消魂しい
「宮本様!お逃げください!」
突如襲ってきた鬼に、部下の片腕が食いちぎられた。
残った片腕で刀を抜き、気丈にも鬼と対峙する。
「……イイ、キブン」
鬼が喋りケタケタと笑い出す。
こんな事は初めてだ。
鬼は人語を理解はしているが、話す事は今の一度もなかった。
空には鯨も泳ぐ
先ほどの天変地異から、立て続けに怪異がおこっている。
吉本は杖に仕込んだ刀を抜き、片腕を失った部下の横に並ぶ。
酷い出血だ。
早くしなければ、長くは持たないだろう。
吉本は65歳で、世界管理機構から離職し、余暇をジパングを漫遊して過ごしていた。
中心世界との橋渡しとして活動し、ジパングでは「宮本」として出世した。
今は大老の位を将軍から授かっている。
老後の楽しみとして、部下を一人お供につけ、ジパングの各地を漫遊していた。水戸黄門の様な事を、まさか自分がするとは思ってもいなかった。
出来れば、中心世界の妻にもジパングの万年桜を見せてやりたかったが、娘の大学卒業と同じ年に病で逝ってしまった。
もう少し早く『PW08』の拡張が起こってくれていれば助かった命だったが、そんな事を言っても仕方がない。
娘は無事に結婚し、孫もいる。孫の顔を妻に見せてやれなかった事が悔やまれた。
ジパングには電波が繋がらないので、持ち込んだスマホの写真を見るのが楽しみだった。
中心世界とジパングの交流も増えた。
テクノロジーにジパングの人々も慣れているとは言え、流行りのフォログラム端末は、流石にジパングの人々には刺激が強いだろう。と言うのは建前で、吉本もスマホ位しか扱えない。
娘にはバカにされるが、吉本にはスマホで写真を見られる位のローテクが丁度よかった。
山道を通っている途中だった。
けたたましい鯨の鳴き声共に世界が揺れ、鳴き声がが収まったかと思うと、森から鬼が飛び出してきた。
今から思うと、鬼はいつも様子が違っていた。
見た目ではなく、纏う雰囲気がいつもより邪悪に満ちていた様に思う。獣的な動きではなく、こちらの裏を描く様な、いやらしい攻撃を繰り出してくる。
片腕を失った部下も決して弱くはない。
むしろ大老の護衛を任される様な手練れだか、いつもなら、圧倒している筈の鬼に、片腕をもがれた。
今も、吉本と部下をじわじわと痛ぶって遊んでいる。
距離をとった鬼が、爪をたて空を掻いた。
次の瞬間、部下が血飛沫をあげ、後方に倒れる。
鬼は爪で『空切り』をやってみせたのだ。
鬼の闘い方が明らかに変わっていた。鬼が技術をくししている。
鬼はケタケタと笑い、振りかぶった両手を振り下ろした。
吉本の身体が両肩から臍に向かい裂け、血が吹き出る。痛いと言うより熱い。コレはもう助からないと悟った。袖にしまったスマホが着信音を鳴らす。画面には『雅』と写し出されていた。
電波の繋がらない筈のジパングで、なる筈の無い着信が鳴る。
最後に奇跡が起こったのだろうか。
スマホが落下し画面が割れる。吉本は地面に倒れた勢いで指先が割れた画面にふれた。
《もしもし?おじいちゃん?桜だけど……
こっち帰ってきてるの?
ママが、敬老の日にご飯食べに行こうって言ってるの。何食べたい?》
薄れていく意識の中で、孫の声、声だけはハッキリと聞こえる。
……あぁ、悪く無い最後だ。




