転生者ニム・ロド 後編
残骸を片付けて数時間後、大規模な兵隊がやってきて村を包囲してきた。
「何でもう情報が伝わってるんだ……?」
(おかしい。流石に数時間じゃ情報は伝わらないはずだし、動きが早すぎる)
「まさか……!」
さっき兵士が握っていた魔石が原因だと直感で分かった。
「まさかあの魔石に無線みたいな機能があって、応援を呼んだのか……!」
この世界に遠距離会話ができる技術ができているなんて全然知らなかった……。
兵隊たちは村の入り口で簀巻きにされていた兵士を回収すると、防壁に入らない距離から勧告してきた。
「兵士を傷つけた者たちよ聞け!速やかに武装解除せよ!」
まずい、向こうは兵士を大勢で怪我を負わせたと勘違いしている!
怪我させたのは俺一人だし、この村で戦える住人は俺一人だ。村人たちは戦うべきだとだと言うが、冷静になって欲しいと伝え、籠城する作戦を立てた。この村の備蓄と、俺の魔法があれば数ヶ月は持つと伝える。
「一致団結すればこの状況を乗り越えられるはずだ!皆頑張ろう!」
「おおー!」
村人たちの心を一つにして立ち向かう気持ちを高めた。しかし俺は相手の事を甘く見ていた。
兵隊も野営の準備を整え、村を完全に包囲し街道も封鎖して誰も村に入れないようにしてきた。
「いや~、我々も信用商売なもんで......すんません旦那ぁ……」
「国に逆らって冒険者資格を剥奪されたくはないし......良い村だったぜ、じゃなっ……!」
そんな本気の包囲戦に恐れをなした商人や、戦闘要員として頼ろうとしていた冒険者達が次々と村から出ていってしまった。
人手は減ってしまったが仕方がない。彼らはこの村とは無関係なのだから。村の皆で準備を進めてその日から籠城が始まった。
初めは、兵隊たちも包囲するだけで、なにもしてこなかったから兵隊の面子を立てるためだけにやって来たのだと思っていた。それが間違いだとも気づかずに。
三日経っても動きがなかったので、俺たちは普段の生活へ戻りつつあった。だが奴らはそんな俺たちの気が緩むのを狙っていた。
見張り以外は寝静まった夜に奴らは火矢をはなって、畑と家畜小屋を燃やした。見張りが見つけた時には火は大きくなっていて対処できない。
すぐに飛び起きた俺が魔法で消し止めることが出来たが、家畜は焼け死に、畑で育てていた農作物も消火した魔法で大きな被害を与えてしまった。
その日から毎晩火矢が飛んでくるようになり、見張りの増員と俺が夜間寝ずに見張ることに。
火矢の他にも夜、村人が寝静まったころに兵隊たちが、壁の向こうから騒音を出すようにもなった。そのせいで皆が慢性的な寝不足に。特に老人や小さい子供は弱っていった。
数日間の寝不足からくる注意不足で、見張りの精度もどんどん落ちていき、火矢の対応が遅くなるという負のループにも突入した。
奴らの巧妙な作戦により、あれだけ士気が高かった俺たちは、今じゃ皆大きな隈を作りふらふらと頭を大きく揺らし、睡魔と戦う事しかできない。
(このままだとまずい。戦闘能力がない皆はもう限界だ......。俺も寝不足から普段より弱体化してるはずだ……今攻め込まれたら勝ち目が低い……)
今の状況を分析しても、残された道は魔法とゴーレムを使って俺が攻撃を仕掛けるしかない。
「二ムさん!病人が出たから来てください!」
そう思い作戦を練っていた時、食事をしていた村人の一人が倒れたとツァイルが慌てた様子でやって来る。
急いで倒れた住民の元まで向かうと、口から泡を吹き大きく痙攣していた。この症状は魔物の毒に酷似している。急いで解毒の魔法を使う。
「助かったぜ旦那......」
「ああ、だけどこれは明らかに毒だ。今何か食べたりしたか?」
「ああ、眠気を覚まそうと井戸の水を汲んで一杯、井戸水を飲んだんだ。そしたら苦しくなってよ......」
井戸水を飲んだ。その証言を聞き走って井戸へ向かう。井戸の中を魔法で明るくして覗き見ると水面には封が開けられた小瓶が浮いていた。引き上げて中身を確認すると刺激臭が鼻を衝く 。
「毒だ......。あいつらは見張りの目をかいくぐって井戸に毒を入れやがった......!でもどうやって......?」
村唯一の井戸が毒に汚染されたので、村の中を通る川水を使うように指示した。
しかし川水も「最近薄汚れた色になった」という報告があり、急いで防壁の上から上流を確かめに見に行くと、兵士たちが川に何かを流しているのが見えた。
それは兵隊たちが出した汚物で、それを川に流して処分と俺たちへの兵糧攻めへ使っていやがった。
他にも残飯や、近くで狩って食料にした動物の死骸や盗賊の格好をした死体を川に浮かべ、徹底的に俺たちが飲み水を確保できないようにしている。たかがいち村落に行う仕打ちとは到底思えないほど用意周到だ。
「何がどうなっている......?」
使える水が備蓄しかなくなり、節水して過ごしたが限界がある。それに睡眠妨害もいまだ続いているし、全員の精神も肉体もボロボロだった。
そんな中誰が言い出したかわからないが、こんなことになったのは俺のせいだという村人も現れ始めた。
確かにそうだ。俺が兵士を切りつけなければ、こんなことにはならなかったはず。皆を巻き込んでしまったことを深く後悔する。
もう皆の判断能力はなく、それぞれが被害妄想にとらわれ、食料を住民で奪い合う事態も起きた。何とかしてみんなをまとめようとリーダーとしてやってきたが、こんな俺にリーダーの資格があるのか?
自問自答していると、どれくらい包囲されているかも曖昧な中でおそらく三週間ぶりに向こうからの勧告があった。
「この村に戦闘員がいないことが調査で判明したっ!したがって我らの兵士たちを傷つけた者を差し出せばっ!すべて不問とするっ!」
この勧告を聞いた村人たちの心は大きく揺れたと思う。夜、兵士の騒音が響く中、うとうとしていた俺は村人たちに袋叩きに合い拘束された。
「すまねぇ旦那......」
「申し訳ない……」
皆、口々に謝罪の言葉を俺へ掛けてくる。
(何でだよ......)
拘束された俺は、村の入口を見張っていた兵士に突き出された。
「兵隊様、この者が今回の犯人でございます。どうか剣をお納めなさっていただけますでしょうか?」
「ほう、こやつが。よかろう、では撤退することを約束しよう」
村人たちは兵士に頭を下げ、包囲をやめるように丁寧な物言いで懇願するとすぐに包囲していた兵は帰路の準備を整え始める。その様子を見て村人たちは喜び始めた。
「皆、何で......どうして......」
俺の声を聴くと皆はばつの悪そうに顔をそむける。その中には髪はぼさぼさで大きな隈を作っているツァイルの姿もあった。
「ツ、ツァイル......ッ」
「............ごめんなさいっ」
「あっ」
(なんでだよ、なんでそんな顔するんだよ......)
「なんで......、謝るんだよぉぉおお......ッ!」
一度も振り返らずに遠ざかっていく背中を見つめながら、俺は絶望と悲しみでぐちゃぐちゃになった涙を流し続けた。
◇
捕まった俺は野外に設置された牢屋にいた。俺の魔法があればすぐにでも抜け出せるだろうが、そんなことをする気力も意味もない。
あれだけ一緒に時間を過ごした彼らに、売られたという事実が俺の心に重くのしかかっている。
あれだけ信じていたツァイルも、俺より村の平和をとった。それは仕方がないことだと頭では理解しても心では納得できない。
(今までの俺の全てが否定された。もう生きている意味もない)
多分俺は国に逆らった反逆者として罰せられる。反対にバベル村の皆はこの先も生きていけることに安堵を覚えると同時に、裏切られたことに対する強い恨みの心もあった。
そんな自己矛盾に心がかき乱されていると、誰かやって来た。
「初めまして、私はサラ・ハダール=メルキセデクと申します。今回の事件の首謀者は貴方でお間違えないかしら?冒険者二ム・ロド」
「……アンタみたいなお貴族様がこんな野ざらしの牢に何の用だよ」
「いえ、ただ貴方がバベル村発展の功労者だとお聞きしまして。どのような人物かを確かめに参りましたのよ」
「……」
「直に見たバベル村の発展はすばらしい物でした。全て貴方が魔法で整備したと聞きましたが確かですか?」
「……ああそうだよ。……もう放っといてくれ。俺は、もう死にたい……死刑にでも何でもし好きにしてくれ」
「それはもったいないですね。貴方ほどの魔法の腕を持っている者を易々と殺すことは出来ません。どうです、私の庇護を受けませんこと?」
「……帰ってくれ」
「強情ですわね。わかりました。気が変わりましたら教えなさい」
そう言ってお貴族様は帰った。今の俺が簡単に心変わりすると思うか。俺の希望はもう死んで楽になりたい。それだけだ。
再び牢の中央でうずくまっていると、また誰かが来たのを感じ取った。振り返りながら苛立ちをぶつける。
「アンタもしつこいな。こんなすぐ心変わりするわけないだろ……!」
「へぅっ!……すいません。何か気に障りましたか……?」
振り返ると貴族ではなく貴族の使用人の女の子がそこにいた。肩より上で切り揃った茶髪で、素朴な見た目をしていて、俺はどことなくツァイルを思い出していた。
「あぁ、す、すまない……」
「い、いえ。こちらこそすいません……」
「君は……?」
「え、と......マナと言います……」
「……」
「……」
お互い口をつぐんでしまい気まずい空気が流れる。初対面の人間に突然怒られたら誰だってこうなる。気まずい空気を払拭するために、こちらから要件を問う。
「……で、アンタは何の用だよ」
「あ、あの貴方、転生者ですよね……?実は私もなんです」
「な!?どういう……!」
彼女の発言に思わず声を上げてしまう。彼女は今、転生者と口にした。まさか俺以外にも転生者がいるとは思わなかった。
「ラーメンっていう食べ物を作ったのが貴方だって聞いて、もしかしたらと思って。……違いましたか?」
「......いや、確かに俺は転生者だ。まさか同じ転生者に会えるとは思わなかった」
彼女のカミングアウトには驚いたが、同時に俺は安堵も覚えていた。異世界に俺しか転生者はいないと無意識に思っていたが、よく考えれば他にいてもおかしくはない。特殊な体験を共有できる人物に出会い、俺は少しうれしかった。
「あの。あたし、貴方が村人からひどい扱いをされたって聞いて、居てもたっていられなくて……」
「いや、全部俺が悪いんだ。俺が感情に任せて行動した結果がこれだ。確かに彼らを恨む気持ちもあるけど、それはお門違いだし」
「……私も同じで、元は教会に所属してたんですけど、転生や前世って考えが異端扱いされて破門されちゃって……。けどサラさんに保護していただいて。転生者であることも受け入れてもらって感謝しかないです」
「……そうか。マナは主に恵まれたんだな。大事にした方がいい」
「ありがとうございます」
同じ境遇でもマナにはこのまま幸せに人生を歩んでほしい。短い交流でもそう思った。俺のことを反面教師にしてほしい。
「それでさっき、サラさんがきて自分の庇護下に、とか言ってきませんでしたか?」
「ああ、言われたけど断った。どうせ死刑にでもなるさ」
「あの、出来ればアタシからもお願いしたくて……。実はサラさん、王太子妃になって色々改革を推し進めてて、他の派閥からの暗殺とか常に気を使ってるんです。出来れば強い貴方も仲間になって欲しくて……」
突然、マナからも勧誘を受けてしまった。勧誘を受けるべきなのか思い悩んでしまう。黙って考えていると、マナが再び口を開く。
「あっあと王都にあるサラさんが建てた大学院では、アタシの前世の知識を用いた研究もやってて、そこなら二ムさんの力を目いっぱい活用できるし、あと個人的に同じ境遇の人が近くいてくれたらうれしいな~って......。ダメ、ですか?」
「…………」
彼女の言葉を聞いて俺は気持ちを決め、あのお貴族様の庇護下に入ろうと思った。
まだ具体的にどうしたいとかは無いけど、俺が死んだら同じ転生者のマナさんは悲しむだろう。それに俺の力が必要なら活かしたい。俺のためじゃなく今度は皆のために正しく力を使おう。
今度こそ間違えないために。
「……分かった。あの貴族の庇護に入る。そう伝えてくれ」
「……!はいっ!ありがとうございます!すぐに伝えてきますね!」
俺の返事を聞くとマナはにこやかに感謝し、軽やかな歩みで牢から駆けて行った。
まだ俺の異世界人生は続いていくみたいだ。
◇
「それでは計画通り、協力を取り付けることが出来たのですね」
「はい。少し甘えてみたらイチコロでした」
「よろしい。それと貴女はこれからも二ム・ロドと会うときは気弱な子女を演じなさい。もしくはあまり会話しない様に」
「わかりました」
明日も投稿いたします。お楽しみに
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