れぇべるあっぷ
カイは折れた左腕を庇いながら階段を数段登り茨木童子と距離をとった。
茨木童子はゲタゲタと笑っている。
振り下ろされた茨木童子の両手を、炎を纏ったシミターで防ごうと左腕を添えて上段にかまえた。
先程の石垣を破壊したの威力なら、防ぎ切れる筈だった。
シミターに纏った炎と茨木童子の振り下ろした両手がぶつかり合う寸前、鬼の手に黒いモヤのような物が現れた。
炎と黒いモヤは互いにぶつかり反発して相殺された。
茨木童子の巨体から振り下ろされ両手の勢いに押し負け、カイは吹き飛ばされた。
添えた左腕は衝撃をうけきれず、本来なら曲がらない方向へと曲がり、激痛がはしる。
「ひき肉になるかと思ったけど、キサマ、案外硬いやんか」
茨木童子はカイを見下しながら指差した。
その脇を、後ろに控えていた鬼が飛びだしてカイに飛びかかる。
手負の獲物なら仕留められると思ったのだろう。
「ワシが話しちょる、途中やろがい」
茨木童子は飛び出した鬼を捕まえ、右手に力を込めて握り潰した。
鬼の体液とは別に黒いドロっとした液体が流れ出し、茨木童子の腕を伝い登っていく。
茨木童子が大きな口を開けて液体を飲み込んだ。
「コレやコレ!
なんつぅとったけぇ?
れぇべる……
そうや!『れぇべるあっぷ』や!!
こう、なんや?
力湧き上がる感じやのぉ」
ニタァと笑いながら舌舐めずりをする。
口から臭い出る腐臭が一段と強く鼻をさした。
「レベルアップって……
何で、鬼がそんな言葉知ってるんだ?」
「なんや?自分。
いたい、いたぁいって泣き叫ぶかおもたのに。
オモロないやっちゃのぅ」
茨木童子は、手をポン、ポンも叩きながら、
「ほら、泣いていみぃ」
「はよ、泣いてみぃ」
と囃し立てた。
茨木童子の後ろで、鬼達がケタケタと笑っている。
「あぁ、ホンマにエェ気分やのぉ」
茨木童子は後ろの鬼を一匹捕まえる。「ヒィッ!」と慄く鬼の頭と足を持って、雑巾のように捻り潰した。
ポタポタと、また液体が滴り落ちる。
茨木童子は捻れた鬼を、そのまま自身の頭上へと掲げた。
粘着質な液体は、ゆっくりと玉になるまで集まり、重さに耐えかねて落ちていく。その雫を大きな口から、苔の生えた舌を伸ばして受け止める。
ゴクっと大きく喉音を鳴らして飲み込んだ。
同士討ちに興じてる間に、カイは左手の治療を行った。
ズレた骨を引っ張り、骨折面を合わせると、浅い呼吸を五回、深い呼吸を一回のペースで繰り返す。
呼吸に合わせ『氣』を骨折した腕へと巡らせた。
『氣』の感覚は魔力のそれと似ていた。
瞑想で感じた魔力の通り道を『氣』もまた通っていく。
しかし『魔力』と『氣』が同じものかと言えば、そうでは無い。感覚的な物になるが、『魔力』よりも『氣』の方が軽い様に思う。
例えるなら、冷たい空気が下に集まるのに対し、温かい空気が上に行く様な事だろうか。
『氣』は呼吸で操る事が出来る。
今行っている呼吸法は『自然治癒力』の向上だ。折れた骨骨細胞を活性化させ、癒合をはやめる。組織内に流れ出た血液などの老廃物はリンパへと吸収され、腕の腫れは引いていった。
難点としては、治癒による組織の急激な活性化により、修復部に耐え難い痒みを催す事だろうか。
呼吸法を数回繰り返す頃にはカイの左腕は痒みだけを残して元通りになっていた。
『氣』は八回目の拡張で同期した能力だ。
PW08、そこは仙人の住まう世界だった。




