ソラ・イン・アンダー オブ ユニバース⑥
目の前に現れた雫は、フォレス王国で囚われた頃と大して変わっていなかった。
ブラックホールで囚われている時間がちがっていたのだろう。
「さっきの『黒雷』はアナタが?」
「あぁ」
「そう」
雫の髪がざわめき、幾つかの束になり、ソラに向かって襲いかかった。
身体を逸らしてかわし、一つを掴み捉える。
髪は蛇の頭に変わっている。
「どう言うつもりだ?」
ソラは雫を睨みつける。
雫の姿は髪が無数の蛇へとかわっている。それはまるでラードーンの頭の様だった。
「取り込んだのか」
「えぇ、そうね」
ソラは掴んだ蛇を手放す。蛇は雫の元へと縮んで戻った。
改めて雫の姿を見る。
髪は無数の蛇にかわっている。
黒いドレスはフォレス王国の時にきていただけの物だが、あの時とは違った妖艶な雰囲気をまとっている。
ラードーンを取り込んだ影響だろう。
谷底に感じた禍々しく悍ましい感覚の元が雫なのは間違いなかった。
「そんな怪物いたなぁ。睨んだら相手を石にするって奴」
「メデューサよ。本当に学がないのね」
「あ?殺すぞ」
「あら、出来るの?
アナタごときに?」
「灯れ」緑色の炎の球が10個を雫へとぶつける。火柱と共に煙と土埃が巻き上がる。
「誰に、何が、出来ないって」
薄らと笑いを浮かべて、ソラは土埃に向かって吐き捨てた。
「ほら、出来てないわよ」
突風が土埃をはらす。
その中から現れた雫の背中には大きな翼が生えていた。
冥府の炎からはその翼で身を守った様だ。
「アナタが私の可愛いペットを殺しちゃうから、私、悲しくて……一つになる事にしたの」
「受肉させたのか」
「えぇ。私とあの子、一つに混ざりあったのよ。
とても、甘美な感覚……
ソラ、見た目は育った様だけど、お子様のアナタにはまだ早いかしら」
『澱』を取り込む事と、混ざりあう事はまた違った意味をもつ。
自分が自分で無くなるかもしれない。
ソラはそれを必死で押さえつけている。自分を委ねるなどあり得ない。
取り込んだとしても、混ざり合いはしない。
しかし、その反面、溶けて混ざり合えば、得られる物も多い。
『澱』は肉体を得る事で本来の力を取り戻す。
混ざり合った意識は果たして誰のものなのか、それは誰にもわからない。
「そんな感覚、知りたくも無いね」
ソラは改めて冥府の炎を出現させる。
もとから雫の事は気に食わなかった。
久しぶりに知った顔に出会った事で、少なからず攻撃に手心を加えてしまっていた様だ。
だが、やはりコイツは気に食わない。
「殺してやる」
そう言いかけた、その時だった。
「ブォオオオオォォオオオオオォオオ」
鯨の鳴き声が響く。
アンダー オブ ユニバースで初めて鯨が鳴いた。
世界は大きく揺れ動き、上も下もなくかき混ぜられた。
かき混ぜられた『澱』は溶けて沈む事をやめ、また世界を濁らせる。
上も下も無い。
宇宙の中心へ、一つに混ざりあって行く。




