決意
世界管理機構の屋上からカイは街を見下ろした。
高層ビルがたちならび、窓から漏れる光が夜の闇に幾多と散らばっている。
その光は雨粒で滲んで煌めいていた。
「マキナ」が拡張してから、急速に世界は進歩した。
エネルギー問題は『鬼結晶』で解決し、スポーツは実際の土地を使うよりもバーチャル空間が主流になった。使い手の無くなった競技場にはまた高層ビルがたった。
今まで無かった『氣』やその他の世界の技術や概念は、ここ中心世界で一つになって行く。
変わり行く世界の中でカイだけが変わらない。
吉本が亡くなってから、数日が経った。
向かったジパングでは変貌した鬼遭遇した。
明らかに世界は異様なスピードで変化している。
今日、ゲンさんが亡くなった。
特別養護老人ホームで施設の職員に看取られてなくなった。
二十年以上ゲンには会っていない。「恩知らず」と罵られようとも、変わらずに世界に取り残される自分を知られたく無かった。
優しいゲンがそれを知れば、きっとカイの事を思って心を痛めるはずだから。
それなら事実を知られる事なく、「恩知らず」でいたかった。
ゲンが亡くなって施設を訪れた。誰かのお見舞いのふりをして部屋をのぞいた。
施設の職員が亡くなったゲンの部屋を片付けている。往年は認知症が進んでいたようだ。
「どうしたの」
後ろから施設の職員に声をかけられた。
「あっ……いえ」
「あなた、ゲンさんのお孫さん?」
「えっ?」施設職員の意外な言葉に思わず振り返った。
「あっ!やっぱりそうだ!」
「夏帆ちゃん!ほら、ゲンさんのお孫さん!」施設職員の女性は中で片付けをしていた若い女性職員に声をかける。
「あっ」カイを見た女性は、笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「これ」
夏帆と呼ばれた若い女性職員はカイに写真立てを二つ差し出してきた。
一つは、奥さんの写真だ。仏壇に飾られていたのと同じものだった。
奥さんの写真の下に重なった写真立てをとりだす。
「ゲンさん、とても大事にされてましたよ。
オレの家族だって」
カイとゲン。少しぎこちなくはにかんだ笑顔で映る二人がそこに居た。
人が亡くなった時に雨が降るのは少しでも魂をこの世界に留めておくためだと聞いた事がある。
まだ、間に合うだろうか。
「ごめん」
小さく呟く。
ゲンに聞こえているだろうか。
今日が雨でよかった。
頬に伝うそれを、雨が隠してくれるから。
街を見下ろし、拳を強く握る。
今までは、流されるようにして関わってきた。
そして今、世界は更なる混沌に包まれている。
自分に何が出来るか分からない。
しかし、この世界には大切な人が生きている。
大切な人が守りたいと願った物がある。
握った拳に更に力を込める。
どこまでやれるか分からない。
自分が何者かすら分かっていない。
それでも……
それでも、だ。
カイは決意する。
この世界とまでは言わない。
大切な人と、大切な人が守りたいと願うモノ位は守ろう。




