雫・イン・アンダー オブ ユニバース
冷たいレンガの上で横たわり、その温度に身を任せた。
フォレス王国の国境近くの牢獄に投獄された。
どうして、こんな事になったのだろう……
壁の上には鉄格子がはめられた小さな窓が一つだけ設けられている。そこから優しく月の光が差し込んでくる。
その優しさが雫をより惨めにした。
あんな小娘にいい様にやられた。
それは、まだイイ。
牢獄に閉じ込められた自分を、あの人は、鎧塚は助けには来ないだろう。
いつも、誰かにいい様に使われて、要らなくなったら捨てられる。
床の冷たさが、空っぽの心をさらに暗く凍らせていく。
隣の牢獄ではソラが何か喚いているが、雑音にすらならない。
あの独りよがりのクソガキの言葉は、夏につんざく蝉の鳴き声に近い。
うるさいだけで意味の無い音だ。
鎧塚に言葉巧みに誘導され、気づけばロッズ帝国からフォレス王国に攻め入る事になっていた。
それでも、鎧塚が自分を求めてくれるなら、騙されたふりをしてでも、彼の隣にいる事を選んだ。
それすらも鎧塚の思惑だまたのでは無いかと思う。
気がつけば涙が頬を伝っていた。
涙の通った後だけほんのり温かい。
重く沈む気持ちと共に瞼、も落ちて行く。
雫は特に争いもせず、そのまま眠りについた。
次に目を覚ますと、雫は暗い闇の中にいた。
暗いと表現しても良いのかわからない。
「暗い」の対義語は「明るい」なのだろうが、この闇は明るさを求められる次元の闇では無かった。
暗い闇の中時間だけが過ぎていく。
最初に感じた不安や恐怖も、もう感じない。それ当時頃に後悔やある期待と言った感情も薄れて消えていった。心が持っていた色は、闇の暗さに染められて行く。
そして闇と自分の境目も曖昧になった。
雫は闇と溶け合った。
次に意識を取り戻すと、辺りは灰色の景色がひろがっていた。
両端を高い崖が遮り、崖の両端が細い曇天の空を切り取っていた。
雫は壁に手を添え、ふらつく体を支えて歩き出した。
黒く蠢く物体に遭遇した。動物や人の形を成してはいるが、根本的に違う物だとと本能でわかる。
目を凝らせば精霊が見える。むしろ中心世界よりも多い様に感じられた。
雫の行手を遮る様に、双頭の犬が立ちはだかる。魔法で黒い双頭の犬を排除する。
攻撃があたると、ドロッとした液体に変わった。
飢えと渇きのせいなのか、それとも本能によるものなのか、雫はそれを啜っていた。
記憶が流れ込み、この世界を理解する。
「……ここが『世界の底』なのね」
『澱』が沈むこの世界に「雫」が落ちる。なんて、皮肉だろうか。
谷の底を歩き続けた先で、百の蛇の頭を持つ翼を持った巨大な蛇に出会った。
蛇というよりは御伽話に出てくるドラゴンだ。
このドラゴンは言葉を発する事も、攻撃する事も、特に何をする事も無かった。
ドラゴンが唯一した事と言えば、雫に安らぎを与えた事だけだった。




