事故
子供を産み身軽になった体で久しぶりに大学院を訪問した。最後に来た時と変わらず、魔法研究棟では、ニムと魔法研究者達は転移魔法の研究に勤しんでいる。未だに成果は出ていないが、魔法で場所を移動するという発想に研究者達はいたく魅入られた様で寝る間も惜しんで、研究する日々だという。
睡眠不足は効率が下がるのでやめる様に伝え、レメクが主に管轄している工学研究棟にも足を伸ばしてみた。そこでは気球の改良であったり、鉄道の研究を進めていた。転移魔法を研究しているが、魔法に依らない長距離移動の方法も同時並行で模索し続けている。
訪問の後は、再び子育ての日々。イサクはあっという間に大きくなり、三歳になった。大病や怪我で命を落とすことなく成長してくれた。これはマナさんの癒しの加護のお陰だ。
しかし、いつでも直ぐに治療できるという訳ではないので、もうひとり子を成しておくことにした。
再び懐妊し、前回と同じ方法で大きな問題なく出産まですることができた。
「王妃様、元気な女の子にございます」
今度は王女が生まれ、レベッカと名づけた。
イサクは妹が生まれたことに興味深々であり、頻繁に様子を伺い、拙いながらも世話を願い出たりしている。どうやら兄という自覚を順調に育んでいる様だ。男児であったら対抗心を燃やしてエサウの様になっていたかもしれないな。そういう点では妹でよかったかもしれないか。
二人目を出産したのはいいが、女である。この娘にも健やかに育ってもらいたいが、男児の確保も大事だ。再び子育てが落ち着いたら子を成すと決めた。
◇
子育ての合間に試作の転移魔法ができたので実験を行うという知らせを受け、子供達をヤコブと乳母達に任せて、大学院へ足を向かう。
大学院の一角を封鎖し、魔法研究者達とニムが準備を整えており、学院長としてレメクも見学に来ていた。
「いよいよじゃのぉ、わしは魔法はからっきしだがワクワクしておる。お嬢さんはどうかの?」
「私もです。これがうまくいけば我が国は豊かになり私や子達の生活も豊かになりましょう」
転移魔法はきっかけに過ぎない。転生者が現れるのをただ待つのではなく、異世界の人物を直接呼び出し知識を得ることが可能になれば今よりも暮らしやすい世で私は生きることができる。
「準備できましたー!」
研究者の一人が並んだ二つの転移魔法の魔法陣の準備完了を告げる。そこから全員所定の位置に立ち、魔力を流したり、観察体制に入ったりしている。
魔法陣から魔法陣へ空箱を移動させる事を今回の実験で確かめる。魔法陣が輝き始め、魔法陣の中央に配置した実験用の空箱がガタガタと大きく揺れ始める。
バンッ!!
光で目の前が見えなくなると同時に誰かの叫び声と爆発音が周囲に響いた。
光と爆発による土煙が晴れるとそこは凄惨な現場へと様変わりしていた。
数人の研究者だったと思われる肉片が地面に転がっており、箱の残骸と思われる木片がまだ生きている研究者達に突き刺さっている。
幸いにも私とレメクは離れた場所にて見学していたが、近くには木片と誰かの肉片が転がっており、怪我をしていないのが奇跡だった。
その後怪我人を収容し、軽傷や無傷だった者達に現場の片付けと、原因の究明を命じた。
護衛やハガルたちの進言を受けて直ぐに王宮へ帰させられそうになるのを止めて大学院に残る。私が指示した研究だ。私の目でしっかりと原因を知ることが大事だ。
この様なことが再び起きれば、敵対的な貴族達の格好の的だ。大学院は閉鎖されかねない。再発防止も含めた後処理が必要になる。
「後処理が終わるまで大学院に寝泊まりいたします。子供達のこと頼みましたわよ」
「わかった。君もあまり無茶しない様に気をつけてね」
「ええ、もちろんですわ」
暫く大学院に滞在する旨をヤコブに通話石で伝え、通話を終える。
再び事故現場へ戻ると、凄惨な光景を見て片付けはあまり進んでいなかった。研究者達は血の跡や肉片を片付けるのに躊躇しており、唯一迅速に働いていたのはニムただ一人だった。
「良い働きぶりですね、ニム。流石に手慣れていますね」
「ああ、アンタか。まあ冒険者だった時は、クエストに失敗した奴の体をギルドに持って帰ったりしてたしな。これ位普通だ」
その後もニムは袋に肉片や手足を入れる手を動かすのを止めない。
「そのままで構いません。今回の事故は何が起きたか見ていましたか?」
「そりゃ近くで見てたよ。途中までは想定通りだったが、箱が震え始めたのが予定外だったな。今の魔法陣は物を吸い込んで、もう一方に吐き出すって感じなんだ。それがよくなかった。」
「どの様に悪かったと?」
「吸い込む力が強過ぎたんだ、多分。見ていた限りじゃ、箱は吸い込む力に耐えきれなくて途中で爆散。バラバラになった破片が勢いよく飛び出してグサリって感じだと思う。それに近くにいた研究者も魔法陣に吸い込まれてバラバラになった。これが俺の予想だ」
「ありがとう。参考になったわ」
話を切り上げ、その場から去る。他にも調べなければならない。折角の貴重な人材達に死傷者を出してしまった。死んだ者の中にはきっと優秀な者や奨学金を受け取っている者もいたかも知れない。
今後も事故で人員を減らすのはよろしくない。実験は構わないが、もっと安全を確保してから行うべきだった。
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