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異世界を知った悪役令嬢、転生者を捕まえます  作者: 生ハム


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5/19

気球を作りましょう

Sideナアマ


次の日


アタシは用意された昼食を食べ終えて、部屋で1人過ごしていた。備え付けられているベッドは派手じゃないけど、しっかりとした作りのベッドの上に寝転んでた。


天井と視界の隅の窓から覗く青空を、交互に眺めて暇を潰そうとしていた。用意された娯楽は分厚い歴史書と聖典。それと手芸道具一式だけ。


こんなの全然娯楽じゃないでしょ。


「あ〜、ゲームした〜い。配信見た〜い。新作のゲームどうなったかなー?」


アタシは前世の心残りを思い出してた。

始めは異世界転生に舞い上がったけど、冷静になって1人で過ごしていると、なんか現実が見えて来ちゃった。


それは文明の差。今思うと異世界転生って、過去にタイムスリップするだけじゃない?


過去に戻りたいとか、そりゃ思ったことはあるけどさ。けどそれは現代に戻ってくる前提じゃん。


実際は全く逆で、アタシは技術レベルの低い異世界へ転生して帰れなくなった。アタシが現代に戻るチャンスはもう一度死ぬという博打。けどアタシは死ぬことの恐さを知ってしまった。


多分アタシは無意識に、異世界転生した喜びだけに目を向けてた。そして恐怖と文明の差から目を背ける為に、アタシはゲームシナリオ通りの行動を起こした。


その結果、あの悪役令嬢に捕まった。


(昨日、男爵と会わせるって言われたけど……)


昨日言われたことを思い出した。すると突然、部屋のドアが開かれサラが入ってきた。その後ろにはハガルとか言う侍女と、見知らぬ老人が立っていた。


「ごきげんよう、ナアマさん」


いつもと変わらぬ声色で挨拶をしてくるサラ。今日もまた根掘り葉掘り質問されるのだろう、とアタシは覚悟を決めた。



________________________

Sideサラ


私はナアマさんに挨拶をかわし、連れてきた老人の紹介を始める。


「ナアマさん、こちらはレメク・レハヴィン男爵。男爵、こちらはただのナアマ様です」


「ん~、ナアマ?はて、つい最近死んだと、話題になっていたあの聖女のナアマかの?」


「ええ、そのナアマさん本人です。死んでいることにしているので、今日の事は他言無用ですよ」


「相変わらず、あくどいことをやっておるんかいの」


公爵令嬢相手に砕けた口調で話す老人、彼は私が支援している発明家。ナアマが見せた気球の再現と実用化研究のために彼を屋敷に招いた。


「ではナアマさん、昨日頼んでおいた気球の模型は完成していますか?」


そう話しかけると、ナアマは部屋の隅にあった模型を持ってきた。私は魔法で火を着け、模型をレメクの前で飛ばして見せた。レメクは大きく目を見開き、浮いている模型の周囲を歩き回りながら観察し始めた。


「こりゃ......なんと......興味深い......!」


小さい声で独り言をつぶやいて考察している男爵に声をかけ、意識を戻す。


「男爵、この模型を人が乗って、空を飛べるまで実用化してほしいのです。必要なものはすべて用意いたします」


「うむ、うむ、喜んでお受けいたしますぞ!こりゃ面白くなるぞい......!」


かくして私主導による気球開発が始まった。

屋敷の一角に建つ物置小屋を拠点にして、模型とナアマの証言を元に、研究と試作を行った。大型で再現するのに必要な部品を作るために、領の職人たちを屋敷へ招き、制作させた。


ナアマの生存が漏れぬように、レメク男爵だけが疑問点や、気球の形などを直接会って質問することにした。そのため彼ら職人たちはレメク男爵の発明だと信じて、作業を進めた。


研究と試作を始めて二か月ほどが経過した。

模型では紙であったが、制作したのは布製の丸い球皮となり、人を乗せる籠を浮かすために大型になった。計算と試作を繰り返し、実験を重ね、時に失敗し、時に成功し、完成にあと一歩までたどり着いた。


本日は高い高度まで実際に浮くかどうかの実験を行い、目標高度まで浮けば完成という段取りであった。目標高度まで位置に印を付けたロープを、籠部分に結びつけ、風に流されないように大きな木に固定した。


実験搭乗員は私の指示によって、炎の魔法が得意な魔法研究者を2名、地元のギルドに所属する冒険者を1名選出した。制作者のレメクは選出しなかった。彼は高齢であるのと、貴重な人材を実験失敗で失う訳にはいかないため。


冒険者は高高度から万が一、落下しても鍛えていて頑丈な為、僅かにだが生存の可能性が高く、失敗の要因を伝えるために選んだ。


「さて、では始めなさい」


遂に私の指示で飛行実験が始まった。


地上待機の研究者の一人が風を起こし、球皮をすこし膨らませる。二人目の研究者が吊り下げたストーブに炎を起こし、温めた空気を球皮の中に送る。すると徐々に球皮は起き上がり始め、ふくらみを増していった。


しばらくして球皮は完全に膨らみ切った。固定用のロープが浮き始めようとする気球を必死に地上につなぎとめていた。

準備が整い、搭乗員の三人が乗り込む。


「後は頼みましたよ」


搭乗員たちに声をかける。研究者2人が炎の管理を引き継ぎ、冒険者は上空の様子を記録するメモ帳を抱えていた。


固定用のロープを次々に外し、高度測定用の長いロープだけが残された。研究者が魔法で火力を高め高度を上げ始める。


徐々に高度を上げ始め、屋敷の屋根より高い位置まで登ると、周りから歓声が上がり始めた。


「あそこから更に浮くことが出来れば、完璧ですわね」

「そうじゃのぉ」


ロープには約一キロメートルの位置に印がつけられていた。ナアマさんが口にした高度を参考にいたしました。

そして印の位置でロープはピンと真っ直ぐに天へと

伸びた。


「目標高度に到達しましたー!」


研究員の一人が報告を上げる。見学していた職人たちは歓喜の声を上げていた。


「一つ目の山場は越えましたわね。しかしここからが次の山場ね」


「その通りでございます、お嬢様」


そしてここから約一時間、空中での耐久実験が始まる。長時間飛行で問題がないとも限りません。そのための実験でした。


上空の搭乗員とは連絡が取れませんし、ロープが切れない様に複数人で監視していましたので、私は庭のガゼボでお茶を飲んで過ごすことにしました。


一時間が経ち、ガゼボから戻ると、職人や研究者たちが忙しなく行きかっている。

戻って来た私をレメク男爵が見つけると声をかけて来た。


「おお、お嬢さん、戻ってきよったか。ほれ見てみぃ、高度が下がって来たぞ」


ロープを見ると高度が下がってきているのが見て取れた。


「いよいよですわね」


見上げると豆粒ほどの大きさだった気球が近づいてきている。

そして目視で搭乗員たちが見え、全員無事な様子で、手を振って戻ってきた。

地上に着いた気球を再びロープで固定作業を進め、実験は大成功で幕を閉じた。


上空の様子を報告する搭乗員たちの空の旅の話を聞いていると、彼らの話す空の景色への好奇心が湧いた。


「ここまで支援したのですから、せっかくなら私も飛んでみたいわ」


「お辞めください、お嬢様……!」

ハガルからは猛反対された。


レメクは大きな声で笑い飛ばし

「若いって良いのう!好きにしたらどうじゃ!」

と肯定した。


周囲の研究者や職人たちは、この場で身分が最も高い私の意見に反対できなかった。

結局搭乗員として私、ハガル、レメクの三人で乗ることに。


高度は先ほどよりも低くして、飛び始める。

ハガルは私の腰に右手を強くまわし、左手を籠の縁に強く握りしめていた。


「お、お嬢様……あまり、外側には……行かないように」


ハガルの手と声は少し震えていた。


私はお腹を窮屈に思いながら、空からの景色を目に焼き付けていた。


(なんて美しい景色なのでしょう……!)


眼下に広がる景色に心が震えた。


こんなにも美しい景色を知ることが出来るとは。全てはナアマさんの持つ知識のおかげだ。


「彼女は本当に”転生者”ですわ」




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