供物
「田中……?
そんなヤツいたか?」
突如目の前に現れたカイをみて駿太は訝しむ。
「五十音順で班わけしたよな?
林がいるのに田中がはいってないって……
おかしくないか?」
「まぁ、そう言う事もあるんじゃないか?」
「……お前、ムカつくな」
駿太の周りに紫のモヤが広がる。
モヤの中から無数の目玉が現れた。
窪地で朽ちていた動物達のくり抜かれた目玉が光を失ってモヤの中に漂っている。
「ちゃんと供物与えないとな」
目玉と共に紫のモヤが再び地面に沈む。
地面が隆起して土人形が再び姿を現した。
先ほどと違うのは、複数体ではなく、巨大な一体の土の巨人だという事だ。
土人形と言うより岩の塊が身体のパーツを模っている。
巨人の目の窪みには紫のモヤが溢れ、光を失った目玉がギョロギョロと蠢いていた。
以前対峙した茨木童子の体格を優に二倍は超えている。
岩の巨人はその手を大きく振り下ろした。
辺りの木々が薙ぎ倒され、土埃が巻き起こる。
桜が避難していた木も大きく揺れ、桜は枝から滑り落ちた。
地面に名叩き落とされそうになる寸前、カイは桜を抱きとめると、そっと地面へと下ろした。
短いその瞬間だったが、桜はなぜかとても暖かな優しさに包まれた様に感じた。
祖父に頭を撫でられた、あの時の様に。
不思議な感覚に包まれたのも束の間、岩の巨人が右手で横へ薙ぎ払ってくる。
カイは岩の壁を作り出した。岩の巨人の右手とぶつかる。
勢いを殺された右手は後方へと弾かれた。
巨人の身体がバランスを崩し揺らぐ。
岩の巨人の右肩関節に稲妻が走り、その体躯から右腕が外れ落ちる。
カイが雷の魔法を使ったのだ。
魔法陣を使わずに魔法を使える人間はそう多く無い。
これだけでもカイがかなりの実力者である事が伺えた。
もしかしたら、カイならばこの状況を打開できるかもしれない。
桜は今し方初めて出会った少年を無条件に信じ始めている。
それはカイの戦闘力だけではない。先程感じた温かな感覚が、根拠は無いが桜にカイを信じさせた。
カイはシミターを取り出すと風魔法で飛び出した。
バランスを崩した岩の巨人に向かって飛んで行く。
その刀身は炎を纏う。
炎は赤から青へと温度を変えていく。
青白い一線、が縦に岩の巨人の中央に線を引いた。
その線を境に巨人の体か左右に分かれて瓦解していった。
巨人が崩れて出来た二つの岩の山を背に、駿太とカイは対峙していた。
駿太の両背中からは黒いモヤが翼の様に伸び、その中には動物達の目玉が未だ蠢いていた。
駿太の両眼は黒くそまっている。
カイはその状態が何を意味しているのか知っていた。
「のまれたか」
カイのその問いかけに駿太はニヤリと笑う。
いや、もう駿太と呼ぶのは違っている。
彼はマルファスにのまれていた。
駿太の魂はマルファスの澱に飲まれ融合し、その形を変えてしまっていた。
駿太の記憶を残しつつも、マルファスの自我がめばえている。
「あんだけデカい木偶の坊つくったんだ。
他の生徒にもバレてるだろうな。
……どうするつもりなんだ?」
カイはマルファスに問いかける。
「大丈夫だからやってるんだろ。
そんな事もわからないのか?」
「まぁ、そうなんだろうな。
差し詰め『八咫烏』あたりだろ?」
カイの言葉にマルファスは眉をピクリと動かす。
どうやら当たりの様だ。
「鎧塚は元気か?」
「お前……
どこまで知っている!?」
カイの問いかけに、マルファスは感情を隠さず語気を強めた。




