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ホエイルホエル  作者: たろ
四幕

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見送り


雨が降っている。

 傘にあたる雨はボツボツと音を鳴らし、耳にへばりついた。


吉本の家で身内だけの葬儀がとりおこなわれた。

 吉本は無宗教だと言っていたが、それでも先祖からの受け継いできた宗派はある様だ。

 霊柩車に棺桶が運び込まれるのを、カイは離れた道の角から見送った。


タイヤの無い無人のリニア自動車が火葬場まで吉本を運んでいく。


 『マキナ』が拡張してから、中心世界の発展は著しく、今では車の自動運転など当たり前だ。

道路には磁気装置が埋め込まれ、リニア技術で制御された車が目的地まで運んでくれる。

 しかし、霊柩車は運転席が存在し、運転手が形だけでも同行する。人の最後を見送るには、無人の車はあまりに寂しい。

科学の進歩と言うのはやはり人が発展させるもので、そこには思いが残るものなのだと実感した。

 雨が降れば、今だに傘をさすし、人が死んだら火葬場で燃やす事も変わらない。


吉本の家は、今では珍しい一軒家だった。

「植木の手入れをしてくれる、庭師が居なくて困る」と言っていたが、植木は丁寧に剪定されていた。


 霊柩車が走り去った後、一台のリニア自動車が家の前に着けた。家族も火葬場へと向かうのだろう。


喪服を着た中年夫婦が家から出てきた。

 夫が、妻の肩をだき、片手で傘をさしている。その後ろを高校生位の少女がついて出てきた。吉本の娘家族だ。

 カイは夫婦どちらの顔も知っている。と言っても実際に会ったのは随分前だ。


雅はハンカチで涙をぬぐっている。カイの知っている快活な雅の姿ではなかったが、夫が優しく介抱しているので安心した。


彼の優しさはカイも知っている。

任せておけば何の心配もないだろう。


しかし、あの中年太りしたビール腹はいただけない。 社会人の剣道大会で何度か団体優勝をしたといっていたが、今もちゃんとトレーニングをしているのだろうか。

あれでは犯人を捕まえられないだろう。


余計なお世話か……と苦笑いし、改めて彼を見る。

優しい目元は昔と変わらない。

やはり宏美は宏美だなとカイは懐かしく感じた。


宏美と雅を引き合わせたのはカイだった。

 警視庁への就職が決まった宏美が「彼女ができない!誰か紹介しろ!」としつこくせがんだのがキッカケだった。

 二人を引き合わせるのには少し躊躇した。二人ともカイにとって大切な人達だから上手く行かなかった時は、どうしようかと思った。それと同時に、自分が皆と同じ時間を歩めない事も、何処かで感じていた。

 だから、二人が上手くいってくれるなら、大切な人達が幸せに過ごしてくれるなら、カイにとってこの上無い事だった。


カイの目論見は当初頓挫したかの様に思えた。

 詳しい事は知らないが、雅が一度断ったらしい。そこから宏美が猛アピールをし、付き合い、結婚に至ったのだと、アオがメールで教えてくれた。


 今の二人を見て、揺るぎない絆がある事が見て取れる。あの日二人を引き合わせた事は間違いじゃ無かったのだと確信した。


 宏美と雅、娘を載せたリニア自動車がカイの前を走り去っていく。

カイは傘を前に傾ける。二人に気付かれ無い様に。


通り過ぎたリニア自動車をそっと見送った。




カイは、今からジパングへと向かう。


鬼が凶暴化し、事態は深刻化している。

世界が統合した事が起因している様だが、詳しいことはわかっていない。

ジパングの人々は「鬼に魑魅魍魎が取り憑いた」と言っているらしい。古い言い伝えに、そんな話があるそうだ。


鬼に殺され人の魂は魑魅魍魎に囚われ、天国にも地獄にも行けないのだと言う。


吉本の魂がそうなのだとしたら、何としても解放し、弔わなければならない。







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