野生の勘
「あら、カイさん。
久しぶりやんかぁー」
マツは簡易ベッドから上体を起こし、右手をヒラヒラと振った。
全身包帯だらけだが、取り敢えず無事の様だ。
砂漠の上には、簡易テントと土魔法で出来た土のかまくらが数箇所に並んでいた。
世界管理機構からの救援部隊が到着してから1日経って
カイもPW23へ到着した。
『爆鳴氣』の疲労の回復に一日要した為、到着が遅れてしまった。
「マツは、残念な姿になってるな」
「残念て、酷い言われようやわ。
メッチャ頑張ったのにぃ」
「タケさんと、ウメさんは……?」
「二人やったら多分、下ですわ。
また、何か起こったら事やさかい、見張りしてはります」
二人も無事の様た。カイは胸を撫で下ろした。
「あの二人は、気で回復はやめて、早々に現場もどらはりましたわ。
ホンマ勤勉なんやから。頭下がるわぁ」
「マツはサボり?」
「ひどぉ。そんな訳ありませんやん。
相変わらず、辛辣なんやから」
マツは笑おうとしてして顔を歪める。傷口にさわった様だ。
「アタタタ……
他の二人とちごて、オレ繊細なんやからあんまり変な事言わんといてぇ」
マツは左手脇腹をおさえながら軽薄に笑う。この笑い方をする時のマツは強がっている事をカイは知っていた。
「随分、酷くやられたみたいだな」
「ほら、『始祖還り』して暫くは『氣』使われへんやろ?
呼吸で回復でけへんさかい、こんな事なってもて……
ほんま、しんどいわぁ」
「何があった?
長谷川さんが全滅さたかもしれないって、えらく心配してたぞ」
「へぇー……
あの人でも、そないなる事あるんやね。
いっぺん見てみたいわ」
マツはまた軽薄に笑うと、少しして真顔に戻った。
「アレは、えらい気色悪いモンでしたわ……」
「カイさんも、後で下にいかはったら、あの首の無い像見てみてください」
「片翼のニケ像?」
「そうです。報告書で知ってはる感じですか?
まぁ、実際に見てもらた方が良くわかる思いますわ。
アレが、何かと繋がったったんです」
その時の事を思い出したのか、マツの顔から血の気が引いていく。
「ホンマ、嫌な感じでしたわ」
「カイさんやったら、分かるでしょ?
『野生の勘』アレが最大限に警告を鳴らしとりましたわ」
「それは……相当だな」
『野生の勘』は自身に起こる危険を感じ取る能力だ。マツのそれは特に優れている。
カイは朱天童子と対峙した時の時の事を思い出した。
あの時『野生の勘』は警笛をならさなかった。
あの時は朱天童子がカイに危害を加える意思がなかったからなのだろう。
『獣の世界』が拡張され、マツとカイが同期した時に得た能力だ。
「あの、黒いドロッとしたヤツ……
アレも大概でしたけど、それより、それと一緒に出てきたヤツ……
アイツは、あきません」
マツの顔の血の気が、完全に引いている。
それだけの恐怖をマツに植え付けたのだ。
「そいつは、人なのか?」
「……多分」
マツは強がり、また軽薄に笑う、
「自分で『ソラ』って名乗ってましたから」




