PW02-魔法の世界㉑
目を覚ました少女は、ボンヤリと部屋を眺めた。
おばぁちゃんはなぜ泣いているのだろう。
どこが痛いのだろうか。
「大丈夫?」
少女は小さな手で魔女の頭をなでる。
魔女、驚いた顔をした後、涙をぬぐう。
「すまなかったね。
私がこんな姿を見せちゃ、ルナを心配させちまうね。
ルナ、アンタは長い事眠っていたんだよ」
ルナは状況が飲み込めず、キョトンとしている。
アオは魔女につられて泣いていた。
状況から察すると、魔女は長いな間眠っていた孫であるルナを目覚めさせる為に、薬を作っていたのだろう。
「ルナちゃん、初めまして
よかった……
よかっだぁねぇ……」
今や魔女よりアオの方が号泣している。
おかしなもので、自分より感情がたかぶっている者が場にいると冷静になるものだ。
魔女は一息つくと、ルナにアオとカイを紹介した。
「アンタの為に薬の材料を集めてくれたんだ。
お礼をちゃんと言ったかな。」
ルナは、少し戸惑いながら魔女の袖を持って、アオとカイを見る。
「あ……ありがとう」
ルナは、銀色の髪か肩のあたりまで伸びている。キレイな髪がサラサラと揺れている。
ずっと眠りについていた割に、身なりはとてもキレイに整えられていた。
猫足のバスタブだけキレイだったのは、魔女が孫の身体を拭くために使い、手入れをしていたのだろう。
「おっと、アイツにも知らせてやらないとね」
そう言うと魔女は部屋の隅にある、紫水晶に近寄り魔力を込めた。、紫水晶が柔らかな光を放つ。
「ソレなに?」
やっと泣き止んだアオが、鼻をすすりながら魔女に問いかける。
「これかい。
コレは双子水晶と言ってね。
二つに分けて、それぞれが持っておくのさ。
片方に魔力を込めると、もう片方も光る性質がある。
まぁ、緊急時の連絡なんかに使うのさ。」
満月の光が、王座を照らしている。
皇帝は王座の隣に置いてある台座をみた。
紫水晶が淡く光っている。
待ち望んでいた連絡が、今やっときた。
これでもう、心残りはない。
肯定は視線を目の前に戻す。
「何か、吉報でも?」
鎧塚はピエロの様に笑っている。
「それで、其方は朕に、この後何をさせたいのだ。」
鎧塚は満足そうに頷く。
「そうですね。
今回のフォレス進軍は、兵士達の独断という事にして、『捕虜になっている全兵士の処刑』という所におつかせてもらいましょうか。
今回の進軍でもう少し、死人が出て欲しかったのですが……」
この男は何が目的なのだろうか。
そんな事は、もうどうでも良い。
命を長らえる理由は、もう無くなった。
「いや、今回の騒動は朕の首で収める。」
皇帝は手刀でトントンと自身の首を叩いた。
例えこの男に今この場で命を取られようと、従ってやる必要などない。
「おや、何か心境の変化があられたようですね。
しかし、困りました……
それでは私の目的が果たされない。」
スッと、蜂が窓からから入ってきた。
鎧塚が手を出すと、指先に蜂がとまる。
「ふむ……」
鎧塚は蜂を眺めて、少し思案している。
「まぁ、いいでしょう。
目的の半分は達成できた様ですし。」
「皇帝陛下、私はこれで失礼いたします。
是非とも陛下には覇道を歩んで頂きたかったのですが、それも叶わない様ですので……
また、機会がありましたら、その時は、どうぞ良しなに」
鎧塚は深々と頭を下げ、踵を返し扉から出ていった。
肩から力が抜ける。
背中を丸め、大きく息を吐いた。
こんな姿、配下の前では見せられない。
鎧塚……
あの男は、結局なにが目的だったのだろうか。
鉄格子が嵌め込まれた小さな窓から、月の光が差し込んでいる。
膝がズキズキと痛む。
添木で固定し、氷魔法で冷やしているが、少しの足しにもならない。
「鎮痛剤くらい、寄越せよ!
クソが!」
ソラは独房に収監されていた。
隣に収監されている雫は物音一つ立てない。
その内に、鎧塚さんが助け出してくれるだろう。
「あのカイとか言う奴……
次会ったら、絶対ぶち殺してやる!」
「良いね。その意気だ。」
壁の外から声が聞こえる。
「誰だ!?」
「えぇ?もう忘れたの?
それはちょっと、寂しいなぁ」
聞き覚えがある。
「ペタか!お前、勝手にどっか消えやがって!
早くここから出せ!」
「ソラさぁ、ずっと偉そうだけど、それ直した方がいいぞ。」
「五月蝿い!黙れ!」
「自分だけ逃げたく癖に、偉そうにどの口がいっていンだ……!」
壁越しに「はぁ」と溜息がきこえる。
「これから行く先で、その根性治るといいな。」
次の瞬間、ソラの周りに黒い光の粒が大量に現れた。
先が見えない程の密度で、黒い粒は蠢く。
「ブラックホール」
鉄格子が嵌め込まれた小さな窓から、月の光が差し込んでいる。
月の光は誰も居なくなった部屋を、薄らと照らしていた。




