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ホエイルホエル  作者: たろ
五幕

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マルファス


鳩尾から臍にむけて自身の腹を撫で下ろす。

先程喰らった澱達が馴染んでいく。


駿太は鼻からゆっくりと息を吸い込んだ。


核をなす『マルファス』が肥大していくのがわかる。

マルファスが溶けて混ざっていく。


細胞壁が壊され、細胞膜を通り抜け溶け合う。

壊された細胞は内包されたエネルギーを解き放ち、また新たな細胞を構築していく。


吐き出した息は重く地面に澱んだ。



桜は、立たされている崖の淵が更に音をたてて崩れて行く感覚と共に、眩暈におそわれる。

まさか、72柱の悪魔の一角が出て来るとは思ってもみなかった。


この状況から逃げ出せる算段がつかない。

万が一逃げられたとして、その先どうすればよいのだろう。

駿太の話ぶりからは学校側もグルかも知れない。この局面きなった時点で、駿太が先ほど発した様に詰んでしまっているのではないか……


額から汗が流れ落ちる。



駿太の左手に黒に近い濃い紫色のモヤが集まって行く。


「やっぱさぁ、コレが本来の姿なんだよ。

肉体と一つになって、初めて完成すんだよなぁ」


左腕からモヤが俊太の半身を覆っていく。

モヤが身体を覆うと共に、左の眼球が深い紫へと染まっていく。


桜は駿太の口ぶりに違和感を覚えた。

今、言葉を発しているのは果たして駿太なのだろうか。

もしかしたら、もうマルファスに意識を奪われて居るのかも知れない……



駿太は左腕をかざすとモヤが掌から地面へ流れ出した。


地面に流れたモヤは土を隆起さて、人の形へと象っていく。その大きさは膝下程度だが、数は40体はある。土人形達それぞに意思を持っているかのように、ゆっくりと動きながら、桜のいる木の下へと集まって来る。


木下に到達した土人形は、自身の指先を尖らせ、木の幹に刺して登り始めた。

その姿は虫の死体に群がる蟻の様だ。


ミシミシと木が軋む。

桜は水の魔法陣を取り出し、作り出した水球を落とす。バレーボール程の水球では登って来る土人形を二体落とすのが精一杯だった。

残りは火を起こす魔法陣か2枚残っている。

木の上で使っては、火が木に燃え移ってしまい自滅してしまうかもしれない。

桜に残された手札はもう無いに等しかった。


土人形が桜のある木の枝まで登って来た。


木を登るために鋭くした爪先はそのままだ。

その爪先が桜のふくらはぎを捉えた。

五本の鋭い爪先が肉に深く食い込んだ。


「あっ…ぐぅ!!」


痛み漏れる声を必死でこらえる。

もう絶望的な状況だ。逃れる事は不可能だろう。

なら、せめて、怖がってなんてやるものか!と桜は決意した。

悪足掻きだろうと何だろうと、駿太が喜ぶような反応はしたくなかった。


痛みに耐えながら駿太を睨みつける。

駿太はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、桜を、見上げている。


両眼球は既に深い紫に染まっていた。


ふくらはぎに刺された爪が抜かれる。刺された時よりも鋭い痛みと共に血があふれでる。

先程辿り着いた1体だけで無く、残りの土人形達も桜の居る枝にたどり着い居る。


流石にもうダメだ……


桜は諦めと共に目を閉じた。



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