが過ぎた。

更に情報を集めている中で、なぜエサウ王子が私とヤコブ第二王子を紹介しなかったのかも調査で判明した。あの凡愚は優秀な私と優秀な弟が出会うと、自分の能力と比較されると考えていたらしい。


自分の実力を隠すために小細工をする時点で王の器ではなかったことがよくわかった。

ヤコブ殿下は凡愚とは違う事を願おう。


情報収集と準備をできるだけ行い、ついに直接ヤコブ殿下に拝謁する日がやって来た。王都にそびえる王宮へと、ハガルを引き連れて向かう。さて色々準備したが、直接会わないと分からないこともあるはず。そこは適宜振る舞いを修正して行くしかない。


王宮内へ到着し、王宮仕えの者に案内され応接用の部屋へ通される。扉を開けた先には既にヤコブ殿下がお待ちになっていた。すかさずカーテシーで挨拶する。


「お初にお目にかかります。サラ・ハダールと申します。本日、殿下に拝謁する栄誉を賜り、心より光栄に存じます」


「そう固くならないでください。僕の方が年下ですし、今回は婚約をお願いする立場なので。あとヤコブと呼んでいただいて大丈夫です」


「では、お言葉に甘えさせていただきます。ヤコブ殿下」

柔らかな笑顔を作り、感謝を伝える。


ふむ、調査通りの温厚な性格だ。それに立場をわきまえている。今回の婚約はあの凡愚が起こした事件の後始末の一環。


王家としても私以上の令嬢を別に用意出来なかったから、第二王子の婚約者には私しか選択肢が無かったのでしょう。


「こちらへどうぞ。本日はこちらからお招きしたのでお座り下さい」


ヤコブ殿下自らのエスコートで着席を促される。その際の所作や立ち回りも見事な物で、あの凡愚とは雲泥の差だった。というよりお茶会でエスコートされた事などあっただろうか。思い出すことすらできない。


互いに着席し、殿下が従者へ紅茶を出すように指示を出す。準備を進めている間に殿下が話しかけて来た。


「貴女にお会いしたら言いたいことが有ったのです。愚兄がご迷惑をおかけしました。大変申し訳ございませんでした」


謝罪を向こうからして来るとは。報告書通りの責任感もある。


「顔をお上げくださいませ。全てはエサウ殿下のお心を引き留めることができなかった私の不徳のいたすところです。ヤコブ殿下が謝罪する事ではありません」

困惑した表情で慌ててヤコブ殿下に顔を上げるように伝える。


本当は嘘だ。全てはあの凡愚の責任だと思っている。私に非など無い。そんな考えを顔に出さずに殿下との会話を続ける。


「実のところ、今回のお誘いは私にとっても渡りに船だったのです。婚約破棄を多くの人に目撃され、同年代のめぼしい子息達はすでに婚約済みでしたので、一生結婚できないものだと思っておりました」


ほんのり染めた頬と潤んだ瞳で殿下を見つめて本音を吐露する、フリをする。


ここで弱々しい姿で困っていたという主張を忘れない。完璧な淑女の殻を捨てて、頼れるのは貴方しかいないと暗に示す。


「じ、実は僕もです」


殿下の表情に乱れが見えた。これは弱っている年上女性が効いているのではないか?

殿下は続けてーーー


「兄が王位を継いで子が生まれるまでは、婚姻するつもりはありませんでした。余計な火種を起こさない事も僕の役目でしたので」


と自身の考えを語り、人の良い笑顔を浮かべた。報告書上では把握しているつもりだったが、エサウ王子とは全く性格が違うな。


「それに、突然王位を継承することになってしまって途方に暮れていたんです……。今まで兄上が王になると信じて生きてきて……急にいろんなことが変わって、でもどうしようもなくて」


殿下は長いため息を吐きながら、将来への不安を口にした。そうか、ヤコブ殿下は近頃の変化に対して、強い不安を覚えているのか。


配膳されたティーカップを持ち上げている両手には強い力が入っている。カタカタと震えた音が静かな部屋に響いていた。


なるほど。ここからは弱々しく振る舞う、か弱い淑女はやめよう。ナアマさんから教わった、心の弱さに共感して信頼を得る方法を試そう。


「私もです。ヤコブ殿下」


優しい表情と声色で殿下へ言葉をかける。こちらも出されたティーカップを口へ運び、口をつける。


「私も大きく人生が変わりました。ヤコブ殿下と同じくエサウ殿下と結ばれ王妃となるものだと信じて幼い頃より、勉学に励んで参りました。しかし道が突然なくなり、闇夜を歩くが如く不安な日々を過ごしております」


殿下へ私の不安も吐露する。同時にティーセットを持つ手を振るわせ音を立てておく。殿下と同じくらい不安です、と訴える。


「も、申し訳ございませんっ、……以前ならこの様な粗相は致しませんでしたのに。私もまだ立ち直れていない様です」


さらにダメ押しで、傷心から立ち直れていないと畳み掛ける。

横目でヤコブ殿下を盗み見て反応を伺う。


「い、いえっ!粗相なんて思ってません!むしろこちらこそ申し訳ございません!……さっきの僕は自分のことだけでした。不安なのは貴方も同じだというのに」


どうやら信じてくれたらしい。


「ヤコブ殿下、私は殿下と支え合っていけば、この不安と向き合えるのでは無いかと思っております。ヤコブ殿下も同じお気持ちですと、私、嬉しく存じます」


はにかみながら、机の上にあった殿下の手へ自分の手を伸ばす。重なった自分の指先で殿下の拳を包み込む。


「あっあの、ぼ、僕も同じ気持ちですっ!」


顔をリンゴの様に赤く染める殿下。報告書通りの女性経験の少なさから、身体のふれあいには慣れていない。


「殿下の様な殿方となら生涯を共にしたいですわ」


「……まだ兄の様に愛かどうかわからないですけど、僕も、貴女と生涯を共にしたい。僕と婚約してください」


手を握り返して、真剣な眼差しで私の目を見つめる殿下。その言葉を待っていた。


「はい、喜んでお受けいたします。……とても嬉しいです」


涙目で瞳を潤わせ、噛み締める様に婚約の申し出を了承する。

側から見れば恋愛劇でも作れそうなほど、絵になっていることだろう。


婚約の話がまとまり、本日のお茶会がお開きとなる時間まで過ごした。ヤコブ殿下に合わせて、会話に花を咲かせておいた。


帰りの馬車に乗るまでお見送り頂けるほど、殿下と親しくなることができた。

些か懐きすぎだとも思うが、御しやすくなるので放置でいいだろう。


「次のお誘いのお手紙お待ちしております。それではヤコブ殿下、ご機嫌よう」


「はい!また会いましょう!」

すっかり気を許してくれた殿下へお別れの挨拶を交わし領への帰路へつく。


馬車の中で本日の成果を振り返る。当初の目的通りに婚約を結ぶことができた。手引書の効果も確かめる事ができた。


「ヤコブ殿下と進む未来が楽しみですわね。ねえハガル」

思わず頬が上がってしまう。


「はいお嬢様」

ハガルも口端を上げながら愉快だと言わんばかりの声色で返してくれる。


「……ふふ、ふふふ……ふ、ふふふ……」


領への帰路。馬車の中では、妖しい笑い声だけが響いていた。


読んでくださりありがとうございます。よろしければ評価を頂けますと励みなります。

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