マルファス
鳩尾から臍にむけて自身の腹を撫で下ろす。
先程喰らった澱達が馴染んでいく。
駿太は鼻からゆっくりと息を吸い込んだ。
核をなす『マルファス』が肥大していくのがわかる。
マルファスが溶けて混ざっていく。
細胞壁が壊され、細胞膜を通り抜け溶け合う。
壊された細胞は内包されたエネルギーを解き放ち、また新たな細胞を構築していく。
吐き出した息は重く地面に澱んだ。
桜は、立たされている崖の淵が更に音をたてて崩れて行く感覚と共に、眩暈におそわれる。
まさか、72柱の悪魔の一角が出て来るとは思ってもみなかった。
この状況から逃げ出せる算段がつかない。
万が一逃げられたとして、その先どうすればよいのだろう。
駿太の話ぶりからは学校側もグルかも知れない。この局面きなった時点で、駿太が先ほど発した様に詰んでしまっているのではないか……
額から汗が流れ落ちる。
駿太の左手に黒に近い濃い紫色のモヤが集まって行く。
「やっぱさぁ、コレが本来の姿なんだよ。
肉体と一つになって、初めて完成すんだよなぁ」
左腕からモヤが俊太の半身を覆っていく。
モヤが身体を覆うと共に、左の眼球が深い紫へと染まっていく。
桜は駿太の口ぶりに違和感を覚えた。
今、言葉を発しているのは果たして駿太なのだろうか。
もしかしたら、もうマルファスに意識を奪われて居るのかも知れない……
駿太は左腕をかざすとモヤが掌から地面へ流れ出した。
地面に流れたモヤは土を隆起さて、人の形へと象っていく。その大きさは膝下程度だが、数は40体はある。土人形達それぞに意思を持っているかのように、ゆっくりと動きながら、桜のいる木の下へと集まって来る。
木下に到達した土人形は、自身の指先を尖らせ、木の幹に刺して登り始めた。
その姿は虫の死体に群がる蟻の様だ。
ミシミシと木が軋む。
桜は水の魔法陣を取り出し、作り出した水球を落とす。バレーボール程の水球では登って来る土人形を二体落とすのが精一杯だった。
残りは火を起こす魔法陣か2枚残っている。
木の上で使っては、火が木に燃え移ってしまい自滅してしまうかもしれない。
桜に残された手札はもう無いに等しかった。
土人形が桜のある木の枝まで登って来た。
木を登るために鋭くした爪先はそのままだ。
その爪先が桜のふくらはぎを捉えた。
五本の鋭い爪先が肉に深く食い込んだ。
「あっ…ぐぅ!!」
痛み漏れる声を必死でこらえる。
もう絶望的な状況だ。逃れる事は不可能だろう。
なら、せめて、怖がってなんてやるものか!と桜は決意した。
悪足掻きだろうと何だろうと、駿太が喜ぶような反応はしたくなかった。
痛みに耐えながら駿太を睨みつける。
駿太はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、桜を、見上げている。
両眼球は既に深い紫に染まっていた。
ふくらはぎに刺された爪が抜かれる。刺された時よりも鋭い痛みと共に血があふれでる。
先程辿り着いた1体だけで無く、残りの土人形達も桜の居る枝にたどり着い居る。
流石にもうダメだ……
桜は諦めと共に目を閉じた。




