永遠少年④
世界管理機構からやって来た男達は、それぞれ鎧塚と長谷川と名乗った。
40代の方が鎧塚で、その部下が長谷川だ。
世界管理機構という名称は、最近ニュースでよく耳にした。
各国がそれぞれ人員を出し合い、ジパングの調査および和平を目的に、日本に設立した組織だと聞く。
そんな組織が何故カイの事を知っているのか、いよいよ怪しい、とゲンは自然と左足を引く。
座っていても剣道の癖が抜けず、警戒すると半身を取ろうとする癖があった。
「カイならまだ帰ってへんよ」
声もいつもより少し低い。
警戒を感じてか、鎧塚は両手を広げ、掌をゲンの方に向けてニッコリと笑いかけた。
私は何も隠し事はしてませんよ。と言わんばかりだ。
「突然お邪魔して申し訳ありません。田中巡査長。
あぁ、先ほど町の方に道を尋ねた時にうかがったのですが、田中巡査長は皆様からゲンさんと呼ばれておいでとか…私もゲンさんとお呼びしても?」
ゲンが答えないでいると、どう解釈したのか鎧塚は満足そうに頷き、話しを続けた。
「いやね、ゲンさん、私達の機関の事はテレビでご存知かと思いますが、実は報道されている以外にも業務がございまして…
本日寄せて頂いたのは、そちらの件でございます。」
鎧塚は背も高く、手足が長い。細く伸びた手足に貼りたい笑顔は、どことなくピエロの様に見えた。
「カイ君…を保護されたのはゲンさんだとか。
それは昨年の8月8日…
お間違いないですか?」
長谷川は鎧塚の後ろでタブレット端末に何かを打ち込んでいる。
「それが何やよ?」
そう問いかけながらも、何となく、彼らの目的に想像がつき始めていた。
「カイ君はそれより前の記憶がない…
これもお間違いありませんか?
その後で何か過去の事を思い出されたか、実は出自がお分かりになられたとか、その様な事はございませんか?」
ゲンは小さく首を横にふる。
「そうですか。そうですか。
ところで、カイ君はもうご帰宅されておいででしょうか?」
「今日は部活に顔出すって言うてたしよ、まだ帰らんよ」
それを聞いて鎧塚は長谷川に目配せをする。
「それでは、長谷川を迎えにやりましょう。」
派出所の前には黒塗りのセダンが止まっている。
メルセデスベンツのE-Class。1000万位するんじゃなかったか…ますます気に食わない。
いゃ、別に高級車に乗ってることは別に良い。この鎧塚の何処となく慇懃無礼な態度が気に食わないのだ。
「部活おわったら、すぐ帰ってくる。
それまで待ってらぁよ。」
「そうですか。そうですか。
それではお待ちさせていただきます。
そぅそぅ、お昼に和歌山の名物という事でラーメンを頂いたのですが、とても美味しく、すっかり虜になりました。鯖寿司も一緒にいただきました。
ラーメンと鯖寿司の組み合わせ何て、初めてで、とてもユニークですね。
鶏ガラと醤油のスープに、鯖寿司の酸味が意外に合う。
そこの長谷川と帰りにもう一軒寄って行こう。と言う事になりましてね。
何処かおススメのお店を教えていただけませんか?」
何店か思いついたが、教える気にもなれず黙っている。
鎧塚は、また満足そうに頷く。
「折角なので、カイ君のお気に入りのお店を教えて下さい。
…今後はなかなか食べられ無くなるでしょうから。」
ゲンは机を叩き勢いよく立ち上がった。
椅子が後ろに勢いよく倒れる。
ゲンは鎧塚を睨みつけた。
「それどう言う事らよ?」
先ほどこの男の発した言葉「今後はなかなか食べられなくなる。」はどちらを差しているのか。
鎧塚達が和歌山になかなか来られない。と意味ならよい。
ただ、この男達が訪れた時から予感めいたものがゲンにはあった。
カイが今後なかなか食べられなくなる。そう言う意味で鎧塚は言っている。
コイツらはカイを連れて行くつもりだ。
「ただいま。表に車が…
…どうしたの?」
ゲンが見た事の無い長身の男を睨みつける場面にで詳しく、カイは少し驚いた。
ゲンが怒る姿なのど、ここ1年見た事がない。
喧嘩の仲裁に入り、興奮した男に殴られた時でさえ、殴った男を優しく諭していた様な人だ。
長谷川と鎧塚は、後ろを振り返りカイを見た。
鎧塚がカイに近づく。
左手をカイの肩に置き、右手でカイの右手を握り、有無を言わさず握手をした。
帰宅した時の状況から、この男達はゲンに歓迎さらていない。それなのに、この馴れ馴れしい態度は何なのだろう。
カイもまた鎧塚を警戒した。
鎧塚は、また満足そうに頷き、握った右手を軽く上下に揺らす。
「カイ君。お帰りなさい。
お会いしたかった。
私達は貴方に大切なお話があって、伺いました。」
鎧塚の貼り付けた様な笑顔を見て、カイはピエロを思い浮かべた。




