負
そこは灰色の世界。
濃淡はあれど色と言うものは存在しなかった。
犬は色を認識出来ないと聞いた事がある。犬畜生の見る世界は、こんな感じだろうか。
灰色の世界の中に存在するのは、黒い塊達だ。
それは一定の形を保っている。しかし、あくまでも保っているだけだった。本来の外殻、肉体を持たない。
それらしい格好をしているが、それは偽物だ。
ソラはブラックホールにどれくらい囚われていただろうか。
光の届かない闇の世界が、急に白んで行き、気がつけば、ここにいた。
「くそっ……何処だよ。ここは」
当たりを見回す。
ハリボテの様な灰色の景色がひろがる。
痩せた木や岩がある以外建物などは無い。それも全て灰色だ。
黒塊は人の姿をしている物もあれば、動物の姿をしている物もある。ゆっくりと動き回っているが目的はなさそうだ。徘徊という言葉がしっくりとくる。
近くにいた、人の形をした黒い塊に近づく。
「お前、喋れるか?」
無駄だと思いながら声をかけると、意外にも反応が返ってきた。
「おまえしゃべれるか」
オウム返しだか、確かに言葉を発した。
ソラは黒い物体を観察した。
表面はよく見ると黒く波打っている。個体というより液体に近い。
触ったらもっと波打つのだろう?
指先で触れてみる。
次の瞬間、黒い物体は人の姿を崩し、粘液の様に変わるとソラの指先から勢いよく身体へとまとわり登ってきた。
「なっ!」驚いて開けた口に液体が滑り込む。
「ぐぅあ」ソラが嗚咽をあげる一瞬の間に黒い液体は口から全てソラの中へと潜りこんだ。
鳩尾が焼ける様に熱い、吐きたいが吐く事ができない。
身体の中で何が膨らみ溶けている。
ソラは意識を保つ事が出来ず、その場に倒れた。
倒れたソラの周りに黒い塊が集まってくる。牛や鹿の形をした物、翼のついた蜥蜴、三ツ首の狼、角の生えた人……
それ等はソラの周りに集まると、その形を崩して混ざりあい、ソラを覆う。
黒い塊はソラの口から体内へ潜り込んで行く。
ソラの身体の何十倍はあったはずの黒い液体は全てソラの中へと収まった。
気を失ったソラは夢を見た。
それは黒い塊が持っていた『記憶』だ。
『争い』『裏切り』『怒り』『妬み』『虐殺』『憎悪』『嫉妬』『凌辱』……
様々な場面、感情が入り混じる。
それらは一言で言うなら『負』。
『負』を全て集めた様な、そんな夢だ。
夢の中でソラは思う。
「なんだ……ボクとたいして変わらない」
ソラは『負』の中で安らぎを見つけ、深い眠りに落ちていった。




