犯人
「絶対に反対!」
普段はあまり声を荒げる事のない桜が力の限り叫ぶ。
テントに戻った4人は先の光景について話し合っていた。
そんな中、圭吾から思いもよらない提案が出されたのだ。
「うーん……
正直、オレはアリだと思う」
駿太はテントに戻る頃には体調は元に戻っていた。
しかし、先ほどあの光景に耐えきれずに嘔吐した割に、圭吾の提案に同意するとは思わなかった。
さしずめ、先ほど自分が醜態を取り返そうとムキになっているのだろう。
あの光景を作り出したスラッジを見つけ出し、観察対象にするなど馬鹿げている。
あんな事をするスラッジは、間違いなく中級以上だ。
学校に報告し、即刻、四畳半島での実習を中止するべきだ。
他の班にも危険が及ぶかもしれない。
「なんで?こんなチャンス滅多にないよ。
初級しか居ないはずの島で中級かもしれないスラッジが現れたんだ。
スラッジの生態の秘密に近づくチャンスだよ!」
先ほどから圭吾は異様に興奮している。
あの悍ましい光景に当てられてしまったのかもしれない。
「私はどっちでもいいわよ」
カノンは少し離れたところに座り、どこか冷めた様子で成り行きを見守っていた。
「桜、反対してるのは君だけだよ」
「でも……!」
桜は3人を見渡す。とても意見は通りそうにない。
「わかった……
明日からそのスラッジをさがしましょう。
でも、学校側には一応報告します」
桜は学校に画像と共にメッセージをおくった。
「中止」の決定が学校側から届く事を願ったが、次の日になっても学校側からの連絡はこなかった。
3日目。
桜達、第五班はあの悍ましい光景を作り出したスラッジを探し始めた。
昨日見つけた死体だらけの窪地に向かった。
昨日よりもキツく腐臭を放っている。
昨日と変わった様子はない。
もうこの死体達は用済みという事なのだろうか……
だとすれば、考えられる事は……
「中の『澱』を吸収したんだろうな」
隣に立つ駿太がつぶやいた。
昨日は嘔吐していたが、今は慣れたのか平気な様子だ。
「私もそう思う。
やはり『澱』を吸収したスラッジは成長していくのね」
スラッジが現れてから、その生態には幾つかの仮説が飛び交っていた。
その中でも有力なのが『共喰い』だ。
動物と同化しスラッジとなった中の澱を吸収する事でスラッジは成長と進化をしていく。
その方法は相手を殺して肉体から『澱』を取り出す事だとされている。
しかし、目玉をくり抜くと言った話は聞いた事がない。
この個体の特性なのだろうか。
桜は窪地に魔法陣の紙を投げ込んだ。
「埋もれ」と唱えると土が現れ、窪地に覆い被さる。腐臭もそうだが、動物達の死体をこのままにしておくのは忍びなかった。
「おい、勝手な事するなよ!
ここにスラッジが戻ってくるかもしれないだろ!
その時、ここが変わったらオレ達に気づいて逃げちまうかもしれないじゃないか。」
駿太は桜の行動に腹を立て、詰め寄った。
駿太の言う事は一理ある。
実は桜の目的にはそれもあった。この変化に気づきスラッジが逃げるようなら、それも良いと思ったのだ。わざわざ危険なスラッジを探す事に、桜はまだ納得していなかった。
「ごめんなさい。
動物達が可哀想で……
そこまで考えてなかったわ」
桜は、自身の浅慮な行動に今気づいたと言う芝居を打つ。
自身が非難されたとしても、危険から五班を遠ざける事ができるならそれで良い。
「……まったく」
駿太は怒りが収まらないと言ったそぶりで桜に背を向けた。
「いや、かえって良かったかも」
圭吾が埋まった窪地の際目に立ちながらつぶやい。
「あれだけの事をする凶暴なスラッジだ。
自分の縄張りに侵入されたとわかったら、向こうから接触してくるかも」
この3日間で圭吾に対する印象はかなり変わってきている。初めのナヨナヨのとした印象は今はもう無い。
昨日の窪地を覗き込む表情は一体何だったのだろうか。
「じゃ、ここからはそれぞれで森の中を散策しよう。
思念チャットグループを作るから、何かあったらそれで連絡してくれ」
駿太の指示で各自森の散策へとむかう。
個別行動は危険だと思うが、これ以上勝手は出来なさそうなので桜は仕方なく散策へと向かう事にした。
森の中は異様な静かさに包まれている。
桜は用心深く周囲をみわたしながら森を散策する。
無人島なだけあって整備された道はない。
獣道を進んでいく。
この道を使っていた動物達は今は土の下に至るのだろうか。
ふと、桜の頭に疑問がよぎる。
あの動物達はいつ死んだのだろうか?
死体を見つけた時、確かに腐臭はしたが今日は昨日と比べ物にならないほど臭いがキツくなっていた。
目玉がえぐられ、腑が裂けた異様な死体にそこで思考が止まってしまっていたが、死体の腐敗はそれほど時間はたっていなかった。
それこそ、桜達がこの場所にたどり着いたのとほぼ同時期なのでは無いだろうか。
背筋をざらりと冷たい感覚が走る。
あの動物達の死体の山を作り上げた犯人は、もしかしたら……
ザザッとしたノイズと共に思念チャットからの連絡が入る。
「気をつけて!圭吾が……!!」
花音の切迫した声が聞こえ、またザザッとしたノイズ共に受信が遮断された。
「花音!どうしたの!?
花音!?」
思念チャットに呼びかけるが誰も応答がない。
花音の身に危険が迫っている事だけは確かだった。
急いで、花音を探さなければ。
桜は花音が散策へ向かった方へと走りだそうとした。が、次の瞬間足元が隆起し岩の棘が桜へと突き出る。
咄嗟に身をかわし、難を逃れた。
明らかな魔法による攻撃だ。
悪い予感は当たってしまった様だ。
窪地にあの死体の山を作ったのは第五班の中に居た。
「今のよく避けられたな」
「あなたが、犯人だったのね」
「あれ?気づいてた?
それとも今気づいた?」
隆起した岩の棘の影から現れたのは、駿太だった。




