ドラクエかファイファン、どっちなんだよ。
「ほな、また」
朱天童子は背を向けて、階段を降り始めた。
唐突に現れ、唐突に帰ろうとする。
「お前……
何しに来たんだ……」
カイは朱天童子を思わず呼び止めて、直ぐに後悔した。今はもう一戦かわす体力など残っていないのだ。
朱天童子は振り返ると、カイを見上げた。
「何て……あれ?何しに来たんやったかなぁ」
「茨木童子は、キミ等を喰うつもりやったみたいやけど、ボクはキミのお陰でぎょうさん頂いたから、今日の所は、もぅ満足やわ」
「『喰う』って、お前等人を食べる様になったのか」
喋る様になっただけでなく、鬼は人の肉を食べる様になったのか……
「何言うてますの。元からずっと、キミらはボク等の飯やんか」
朱天童子は、カイの質問の意味がわからないと言った調子で答え、少し思案して「あぁ!」とまのぬけた声をあげた。
「そうか、そやね。そらそやわ。
キミ等、なぁんも知らんのやったね」
「何の事だ?」
「何って、そらぁ全部やんか。
ソラも何も知らんかったもんねぇ」
「ソラ……?」
ソラとは、ロッズ帝国から国境に進軍し、カイに捕まった後にフォレス王国の牢屋から姿を消した、あのソラの事をいっているのだろうか。
ソラと雫はあの後行方知れずのままだった。
何故、朱天童子の口からその名前がでてくるのか。
「キミに説明するのも面倒くさいから、また会う機会があったらその時までに、勉強しとき」
朱天童子はカイを見上げてニヤァと笑う。
「見逃してあげるんやから、『命、大事に』やで」
そう言うと、カラン、カランと乾いた下駄の音を響かせて朱天童子は消えて行った。
カイは緊張がとけたせいか足の踏ん張りが効かず、その場にドサッと座り込んだ。
「ドラクエかファイファン、どっちなんだよ」
緊張がほぐれて一番に出た意外な自分の言葉に、思わず笑った。
空を見上げると、鯨が遠くを泳いで行く。
ボンヤリと鯨を眺めていると、カイのブレスレット形の携帯端末がなりだした。フォログラム通信も行えるモデルだ。
世界の統合がおきてから、今までつながらなかった通信電波がパラレルワールドにも届く様になった。
カイはブレスレットをタップする。
フォログラムは使わずに、骨伝導通話のみ使用した。
「カイ君、無事ですか」
電話の相手は長谷川だった。
「良かった。至急、PW23に向えますか!?」
長谷川の口調は切羽詰まっている。
何か良く無い事が起こったに違いない。
「何があったんですか?
pw23にはタケさんのチームがいた筈ですよね?」
「……」
長谷川は少しの沈黙の後、意を決した様に大きくいきをはいた。
「松竹梅が全滅した可能性があります」




