爆鳴氣
また、師匠に怒られるな……
カイは魔力を刀身にこめる。
大きくすると言うよりは圧縮していくイメージだ。
炎はメラメラとした揺らぎは無くなっていく。
刀身を納めた鞘のようだ。
炎は色を、赤から青へと変えていく。
刀身は熱を蓄え白く発光していた。
茨木童子は変わらず猛攻を続けてくる。
技術の無い唯の暴力は型のない分読みづらい。
しかし、これだけ攻撃を受け続けると茨木童子の癖を読み取れた。
次……
右足を踏み込み、蹴りを繰り出す様に見せかけて、右の拳を下から突き上げてくる。
次……
踏み込みと同側から無理に突き上げた体制には、若干の隙が生じる。
茨木童子の予想通りの動きは、カイに呼吸を整える間を与えてくれた。
大きく息を吸い込んで息を止める。
体の中の精を体の中で撹拌させ爆発させていく。
「爆鳴氣っ!」
「お前なぁ……ソレ死ぬぞ」
師匠の呆れた顔が浮かぶ。
この顔は「『悟り』を開いた」と師匠に報告した時に怒られた時の顔だ。
「お前、それ『先天の精』も『後天の精』も一気に使い切る技だ。
いいか?
『後天の精』は、飯くや補充される。
けどな……『先天の精』はそうはいかん。」
珍しく、真剣に話をしてくれる。
いつも投げやりな態度だが、最後の所で人を見捨てきれない。
やはり天仙を目指した『道士』なのだろう。
「『先天の精』はな、一度減ったら元に戻らないんだ。
無くなった死んじまうんだ。わかるか?
オレらだって呼吸で幾らか若くみえたって、先天の精は確実に減ってくんだ、飯食って補ったってこれはどうしょうもねぇ」
「お前の、その『悟り』で得た呼吸法は『後天の精』も『先天の精』も一気に燃やし尽くして、莫大な『氣』をつくれる。
だがな、その後は?
『先天の精』が無くなって、死ぬだけだ!
寿命と引き換えに得る力なんか認めん!!」
「いいか!
師匠命令だ!
その呼吸は今後一切禁止だっ!」
体の中の空気と精が勢いよく混ざりあって爆発していく。その全てが『氣』だ。
収まりきらない分が毛穴から噴出し、カイの周りの空気を歪めた。
「ごめん。師匠」
茨木童子の右腕がボトっと地面に落ちる。
「あ?」
何が起こったかわからずに茨木童子は自身の右腕を見る肘の少ししたが繋がっていない。
なのに痛みがない。
傷口をまじまじと見る。断面は高温で焼かれている。
「あっああああああ!!!」
遅れてやってきた焼けるような痛みに襲われ、茨木童子は堪らずにその場に蹲った。
焼けるような痛みではない。実際に焼けた痛みだ。
「灼熱空斬」
茨木童子の身体は、痛みも熱さも感じる間もなく刻まれた。その痛みが遅れて押し寄せてくる。
「あっあっあああああっあああああああああ!!!」
轟音の様な茨木童子の断末魔に、他の鬼達は恐れをなして散り散りに逃げ出した。
「あっ」
ゴロン……
茨木童子の頭の身体は、亡き別れた。
『爆鳴氣』について師匠に叱られた時、ふと『テロメア』について思い出した。
減る事の無い命の回数券。これは『後天の精』に対しても同じなのか……
もしか、違っていたならば……
カイは師匠に見つからない様に何度か『爆鳴氣』を行ってみた。
皆が、カイを置いて時の流れに流されていく事に、少なからず寂しさを覚えていた事も事実だ。
これで時の流れを駆ける事ができるのなら、皆を追いかける事が出来るなら、それでも良いと思った。
しかし、変化は訪れ無かった。
先天の精が減る事による、身体の衰えはやってこない。
『爆鳴氣』を使用した直後は、それこそ動けない程の疲労感に襲われるが、数時間後には元に戻っていた。
カイは足元に転がる茨木童子の亡骸を見る。
命を奪ったのに、その感覚が薄い。
人と鬼とは、やはり、そう言うものなのだろうか。
それとも、何かが欠落しているのだろうか。
それでも良い。
何かが欠落しているのだとしても、一人取り残されたとしても、大切だと思える人を守れる力があるのなら、それで良い。
カイは、空をみあげる。
鯨が空を泳いでいた。
カラン、カラン……
下駄の音が階段を上がってくる。
鯨が陽の光を遮り影を落として行く。
茨木童子の肉塊がプルプルと震えだした。
グニャグニャとその辺縁を歪め、その速度は次第に上がって行く。
パンッ
肉塊が弾け、なかからドロっとした黒い液体が流れ出た。
液体は階段の下を目指して流れていく。
その流れは、意思をもって一箇所をめざしていた。
カラン、カラン……
乾いた下駄の音は次第に大きくなっていく。
階段の下から、鮮やかな朱色の着物を着た、青年の姿が現れた。
背中の中腹まである、長い黒髪を真ん中でわけている。
馬上で使うような大太刀を肩に担ぎ、その切先からは黒い液体が滴っていた。
尖った顎と切れ長な目。
どう見ても人の姿のその額には、二本の大きな角が生えている。
「どうもぉ。
鬼の棟梁やらしてもろてます」
「酒呑童子と申します」




