それぞれに
天国と地獄
浄土と黄泉
ヴァルハラとヘルヘイム
スヴァルガとナラカ
ジャンナとジャハンナム
その他にもある、多くの信仰や思想……
数ある宗教での、その表現や位置付けは違うが、大きく分けるなら、共通項として良いだろう。
それぞれの宗教におけるソレらを、殆どの人は見た事がない。にも関わらず、在ると信じられるのは、無意識に信じたる根拠を持っているからなのではないか。
ここで、レセプターと言う概念が、その答えを教えてくれる。
ソレらの世界を私達は無意識の中で見て知っているのだ。だから信じる事が出来るのだ。
こう提唱し、世界から反感を買った。
信仰を愚弄された。と感じる人々が多かったのだ。
勿論、そんなつもりは無い。
私は一つの可能性を提示したに過ぎない。
ただ、それはアンタッチャブルだった。
しかし、今、この世界でソレらも又、統合される。
『揺れもしくは『歪み』
カイと長谷川と話している最中に起こった変動も、今は止んでいる。
長谷川は関係各所への連絡で部屋を出て行った。
人間がどうこう出来る問題でも無いだろうに……
カイは窓辺に立ち空を見上げて居る。
エヴァはカイの隣に立ち、同じく空を見上げる。
「何とも、勇壮じゃないか」
鯨が空を泳いでいる。
鎧塚は蝋燭の火が揺らめく、薄暗い広間の壇上から全体を見渡した。
眼下には、跪いた部下達が頭を下げている。
なんとも壮大な景色だ。
……しかし、この椅子は何とかならないのか。
鎧塚は木でできた椅子の肘掛けを指でトントンと叩く。
望んでいた椅子にやっと座る事ができた。
座ってみると何とも座り心地が悪い。
この椅子に座る為に、時間を費やし過ぎたのかも知れない。
「宿願が叶いましたな」
右隣に座る老婆は満足そうに笑っている。
「あぁ。いよいよだ」
左隣の老爺も同じように笑う。
『八咫烏』は最高位は神話に因み、同列に三席『右足』『左足』『真足』がある。
その上に常に空席の『神座』が存在する。
鎧塚は古希を過ぎても衰えない、自身の野心に苦笑した。
まさか『神座』をも欲するとは、自身でも思っていなかった。
どうしたものか……
この世界は鎧塚が見続けた世界にようやく至った。
ここまでに布石は幾つも置いてきた。
盤面は終盤に差し掛かっている。
あとは手順通りに石を置いていけば、鎧塚の思い描いた『詰み』だろう。
しかし「それで良いのか」と言う考えが頭をよぎる。
ここに来て又新たな野心が疼く。
盤ごとひっくり返てみれば次はどんな景色を見れるだろうか……
トプトプと黒い液体は止まる事なく、片翼のニケ像の折れた首元から流れ続ける。
地下空間の床面は黒い液体で満たされていた。
液体の表面がざわめき立ち、波紋がひろがった。
波紋の中心からゆっくりと『何か』がせり出てくる。
『悪魔』『魑魅魍魎』『クリーチャー』『怪物』『モンスター』……
『何か』を敢えて形容するならば『人外』だろう。
黒い液体は無数の波紋をつくり、その中心からは『人外』がゆっくりと形を成して行く。
『人外』の中に1人、青年が立っている。
「クソが……やっとか」
青年は『人外』と共に、黒い液体の中から現れた。
青年は自身を確かめる様に両手の掌を見つめる。
「オレは……」
自身の名前を思い出す。
長年誰からも呼ばれずにいると、自分の名前も直ぐに思い出せなくなっていた。
「そうだ……」
『ソラだ……」
「オレはソラだ」
青年は掌を硬く握り締めた。




