大学院 開校
エサウの断種で、敵対的な貴族派閥の旗印を消すことが出来た私は、次の一手を進める事にした。
次の、一手は、敵対派閥の弱体化を進める。なぜなら第一王子派閥だった者たちが私に楯突くことが出来ないようにして、こちらの発言力を強める為に。
どの様にして弱体化を進めるか考えた末に、ナアマさんの誘惑手引書を使う事にした。
既に領内の諜報を行う者たちや分家の子女達に、一通り手引書を収めてもらっている。その者たちを使って、敵対派閥に潜り込み恋愛感情を用いて、失脚するように仕向ける。これが今回の計画だ。
断種の要望と並行して、父には身分を偽った密偵を既に送り込んでもらった。女中や市井での平民遊びの相手として送り込まれた者たちは、見事に手引書通りに敵対派閥の者を誘惑することが出来た。
彼女たちは恋愛感情を巧みに操り、貴族の胸元へ飛び込み見事な成果を上げてくれた。おかげで、敵対貴族達の弱みや不正行為を把握することができた。これでいつでも彼らを叩き潰すことが出来る。
密偵を行ってくれた彼女たちには報酬をたっぷりと与えるようにも手配する。具体的には平民が老後まで暮らせる程度の報奨を与える。何故なら好きでもない相手との恋愛ごっこという任務の過酷さから、こちらが裏切られるかもしれないから。
では手に入れた情報でこちらが優位になる様にいたしましょう。無駄に仕事を増やして押し付ける者達には、横領、脱税を突きつけ爵位を跡継ぎに渡すように。国外と繋がり、第一王子を傀儡にして、植民地にする計画を立てていた家には派閥内外への見せしめに、一族郎党を公開処刑にした。
おかげで仕事が減り、働きやすくなった。知り合いの貴族たちが汚職にまみれていたことを知ったヤコブ殿下は────
「貴族の風上にも置けん連中たちだ!だが、彼らがいなくなったおかげでサラとより豊かな国にできます」
と、正義感が溢れる心へと成長してくれた。この正義感をしっかりと育て上げ、私が成すことは全て正義だと教え込んでいこう。
◇
こうして発言権を強めることに成功した私は、さらなる一手を進めることにした。
「学園を設立したい……?」
疑問をこぼすヤコブ殿下を前に話を続ける。
「はい。優秀な者、発想が奇抜な者、そういった者たちを身分関係なく学ぶことが出来る学園を兼ねた研究所というのが正確ですね」
私は学園を設立したいという計画をヤコブ殿下に明かしていた。
「なるほど、それはいい考えですね。気球発明の功労者であるサラが設立したとなれば、多くの希望者が集まるかもしれません。以前も伝えましたが先見の明がある貴方に任せたいと思います」
「ありがとうございます。ご期待くださいまし」
一礼して感謝を述べる。こうして王都に転生者探しの隠れ蓑としての学園設立計画が始動した。
優秀な人材が領から流出するのに反対する者たちもいたが、手の内にある情報をチラつかせれば、大人しく黙ってくれた。おかげで円滑に準備を進めることが出来た。
処刑した貴族一族が、王都の郊外に所有していた巨大な屋敷を、校舎として再利用することで時間を掛けずに学園を設立することができた。王都に連れて来ていたレメクを学園長の席に座らせ、名前も彼の名前をとってレハヴィン大学院とした。平民が受ける教育の上という意味を込めて「大」をつけた。
気球を発明した二人が設立した学院として、大いに注目を集めることが出来た。平民上がりのレメク男爵を学園長とすることで、身分を気にしない学院作りも注目の一助となっている。
制度としては、マナさんの世界の大学という仕組みを参考にした。国中の技術者や職人、魔法研究者を招いて講義をさせる、という仕組みで運営する予定だ。でなければ教育者を育てるところから始めることになっていただろう。
学費に関しても、奨学金という制度を真似することにした。国に借金して後々に返金させるという制度を使えば、経済状況を盾に、優秀な平民達を私の支配下におけるかもしれない。
こうして元からある建物と異世界の制度を利用したことで、かなりの速さで開校までこぎつけることが出来た。
そして入学式当日へと時は進み────
「皆さま、初めまして。私はサラ・ハダール=メルキセデクです。本日はこの大学院へ入学いたした皆さんに祝福を送りにまいりました。いま目の前にいらっしゃる貴方たちは、マグナテラの未来を支える柱として大きく成長してくださる事を願っております。」
ホール会場に設営した壇上より、入学者たちへ祝福の言葉をかける。
この中には転生者はいない。入学前に行った試験の設問に罠を張っており、転生者にしか分からない問題を用意しておいた。
”どの様な原理で流行り病になるのか、またり患を防ぐ方法を具体的に答えよ”
この問題を解けた者は今回の入学者の中には居なかった。入学者は世界の考えの『邪悪な魔力が体に入ることを教会で祈りをささげてもらうことで防ぐ』と記述した。
マナさんの知る異世界の解法は『目に見えない病原菌が体内に入ることで病になる。対応策は清潔な水で手洗いうがいをする』というものだ。
この解答をしたものが転生者かどうかは実際に会ってみないと分からないが、一つの試金石になるだろう。
この答えは秘密にしておく。一般的になってしまったら転生者捜しの問題として機能しないので、私や父など一部の者だけに情報をとどめておいた。
今回の入学者には転生者はいなかったが、次の入学者には居るかもしれない。一年に二回入学者を募ろうと考えているので半年後に期待している。




