PW02-魔法の世界⓭
ヒヤリとした汗が頬を伝う。
喉が乾いてうまく唾を飲み込めない。
ロッズ帝国の帝王となったのは16歳の時だ。
若王として侮られるぬよう、対立するものは全て薙ぎ払った。
血肉を分けた親兄弟であろうと、容赦などしなかった。
それが、どうだ。
今、目の前に立つ少年を恐れている。
少年の足下に横たわる宰相に目をやる。
既に事切れていた。
少年が通った道に兵士たちの屍が転がっている。
突如現れた少年が、何かをしたのは間違いない。
しかし、それが何かわからなかった。
魔法には間違いないが、それを形容する言葉を知らない。
「ンだよ。帝王とか言う割にビビってんじゃん。」
少年は宰相の顔を踏みつける。
「こらこら…
亡くなられた方に失礼な事をする物じゃないですよ。」
通路の奥から、木の靴底を鳴らして、男が現れた。
少年は男に嗜められ、足を退ける。
もしかしたら今来た男を味方にできれば、状況がかわるかもしれない。
「わかった!お前達が何者かは知らないが…
どうだ、朕の側へこぬか!?
厚遇は約束する!」
「『世界の半分をやろう』ってか?
使い古されたネタこすってンじゃねぇよ!」
男は少年の肩に手をおく。
「そう言う言葉、違いは好きじゃありません。」
穏やかな口調だが、威圧感がある。
少年はビクッとし「わか…り…ました。」と応じる。
やはり、この男が力関係が上の様だ。
「どうだ!本当に帝国の半分を任せても良い!」
ここで命を落とすより、そちらの方が余程良い。
やらなければならぬ事が、まだまだ在るのだ。
何としても生き延びねばならない。
「いぇね、皇帝陛下におかれましては、その様に小さく纏まっていただきたくない。」
この男は何を言っているのだろうか。
男は満足そうに頷くき、また話し出す。
「陛下、是非この大陸を総てください。
初代皇帝の再来と称される陛下には、是非覇道を歩んでいただきたい。」
こんなにも乱暴に侵入し、自分の命など直ぐにでも取れる状況から、予想外の提案だ。
思考が追いつかない。
「この子の他にも、数名、陛下のお力になれる者を手配いたします。
この大陸を、手中へ収めて下さい。」
「それで、其方は何を望むのだ…?」
交渉などではなく、この男の事が全く理解ができず、気がつけば質問をしていた。
この状況で自分が答えるべきは、是が非かだ。
それ以外の答えが愚行である事を、皇帝として君臨してきた自分は知っている。
「それは事を成してからお願いする事にします。」
男は笑う。
底の見えないこの男に、従う以外の選択肢は無かった。
「わかった。其方の言う通りにしよう。」
男はまた満足そうに笑い頷く。
「良かった。
良い関係が築けそうですね。」
男は近づき、右手を差し出す。
相手から敬服以外の挨拶など、今までした事が無い。
今まで必死で守っていた物を、こんなに簡単に手放せる自分に少なからず驚く。
少しの躊躇いも今些事だ。
男の手を取る。
この男の笑みは、貼り付けた様な仮面の様な印象をうける。
その下にあるモノを、敢えて知る必要はないだろう。
「私は鎧塚と申します。
陛下、以後よろしくお願いいたします。」
「ほら、君も自己紹介なさい。」
鎧塚は振り返り、少年に促した。
「ソラだ。」と、吐き捨てるように言い放つ。
自分もソラと同じ頃に皇帝になった。
あの頃、膝をつかせた大人達はこんな気持ちだったのだろうか




