五班
川と森の間に開けた場所を見つけた。
そこにベースキャンプを張る。
桜達はそれぞれ荷物から銀色のプレートを取り出した。
大きさからドッグタグの様にも見えるプレートを、地面に置く。
「リリース」と呟くと、プレートは白く光、光の中からテントが現れた。
銀のプレートは十八回目のパラレルワールドの拡張の際にもたらされた技術だ。
『錬金板』に特定の文字を刻む事で、異空間にしまった物質を呼び出す事ができる。
異空間に収納する際は分子レベルまで分解され、リリース時に再構築される。その為、生物や食べ物は基本的に収納する事ができないが、物流は劇的に改善された。
錬金板に刻まれている文字は物質を仕舞う空間座標と再構築の為の設計図だ。
パラレルワールドの文化や技術を解析し、ここ中心世界に活かす。これこそがパラレルワールド科を選んだ醍醐味だ。今はまだ、パラレルワールドと中心世界との隔たりはある。パラレルワールドが出現する前だって国同士の争いは絶えなかった。
より複雑な文化や歴史背景を持った世界が一つになったのだ。まだ世界は現状を受け止めきれていなかった。様々問題が山積している。それらを解決し、本当の意味でこの世界が一つにまとまる事が桜の夢だった。
その為にもまず、目の前の課題に取り組まなくてはならない。
世界を一つにまとめる前に、このバラバラの班を纏めなくては……
駿太は班長としてリーダーシップを発揮しようとしているが、指示が上から押し付ける様な物言いになっている。
これでは指示をうけた側のやる気はでないだろう。
と言うよりも、花音と圭吾にそもそもやる気があるのかは疑問だ。テントを設置してすぐ、二人共テント内に入ったまま出てこない。
これからこの10日間の班の活動テーマや役割分担を決めなければならない。
荷物整理をして20分後に集合する約束だったが、約束の時刻からもう10分も過ぎている。
隣を見ると聡太は明らかに苛立っていた。
前途多難だな……
桜は二人に声をかけることにした。まず、圭吾に声をかけてかけようとテントの前にたった。
「うん、うん、……大丈夫」
中からボソボソと圭吾の話し声が聞こえる。
今回の実習は通信端末の持ち込みは禁止されていないので、別に問題ないのだが集合時間は守って欲しい。
桜はわざと地面を踏み鳴らし、大きな足音を出した。
会話を聞かれてはいい思いはしないだろう。
「林くん?」
テントの外から声をかける。
「あぁっ!ごっ…ごめんなさい!
もう集合時間だよね」
慌てた圭吾がテントの中から出てきた。
次は花音を……と振り返ると、花音はいつの間にか駿太の隣に立っていた。
取り敢えず、話し合いは始められそうだ。
「集団行動なんだから、時間厳守は基本だよ。
こんな事は今回だけにしてほしいな!」
駿太は苛立ちをぶつける。
「高木君……そんなキツく言わなくても」
桜がなだめるが「はじめが肝心なんだよ!これから10日間かの調子じゃ困る!」と更に語気を強める。間違った事は言っていないのだが、そんな調子ではまとまるものまとまらない。
「ごめんなさいっ」と明らかに萎縮する圭吾に対し、花音は無気力に「はぁーい」と返事をした。
夏の長い昼も終わり、夕暮れに差し掛かっている。
日が落ちる前に焚き火の準備をした。
錬金板から炭をだし、拾ってきた大きめの石でかこう。その上に魔法陣のかかれた紙をおき「灯れ」と唱えると火がついた。
夜に活動するスラッジも多い。焚き火は低級スラッジ避けの意味合いもあった。
「それじゃぁ、僕たち五班のこの10日間の活動内容を決めようか。
何か意見がある人はいる?」
「……あっ、あの、特定のスラッジを決めて、生態観察なんかはどうかな」
意外にも一番に意見をだしたのは圭吾だった。
「生態観察か。でも、それだとありきたりじゃないか?他の班と被りそうだし。」
折角出てきた意見に、駿太は直ぐに反対意見をだす。圭吾は否定されて萎縮してしまっている。この空気では良い意見交換はできそうもない。
「私は、生態観察もいいと思う。
少し視野を広げて、敵対関係とか、実際に討伐する際の弱点なんかを洗い出すのはどうかな?」
桜は圭吾の意見を主軸に少し膨らませてみる。駿太の表情はあまり納得していない様だ。
駿太が何か言いかけようとした、その時一歩早く花音が「それ賛成。それでいいよ」と賛同した。
自分以外が賛成に回った事で、駿太は自分の意見を飲み込んだ。
「じゃ明日は、だのスラッジの観察をするか、森の中を散策しよう。
明日、標的を決めたら7日間観察、残り2日で発表用に情報をまとめる。
それで良いね?」
駿太が大まかなスケジュールを提示して、皆がそれに同意した。
取り敢えず、この実習の方向性は無事に決まった。
桜は夜空を見上げる。星空に少し雲がかかっている。
明日、雨が降らない事を願った。




