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ホエイルホエル  作者: たろ
五幕

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朝


「本日のスラッジ情報です。

昨日は11体のスラッジが世田谷区で目撃されました。

その内9体は討伐されましたが、2体は逃亡しております。

手傷を負っており非常に交戦的になっている事が予想されます。

外出される際は、同期者と共に行動し、十分にご注意下さい。

逃亡した2体の詳細を確認しますか?」


「いいえ、大丈夫」


「かしこまりした。

それでは、続きまして、本日のスラッジ出現予報です……」


毎朝、『スラッジ』について確認を行う事が日課になった。

天気予報と同じ様にスラッジ予報をAIが教えてくれる。

外出するかどうかは予報を見て決める事が習慣となった。手負のスラッジが二体。今日も未成年である桜は外出が出来なさそうだ。


センター オブ ユニバースと アンダー オブ ユニバースが同期してから三年。

世界はまたその様相を変えていた。


アンダー オブ ユニバースから現れた『澱』と融合した生物の呼称を『スラッジ』と呼ぶ様になった。

スラッジは中心世界、パラレルワールド関係なく現れる。


特筆すべきはその攻撃性だ。

人間を見ると襲いかかる性質を有していた。


桜はリビングに出て、サーバーから水をコップに入れる。食卓には母の作ってくれた朝食が並んでいる。

トーストにスクランブルエッグ、ヨーグルト。

いつもと変わらない風景だ。


時刻は朝7時半過ぎ。

仮想現実での学校は9時からで、通学をしなくても良い分、時間にはかなり余裕がある。

父も母も今では珍しい出勤するタイプの仕事をしている。この時間にはどちらも家には居なかった。


殆どの仕事はリモートワークに変わったが『警察』と『記者』はどちらも現場に出る必要があるために、出勤するスタイルが残る職業だ。

個人情報の取り扱いも一段と厳しく、アーカイブへのアクセスはどちらも外からの接続が出来ない仕組みになっている。


両親はいつも活き活きと仕事に当たっている。

桜はそんな両親が誇らしかった。

どちらも同期者ではなかったが、それでも両親の事は尊敬したい。

思春期のせいか、父親には意味もなくイラつきを覚え冷たい態度をとってしまう。

反省は都度するが、改善となるとなかなか難しい。


桜の祖父は同期者だった。

亡くなってから分かった事だ。ジパングでスラッジ化した鬼に命を奪われたそうだ。

この間三回忌を終えた。普段は気丈に振る舞う明るい母がまた泣いていた。まだ立ち直れていないのだろう。


今日の授業は午前中は基礎学科、午後は選択教科だ。

桜はパラレルワールド科を選択している。『魔法学』と『スラッジ学』の授業がある。

パラレルワールドは拡張するたびに、幾人かの同期者を生み出した。まだ正確な理由はわかっていないが、「パラレルワールドに遺伝子レベルまで同じ人間が存在した際に起こるのではないか」と言う説が有力視されている。

エヴァ博士の『ドッペルゲンガー理論』だ。

一度論文を読んでみたが、難しくて殆ど理解出来ず、AIに要約してもらった。


拡張した世界の技術は研究され、パラレルワールドの住人でなくても使える事がわかっている。

その最たるものが『魔法』だ。

桜は精霊を見る事は出来ないが、魔法陣を使い同じ現象を起こす事ができた。

魔法陣研究の先駆者、葵教授は母の大学の頃からの友人だ。

子供の頃から何度も遊んで貰った、とても優しい素敵な女性だ。桜は葵教授に憧れている。

教授のいる大学を受験し、魔法陣学の研究室に所属するつもりだ。

その為にも、勉強の手は抜けない。


食べ終わった食器をあらあ終わると時刻は8時を過ぎていた。


桜はストレッチを行い身体をほぐす。


今日もまた、一日が始まる。




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