転移魔法
転生者であるニム・ロドを配下に引き入れ、王都ソドムに戻った私は計画通りの事が運びに私は大いに満足していた。
早速、大学院の講師補佐としての地位を与え、異世界の技術を研究させる日々を送らせている。
ニムはさすが魔法を使える転生者と言う事で、異世界の発想を魔法で再現するのには慣れた様子である。お陰で今までマナさんの頭の中にしかなかった道具たちの研究が大きく進んだ、と言う報告が多く入ってきた。苦労して捕まえた甲斐があると言うものだ。
ニム・ロド自身は「今度こそ間違えない」「今度は皆の為に力を使う」と周囲に言って憚らないらしいが、本人にやる気があるにはいい事だと思い、放置している。
そしてマナさんに事をしきりに聞き回っているらしい。どうやらバベル村の娘が忘れられない様子。確かに茶髪で素朴な姿は重なるが、こだわる意味がわからない。当分はマナさんを連れて行かないほうがいいだろう。
それに平民が多い大学院だ。茶髪で素朴な娘などいくらでも居るので、どうせ新しい恋が勝手に始まる。
ニム・ロドを加えてからの大学院はより活気付いて、研究が進んだ。そして三回目の大学院入学試験の準備を進めている頃に、国王陛下が退位する事を発表した。
近頃は執務はほぼ全てヤコブ殿下が行い、私も補佐しており、実質引退状態だったがついに退位してくれるらしい。
退位の決め手は、エサウの断種を決断した事で、罪悪感から徐々に心をお病みになっていたらしい。軟弱な王だ。
近く戴冠式を行う知らせを受け、今回の入学試験は全てレメクら大学院の者で運営させる事に。ちょうどいい機会だ。私がいなくても問題ない事を証明してもらいたい。
王太子妃として戴冠式に出席し、遂にヤコブ殿下が国王になり私は王妃となった。
◇
「国王となったので子を成したい」
国王となったヤコブから突然そう告げられた。
考えてみれば挙式を上げたにも関わらず跡取りを作らず、仕事しかしていなかった。まあタイミングとしても今がちょうどいい。私が妊娠して政務から長期間抜けても問題ない程度には、大学院や影たちの土台は固められた。
「はい、もちろんですわ。もしもの事を考えると男児が二人以上欲しいですわね?」
「あ、ああ……その通りだ」
年上女性の余裕を見せつけつつ、艶やかな笑顔でヤコブ王を揶揄うと、彼は耳を赤くして目を逸らす。
こうして定期的に魅了技術を使って好感度を上げ、ヤコブを支えている。未だに女性経験が私だけのヤコブには効果抜群だ。
その日から、登る朝日と共に二人で起床する日々が始まり、三ヶ月もすると私は懐妊した。
◇
妊娠が発覚して数週間はつわりが酷く、公務も執務も何もできなかったが、マナさんが癒しの加護を持っている事を思い出し、試しに私への力を行使させてみた。するとつわりが緩和され仕事への支障がなくなった。
やはりマナさんを生かしておいて正解だった。
その後は大きくなっていくお腹を眺めながらも、大学院の様子を見に向かう。
「今回も入学試験者には転生者はおらんかったのぉ」
「その様ですわね。このままだと彼ら二人だけに頼ることになります。どうにかしないと」
今回も転生者は見つからなかった。このペースだとこちらから探す方が早いが、ニム・ロドのように目立つ転生者ばかりでは無い。国内に情報網を張り巡らせたが、ニム・ロドの様な異常の報告はない。
国内にいないとなれば、国外へ目を向ける必要があるが難しいものだ。
何か転生者を集める方法が無いかをニムとマナさんにそれぞれ聞いてみた。
「転生者を探しだす妙案などありますか?」
「転生者を探し出す方法? うーん、この世界にいる転生者を呼び出すとかどうだ?」
「ニム・ロドは呼び出すと言っていましたが貴女ならどうですか?」
「転生者を呼び出す、ですか? ああ、それなら前世で異世界に転生するんじゃなくて、異世界に召喚される異世界転移っていう形の小説がありました」
「異世界転移ですか。なるほど、いいですね」
異世界転移。まさしく求めていたものだ。探すのが難しいなら、こちらに呼び出してしまえばいい。異世界の発想は毎回、私を驚かせてくれる。。
早速、異世界転移魔法の研究を指示を出そうとしたが一つ問題があった。
私は情報の統制を行っているので、異世界や転生者の存在はまだ公表していない。
突然異世界の人間を連れてくる魔法の研究を指示しても教会から異端扱いされ失脚してしまう。なので情報を隠しつつ、偽装した目標に向かわせて研究を進ませる必要がある。
更に詳しく転移魔法についてマナさんに聞いてみると、転生者の世界での創作物では移動にも使っているとのこと。移動を便利にする魔法の研究として転移魔法の研究を行う様にさせた。
そして私は出産へ向けた準備のため、しばらくは足を運べないことを伝え、王宮で時折、進捗報告を聞く日々を過ごすとあっという間に時は過ぎ去ってしまう。
十ヶ月が経ち、臨月となった私は大きく膨らんだ自分のお腹の重さに苦戦しながら日々を過ごしていた。
(私の母もこの様な気持ちだったのだろうか?)
今は亡き母を思い出しながら、子が生まれた後のことを夢想する。どの様に育て、どの様に接して、どの様に教えるか。その様なことを考えていた。
一方間違えれば、エサウの様な愚か者に自分の子がなると思うとおぞましい気持ちになる。どの様な教育をエサウに施したか情報を集めなければ。
そして母が私に施してくれた様な教育を与えよう。
色々考えているとなんだかお腹が痛くなってきた。どうやら産まれる前兆が来た。すぐにハガルとマナさんを呼び出す。
「サラ様!すぐに医者をご用意いたします!」
「アタシは癒しの加護をかけていればいいですかね?」
ハガルはすぐに医者を呼びに部屋に外へ駆け出して行ってしまった。マナさんには出産中付きっきりで加護をかけてもらい、生存率を上げる。マナさんたちの世界と異なり、この世界では女性が出産で死ぬのは珍しく無い。
やはり異世界の医療技術は素晴らしい。いつか手に入れてみたいものだ。
などと余計なことを考える余裕がある位には加護の力は絶大だった。よく聞く苦労話などが嘘に様に、すんなり赤子は生まれてきてくれた。
「王妃様、元気な男の子でございます」
元気よく産声をあげる初めての子は王子だった。一先ず後継者を産むことができて安堵した。
名前はイサクと名づけた。
出産して一週間は体力を回復させるべきだと医者に言われたが、癒し加護の力で妊娠前の体力とさほど変わり無かったので、直ぐに子育てをやってみる事にした。
とは言っても相手はまだ言葉も話さない赤子で夜泣きや、汚物処理、食事はほぼ全て乳母達が交代で行なっている。私がやる事など、母乳の準備が終わるまでぐずっている我が子をあやすことくらいだった。
それでも親だからか、そこそこ愛らしく思えてくるのが不思議だ。毎日の成長も面白く、徐々にできることが増えていく様は頼もしくあった。
ヤコブも時折イサクの様子を見にきたり、抱き上げたり一人の親として接していた。
イサクの首が座ったり、一人で座れる様になったり、寝返りやうつ伏せができる様になる度、私よりもヤコブの方が喜びの声をあげていた。
「すごいぞ!イサク!さすが僕の子供だ!」
どうやらヤコブは世に言う親バカなのだと思われる。
◇
子供を産み身軽になった体で久しぶりに大学院を訪問した。最後に来た時と変わらず、魔法研究棟では、ニムと魔法研究者達は転移魔法の研究に勤しんでいる。未だに成果は出ていないが、魔法で場所を移動するという発想に研究者達はいたく魅入られた様で寝る間も惜しんで、研究する日々だという。
睡眠不足は効率が下がるのでやめる様に伝え、レメクが主に管轄している工学研究棟にも足を伸ばしてみた。そこでは気球の改良であったり、鉄道の研究を進めていた。転移魔法を研究しているが、魔法に依らない長距離移動の方法も同時並行で模索し続けている。
訪問の後は、再び子育ての日々。イサクはあっという間に大きくなり、三歳になった。大病や怪我で命を落とすことなく成長してくれた。これはマナさんの癒しの加護のお陰だ。
しかし、いつでも直ぐに治療できるという訳ではないので、もうひとり子を成しておくことにした。
再び懐妊し、前回と同じ方法で大きな問題なく出産まですることができた。
「王妃様、元気な女の子にございます」
今度は王女が生まれ、レベッカと名づけた。
イサクは妹が生まれたことに興味深々であり、頻繁に様子を伺い、拙いながらも世話を願い出たりしている。どうやら兄という自覚を順調に育んでいる様だ。男児であったら対抗心を燃やしてエサウの様になっていたかもしれないな。そういう点では妹でよかったかもしれないか。
二人目を出産したのはいいが、女である。この娘にも健やかに育ってもらいたいが、男児の確保も大事だ。再び子育てが落ち着いたら子を成すと決めた。
◇
子育ての合間に試作の転移魔法ができたので実験を行うという知らせを受け、子供達をヤコブと乳母達に任せて、大学院へ足を向かう。
大学院の一角を封鎖し、魔法研究者達とニムが準備を整えており、学院長としてレメクも見学に来ていた。
「いよいよじゃのぉ、わしは魔法はからっきしだがワクワクしておる。お嬢さんはどうかの?」
「私もです。これがうまくいけば我が国は豊かになり私や子達の生活も豊かになりましょう」
転移魔法はきっかけに過ぎない。転生者が現れるのをただ待つのではなく、異世界の人物を直接呼び出し知識を得ることが可能になれば今よりも暮らしやすい世で私は生きることができる。
「準備できましたー!」
研究者の一人が並んだ二つの転移魔法の魔法陣の準備完了を告げる。そこから全員所定の位置に立ち、魔力を流したり、観察体制に入ったりしている。
魔法陣から魔法陣へ空箱を移動させる事を今回の実験で確かめる。魔法陣が輝き始め、魔法陣の中央に配置した実験用の空箱がガタガタと大きく揺れ始める。
バンッ!!
光で目の前が見えなくなると同時に誰かの叫び声と爆発音が周囲に響いた。
光と爆発による土煙が晴れるとそこは凄惨な現場へと様変わりしていた。
数人の研究者だったと思われる肉片が地面に転がっており、箱の残骸と思われる木片がまだ生きている研究者達に突き刺さっている。
幸いにも私とレメクは離れた場所にて見学していたが、近くには木片と誰かの肉片が転がっており、怪我をしていないのが奇跡だった。
その後怪我人を収容し、軽傷や無傷だった者達に現場の片付けと、原因の究明を命じた。
護衛やハガルたちの進言を受けて直ぐに王宮へ帰させられそうになるのを止めて大学院に残る。私が指示した研究だ。私の目でしっかりと原因を知ることが大事だ。
この様なことが再び起きれば、敵対的な貴族達の格好の的だ。大学院は閉鎖されかねない。再発防止も含めた後処理が必要になる。
「後処理が終わるまで大学院に寝泊まりいたします。子供達のこと頼みましたわよ」
「わかった。君もあまり無茶しない様に気をつけてね」
「ええ、もちろんですわ」
暫く大学院に滞在する旨をヤコブに通話石で伝え、通話を終える。
再び事故現場へ戻ると、凄惨な光景を見て片付けはあまり進んでいなかった。研究者達は血の跡や肉片を片付けるのに躊躇しており、唯一迅速に働いていたのはニムただ一人だった。
「良い働きぶりですね、ニム。流石に手慣れていますね」
「ああ、アンタか。まあ冒険者だった時は、クエストに失敗した奴の体をギルドに持って帰ったりしてたしな。これ位普通だ」
その後もニムは袋に肉片や手足を入れる手を動かすのを止めない。
「そのままで構いません。今回の事故は何が起きたか見ていましたか?」
「そりゃ近くで見てたよ。途中までは想定通りだったが、箱が震え始めたのが予定外だったな。今の魔法陣は物を吸い込んで、もう一方に吐き出すって感じなんだ。それがよくなかった。」
「どの様に悪かったと?」
「吸い込む力が強過ぎたんだ、多分。見ていた限りじゃ、箱は吸い込む力に耐えきれなくて途中で爆散。バラバラになった破片が勢いよく飛び出してグサリって感じだと思う。それに近くにいた研究者も魔法陣に吸い込まれてバラバラになった。これが俺の予想だ」
「ありがとう。参考になったわ」
話を切り上げ、その場から去る。他にも調べなければならない。折角の貴重な人材達に死傷者を出してしまった。死んだ者の中にはきっと優秀な者や奨学金を受け取っている者もいたかも知れない。
今後も事故で人員を減らすのはよろしくない。実験は構わないが、もっと安全を確保してから行うべきだった。
どの様な手続きで実験を許可したのか記録を調べると余りの杜撰さに驚いた。皆早くに成果を上げたいがために、安全性を度外視した実験を多く行っていたのだ。記録を調べると小さい怪我を起こす実験
から始まり、骨折する程の事故まで過去に起きており安全性への意識の欠如が見て取れた。
挙句、寝ずに研究を続けていたために判断力が低下した状態での実験と実験許可を行う日々をを日常的にしている始末。
自分たちの価値をと危険性を低く見積もった結果が事故につながったと考えられる。
この環境を改善しなければ、再び大きな実験事故を起こすだけだと思い、新しい規則を作り上げて徹底的に遵守させる事にした。
まず新しい安全基準を設け、実験をする際は必ず離れたところか、近くで観察する際は身を守る準備をしてから行う様に通達。
怪我や事故をを起こした際は必ず報告書を提出する様に指導した。
また研究者達に判断力の低下がいかに恐ろしいかを今回の事故を教訓として胸に刻む様に、私自ら説教を行った。これで意識を変えてくれれば良いが、人は都合が悪いことは忘れる生き物だと、エサウで学んだので定期的に注意喚起しなくては。
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