PW02-魔法の世界⑰
精霊に魔力を与えて魔法を発動させると、精霊は消える。
そのタイミングはいつなのか?
魔法を使ったその瞬間か、魔法を使い終わったその時か。
答えは後者だ。
魔法の発動中も精霊はそこにいる。
では、魔法を発動させた精霊に、別の人間が新たに上書きをして魔法を解除する事は可能なのか。
理論的には可能だが、極めて不可能に近い。
精霊は、好みの魔力に集まる。
魔法を行使した際、行使した人間の魔力を好む精霊が集まるのだ。
最初から相性がよいからこそ、魔法が発動している。別の人間が割って入る隙など、最初から無いに等しい。
それならば、理論的に可能とはどう言う事なのか。
答えは簡単だ。
魔法を行使した人間よりも『より精霊が好む魔力』を与えれば良い。
ただ、上書きが出来るほど精霊に好かれる人間などそう居ない。
理論的には可能で現実的に不可能なのは、そう言った訳だった。
その、極めて不可能に近い事を、アオはやってのけた。
水獄に閉じ込められて暫くたった。
もぅ息が続かない。
目の前が暗くなり、意識が遠退く。
暗がりの中に、薄い水色の光の粒を感じた。
今、水獄を発動している、水の精霊達だとわかる。
精霊たちはアオの周りに集まってくる。
優しく何かを語りかけて来ている様な、そんな感覚がした。
「あなた達、私をここから出してくれるの?」
意識の中で語りかける。
次の瞬間、アオを取り囲んでいた水の球体は地面にバシャっと落ち、水溜りへと姿を変えた。
アオは水の精霊に魔法の上書きを行ったのだ。
水溜りの水は、今度は雫へと向かい飛んでいく。
手足に纏わりついたかと思うと、瞬時に凍り、雫の身体の自由を奪う。
アオは両足に風魔法で小さな旋風を纏わせる。その勢いを利用して、一気に雫との間合いを詰める。
雫は一連の出来事に驚き、状況の把握が遅れた。
アオは流れる様な動きで雫の背後を取り、雫の背中から風魔法を浴びせた。
加減したつもりだが、あまりうまく行かず、かなりの衝撃が雫に走る。
そのまま地面に突っ伏した。
気管に入った水のせいで咽せながら、アオは雫を後ろ手に拘束した。
「ヒヒヒ…
いい物見れたよ。
小僧だけかとおもったが、なかなかどうして……」
グリンの魔女がゆっくりと降り立った。
風の壁は消え去っていたが、兵士たちはオロオロとしているだけだった。
どうも、この行軍自体、何か違和感がある。
明確な意思が感じられない。
「こーさん」
ペタは両手をあけ退屈そうに上げた。
カイは、ペタの言葉の意味が直ぐにはわからない。
「こーさん」とは「降参」の事なのだろうか。
これだけの事をしておいて、こんなにもアッサリと、降参できるのか……
「はぁ!?ふざけんな!」
膝を抱えて、蹲りながら、ソラはペタを睨み上げた。
「鎧塚さんからの使命はどうすんだっ!」
ペタは本当にどうでも良いと言った感じで溜息をつく。
「だってさぁ……
ソラくん、そんなだし。
雫さんも捕まっちゃって、もう詰んでんじゃん」
「折角、なんか面白そうな事起こりそうだったのになぁー」
ペタは大きく伸びをした。
この男は本当に飽きたようだ。
「これだけの事をして、それで帰れるわけないだろ!」
「てか、ジュロン達はどうすんだよ!」
ペタはピクリと眉毛を動かした。
「よろしく言っといてよ。」
そう言うとペタは一人で何処に向かうつもりなのか、消えてしまった。
カイは別にゲンとは違い警察では無い。
ペタを追いかけて捕まえる必要は無い。
釈然としない気持ちで、ペタが歩いてくのを見逃した。




