酒呑童子、改め
「よろしゅうに」
鯨が泳ぎ、遮っていた陽の光がまた差し込む。
酒呑童子と名乗った青年を照らし、その姿をより浮き彫りにさせる。
朱色の着物が鮮やかに色をさす。
茨木童子は酒呑童子の一の子分と名乗っていた。
しかし、目の前に立つ青年の姿はカイの見てきた鬼とは明らかにちがっている。
肌のひび割れはなく、霞んだ赤や青ではない。血の気の帯びた白に近い肌色をしている。髪も艶やかに伸びている。
額に大きな角が二本なければ、だれも目の前の青年を鬼とは思わないだろう。
しかし、額から長く伸びた大きな角が『鬼』である事を物語っている。
「あらあら、人って言うのはえらい礼儀知らずやなぁ。
ボク、今、名乗りましたんやで?」
目の前の鬼は涼やかに笑う。
茨木童子が全身で放ってきた様な怒気は酒呑童子からは微塵も感じられなかった。
「恥ずかしがり屋さんなんやねぇ」
カイはシミターを握り直す。が、握る手に力が入らない。『爆鳴氣』によっての消耗は当然まだ回復していない。
「こう言う時は何やったかなぁ……」
酒呑童子は上を向き首を捻る。
「パパッ……ん?ちごぉたかなぁ
パパパッ……
……そや、そや。」
「パパパッ パッパ パッパッパァー」
カイの知っているリズムを酒呑童子が口ずさむ。
宏美とやったRPGのレベルアップ時の効果音だ。
酒呑童子は両手を左右に広げて大きく伸びをした。
「おおきに。おおきに。
キミのお陰で『れぇべるあっぷ』ができました」
茨木童子も言っていた。
この鬼達はなぜ、ゲームの事を知っているのだろうか。
「なんです?
鳩が豆鉄砲くらわはったみたいな、お顔して?」
「お前、何だ……」
気がつくとカイは素直な疑問が口から出ていた。
目の前に立つこの男は、一体何なのかわからない。
カイの知っている鬼とは、余りにもかけ離れている。
得体の知れない不安に、背筋にゾワッとした悪寒が走った。
「何て、さっきから名乗ってますやん。
酒呑童子です。
あぁ、でも、そうかぁ……
『れぇべるあっぷ』して進化したさかい、そない言うてはるんやねぇ。
酒呑童子改め、朱天童子とさせてもらいましょかぁ」
「レベルアップ、進化……
なに、ゲームみたいな事言ってるんだ」
「げぇーむ……
そう、そう。
『げぇーむ』では、経験値をぎょうさん集めたら『れぇべるあっぷ』して進化するやろぉ」
「キミがぎょうさん経験値くれはったさかい、無事に進化できました」
朱天童子はニヤァと不遜な笑みを浮かべた。
カイの背筋にオカンが走る。反射的にシミターを構えた。
トン
次の瞬間、シミターは地面に落ちた。
斬られたっ
カイは右腕を見る。右腕は今も繋がっている。血も出ていない。
朱天童子の大太刀は、カイのシミターの切先に軽く触れただけだった。
流れる様なその動作に、カイは右腕を斬られたと錯覚した。
「そんな顔せんでもよろしぃですわ。
ボク、そんな恩知らずちがいますよって。
進化させてくれた恩人さんの命取るやなんて、恥知らずな事、よぉしませんわぁ」
「今回は……ね」
朱天童子はまたニヤァと笑う。
「何が目的だ」
「目的?
目的かぁ」
「そやねぇ」と言い、朱天童子は指を立て天を指した。
「天を朱に染めますわぁ。キミ等、人間共の血でね。
だって、ボク……朱天童子やさかぃ」




