転生者と思われる人物の発見
その後の大学院運営では、意欲が高く、かつ優秀な学生達に目星を付けておいた。例え転生者ではなくとも、彼らが有用であることには変わりはない。そんな彼らを卒業して野に放ってしまうのはあまりにも勿体なかった。
なので卒業しても優秀な者が私の庇護下に留まり続けるように手を打つことにした。
入学した学生の多くはただの平民である。そんな彼らに後ろ盾なんてものは存在しない。そんな無防備な彼ら、彼女らの実家に対して経済的な打撃をわざと与え、在学を続けるのを困難な状況へと追い込んだ。
大学院を自主退学するしかない状況まで学生を追い込み、奨学金と卒業後の職場を私から提供して研究を続けさせる。こうすることで平民学生たちは私へ一生をかけて恩義を返してくれるだろう。
ちなみに奨学金は私の個人資産から出しており、利子付きで返させるので、観光業で稼いだ資金が勝手に増えていく仕組みも作ることに成功した。私が自由に使える資産は多ければ多いほどいい。交渉事や公にできない仕事の時に何かと必要となるので。
学生を囲い込むことを数回繰り返し、公務にも精を出しているうちに半年が経っていた。
二回目の入学試験を行い、この半年間でより多くの平民にも評判が広がってくれたようで、初回よりも多くの者が受験した。
しかし増えた今回の入学希望者の中に、転生者と思われる者はいなかった。二回も試験を行い見つけることができないのは何か問題があるのかと思い、原因をレメク男爵、いえ学院長と共に考えることにした。
「う~む、転生者が集まらん理由かのぉ。確かに二回の受験者の人数を考えれば、居てもおかしくはないが、あくまで確率の話であるしのぉ」
「何か問題があるかと思いましたが、あくまで偶然である、とレメクは考えるのですね?」
「そうじゃのぉ───」
その後二人でいくら話し合っても、偶然であるという結論しか出すことができなかった。しかし今は待つ以外の選択肢しか取れない、と思っていたが幸運にも事態を打破する好機がすぐにやって来た。
その好機とは、王家より影の使用権を頂けることであった。私の公務への取り組みや大学院設立という実績への評価により、王家の影を使用しても問題がないという判断を頂いた。
王家の影とは王家に仕える国一番の諜報部隊だ。影の使用許可がいただけるのは、非常に稀で基本的には王と王子だけだ。そんな影へ優先度の高い指示権を頂けるほど、私は王家に貢献しているという信頼を勝ち取っていた。
影を使えば国中に耳と目を広げることが可能で、大学院に転生者がやって来るのを待つだけでなく、こちらから探すことが可能になる。
早速、影を招集して自己紹介と指示を出すことにした。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。私はサラ・ハダール=メルキセデク。貴方たちの新しい主の一員となった者です。本日はそのご挨拶と、情報収集の指示のためにお集まりいただきました」
王宮の地下の一室。目の前には黒ずくめの者達がひざまずいて私の声に耳を傾けていた。彼らは各地域の影の長たちである。
「では新しい活動方針をお伝えします。国中で一般の平民などが知らないような知識を持っているものを探しなさい。貴族平民の身分に関係なく。特に研究局に所属したことがない者、正式な魔法教育を受けた事がないのに高度な魔法を操る者に注力しなさい」
「御意」
長たちは、頭を下げながら返事を返してくれる。
そして諜報に優れた彼らに隠し事は難しいので、あらかじめこちらの秘密を開示しておかねば。
「それともう一つ。貴方たちに隠し事をするのは難しいのであらかじめ通達しておきます。私は元聖女ナアマ・レヴァナの死を偽装し、今は私の使用人の一人マナとしてこの王宮に匿っています」
「......!」
彼らは声こそ上げなかったが、動揺した空気を私は感じ取った。
「ですのでナアマさんが生きている、といった情報は特に報告しなくてもよいです。私の隠し事は以上になります。本日は以上です。では解散」
これでナアマさんが生きていることは、何も知らない国王陛下やヤコブ殿下には伝わらない。彼らの中で使用人の一人、ただのマナという認識のままにしておける。
指示を受けた長たちは一斉に、薄暗い一室の影の中に消えて行った。あとは情報が上がってくるのを待ちながら、大学院運営と公務を行う日々に戻るだけだ。
数日後────
私は前回の指示から初めての報告書を、王宮の執務室で読み込んでいた。各地域別に報告書は分けられており、村単位で情報がまとめられていた。
報告書を読んでいると気になる箇所があった。
・この三年間で著しい発展を遂げた村落あり
それは近年急激に発展した村が僻地にあるという報告だった。
単純に考えれば村民たちが一致団結して、成果を上げたのだとも思えるが、報告書には気になる続きが書いてあった。
・村落の周りには石材でできた防壁が建造されている。三年前にはなかったことを記録で確認済み
・聞いたことのない食事が名物と称され振る舞われている。
・村落には大量のゴーレムが農作業等に従事している
・ゴーレムの制作者は三年前に突然現れた冒険者である
この報告は他の報告に比べ、よく目を引いた。かなりの確率で転生者だと思われるが、まだ確証は持てない。マナさんをここへ呼び出して話を聞いてみることにした。
「マナさん、この報告書を読みなさい」
「は、はぁ......あっ、いえ!はいっ読みます!」
マナさんはだらしない口調をハガルに視線だけで注意され、慌てて訂正し報告書を読み込み始める。
「うーん、確かに。かなり怪しいですねコレ。特にこの食事の名前が分かれば確定できたかもしれませんけど、今のままだと転生者で確定、とまで言えません。もしかしたら他国の料理かもしれませんし」
「わかりました。貴方の意見、参考にさせていただきますわ」
マナさんを外へ下がらせ、報告書を持って来た影を呼び出して次の指示を出す。
「この報告書の地域の影は、この村に集中して情報を集めなさい。この冒険者の名前と経歴、食事の名前を次に報告すること。それと大学院で開発した新しい魔道具を用いて情報収集するように。」
新しい魔道具とは、大学院で開発した盗聴石と呼ばれるもの。マナさんの世界の電話を参考に、離れていても会話することができる魔道具の開発中にできた代物。
この石に会話する機能はなく、片方の石の音が一方的にもう片方の石に聞こえてくるといういわば失敗作であった。見た目は手のひらに乗る程度の大きさで、どこにでも落ちている形である。
それをマナさんに見せたところ────
「なんか盗聴器みたいな機能になっちゃってますねコレ」
この発言から盗聴器とは何かを聞き出し、私はこの失敗作は使えると判断して完成品とした。
音を双方向に伝えることが出来れば、電話の機能を再現できるが今はまだ研究中である。
この盗聴石は優れた魔道具なので大量に用意させた。見つからぬようにするため着色して使うことも出来る。影に冒険者の家へ多く配置することも伝え、影に再び調査を行うように命じた。
「この冒険者の発言を漏らさず記録するように。特に『前世』『転生』『異世界』という言葉が出たらすぐに報告を。これは隠語で貴方たちにも教えることは出来ないほど危険なものです。いいですね?」
「御意」
影は魔道具を受け取り、執務室を足早に去っていった。
「次の報告が楽しみね……ふふ」
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