PW08-仙道と氣の世界
柱の様な岩は、どうやってそのバランスを保っているのか不思議なほどに、細く長い天へ伸びている。
岩の柱の地上に近い所では木が生えている場所もあったが、高くなるにつれ次第に苔に変わっていき、峰に至る頃には岩肌しかみられない。
峰は人一人が座禅を組めるほどの広さしか残らない。
眼前に広がる雲海は、踏み出せばその上を歩けそうだ。
雲海を突き抜けて、岩の柱が見渡す限りに何本もそりたっている。
風化により、少しずつ岩肌が削られて、長い年月の末に出来上がった光景だ。
その一本の上で、でカイは座禅を組み瞑想をおこなっていた。
雲海を朝日が照らし、白い海が淡いオレンジに染まっていく。
仙人に至るための修行『修仙』のうちの一つ『百日来光』の修練を初めておよそ60日が経っていた。
夜の間に岩の柱を登り、座禅を組んで朝日を浴びながは瞑想を行う。それを百日繰り返した頃には『悟り』を得られると言うものだった。
仙人とは不老不死の存在だと言う。
本当に不老不死になった人間は、PW08の世界でも見つかっていない。『氣』の力で老化が起きづらいと言うのが真相のようだった。
それでも何が糸口になるかわからない。
カイが少年のままな理由がわかるかも知れない。
カイは修仙を行い、それを確かめる事にした。
幸いにも、いや、皮肉にも時間はあるのだ。
仙道をゆっくり歩いたってよいだろう。
朝日が昇り切ると、岩の柱を下り、街に戻る。
食事をとり、夜に向け休息を行い、また次の朝日が昇るまでに岩の柱を昇る。
柱を登るだけでもかなりの苦行だ。
『百日来光』を始めた修仙者達は、朝日を見るまでに断念する者も多かった。
何とか朝日までに登れる様になっても、疲労により瞑想中に睡魔に抗うことが出来ず、バランスを崩してしまい柱から落下する者も少なくない。
下手をすれば命を落とす危険があるこの修行は、今ではあまり行われなくなっていた。
それでも麓の街はそれなりに賑わっている。
修仙者達と言うよりは観光客が多いようだった。
「師匠、ただいま戻りました」
仙人と言えば長い髭を蓄え、どこか達観した空気をまとったいると思っていた。
しかし『氣』の効果のおかで、仙道を進み『道士』と呼ばれるようになった、その者達の容姿は若かった。
「おかえり」
小屋を開けると土に藁を敷いた寝床に、涅槃像の様に男が寝転びながら饅頭をたべている。
「相変わらず、行儀が悪いですよ。
ちゃんと座って食べてください」
「イイじゃねぇかよ。俺は今はもう『道士』やめてんだから」
「ふぁあ」と大きな欠伸をして間の抜けた返事をする。
「大体よぉ、仙人になりたいなんて、今どきお前も変わってるよなぁ」
「師匠だって、一度は仙人をめざして道士になったんでしょ?」
「あんなもん……」
師匠と呼ばれる男はゴロンと寝返りを打ち、カイに背を向ける。
「ほら、お前の分はそこにある。
さっさと飯くって、明日に備えな」
師匠の用意しくれた饅頭が床におかれている。
カイは饅頭を食べながら師匠の背中をみつめた。
この世界の人々は仙人を目指し、そして誰も至れなかった。
仙人の位は『天仙』『地仙』『尸解仙』とあり、この世界の人々はかつて神々の住む世界と至れる『天仙』を目指して修行に励んだ。
しかし仙道を歩み『天仙』には未だ誰も到達できていない。
せいぜい『地仙』として氣を操る事のできる神通力を会得した者までだった。
この世界の人々はいつしか「『天仙』に至るなどと言うのは夢物語のなかの話しだ」と笑うようになり、嗜み程度に仙術を学ぶようになっていった。
師匠の様に真剣に『道士』としての道を諦めた者達が、初心者相手に修行を付ける事がビジネスになっていた。
仙術のインストラクターの様なものだろう。
『百日来光』は難易度の高いけど修行なので初心者というより中級向けだ。
稼ぎたいのなら、こんな難易度の所では需要は少ないのでは無いだろう。
饅頭を食べ終え、カイは寝床についた。
夜中の内に再び岩の柱を登る。
峰につくといつも様に目を瞑り内側に意識を集めていく。
暖かな感覚が身体を巡る。魔力が臍のあたりに溜まりがあるのに対し氣は鳩尾のあたりに溜まっている。その巡りの調整は呼吸で行う。
呼吸の回数や強弱で、起こる効果は変わっていく。
自然の気と体内の精を呼吸で混ぜ合わせ『氣』をつくる。神通力の源だ。
閉じた瞼に暖かい感覚が差し込む。暗がりに明かりが差し込んでいく。瞼の裏からでも朝日が登った事がわかる。
淡いオレンジの中に強く光る白い点が差し込む。
今までに無い感覚が鳩尾から身体を上がって頭のてっぺんから抜けていく。
新しい力の目覚めの感覚。これが『悟り』だろうか。




